2015年4月16日木曜日

大塚家具の騒動はどう見るべきだったのか

 日経の「私の履歴書」の似鳥昭雄氏があまりに面白いので、やや皆の記憶から薄れつつある大塚家具ですが、一連の「父娘の対立」が話題を呼んだことで、わしみたいに近鉄電車の広告でiDC大塚家具という名前は知っていたものの行ったことはなかったタイプの人間が、実際に一度足を運んで見ようかという気になり ~完全な興味本位ではあったものの~、行ってみると何だか高級そうなお店で、家具には値段が明示されておらず、目を凝らしていると店員さんがどこかからやってきてセールストークを始める、みたいな、要はやっぱりちょっと自分が買えるような店じゃないのかも・・・と自覚させてくれるような体験をされた方は多かったのではないでしょうか。

 元社長で創業者の父親は、自分が築き上げた「高級路線」「丁寧な接客」を突き詰めようとし、立派な学歴を持つ愛娘は、それを時代に合わぬものとして否定しにかかる。このわかりやすい対立について、実にさまざまな立場から、多くの批評、論評がなされました。
 しかし、今月の「商業界」で、サトーカメラの佐藤勝人専務が書いていたコラム ニッポン勝人塾「大塚家具の親娘ゲンカから学ぶこと」が、実に的を射た内容だったので紹介してみたいと思います。(ただし、今その号が手元にないので、わしの記憶に不確かな部分があるかもしれません。あらかじめ謝っときます。)


 佐藤さんは、大塚家具の父娘対決を「古い価値観から脱せない父親と、経営革新にチャレンジする若い二代目」という構図で見ることは間違いなのだと言います。
 むしろ、偉大な父親を全否定し、がむしゃらに自分のやり方を貫こうとした娘のほうに否を唱えるのです。なぜか。

 それは、埼玉県春日部市の桐たんす店に過ぎなかった大塚家具を、全国の大都市に支店を構えるまでに成長させた父親は、客観的にどう評価しても偉大で稀有な経営者であることは間違いないからです。
 結婚して新しく所帯を持つ夫婦が、新生活のための一生ものとして良い家具を買う。あるいは、嫁入り道具として嫁ぎ先の親族に恥ずかしくない立派な家具を買う。
 日本が高度成長を遂げ、まだ若々しい希望に満ちていたときに確立した婚礼家具のビジネスモデルは、顧客のリスト化と、その個人個人の生活水準にあった家具を店側が提案するスタイルに進化し、大塚家具は家具販売業界において一つの頂点を極めました。

 時代の趨勢と共に、いくら立派なビジネスモデルでも陳腐化は避けられませんが、娘さんが主張するように、それはまったく否定しつくされ、全面的にやり直さなくてはいけないものだったのでしょうか。

 佐藤専務は、そうではなく、ニトリやイケアなどが割拠するリーズナブルな家具の世界こそがレッドオーシャンなのであって、大塚家具がわざわざ自分の強みを捨ててこの世界に転身することは非常に危険なのだと指摘します。
 そして、こうも考えます。
 そんなことは、つまり低価格とファミリー向けにターゲットを変えることは、偉大な経営者である父親はとっくの昔に思いついており、それも選択肢に入れて充分に吟味したうえで、やはり高級路線を取り続けようと決断したはずだと。
 
 なので、もし娘が父親の路線は古いと主張するなら、まず社内ベンチャーを立ち上げて低価格の新しいお店を作り、そこで仕入れと販売とアフターサービスで実績を積み重ね、実際に繁盛させることができたなら、父親に対しても説得ができ、本体である大塚家具の経営路線も転換させることができたであろうと。

 そうしない娘のやり方はあまりに性急であって、必ずしもこれから先、うまく行かないのではないか、というのが佐藤専務の見立てです。

 もちろん、このコラムは、大塚家具の争いを冷やかしたりする内容ではありません。
 現在、日本の中小企業に関する最大の課題の一つは、後継者の不足、親子での経営路線の対立といった「事業承継」の問題です。
 日本の企業の圧倒的大多数は小規模企業(従業員5人以下の商店や、20人以下の工場)です。そしてそのまた圧倒的多数は同族経営の、いわゆる家族企業です。
 グローバル化の影響で小規模企業といえども競争はし烈となり、その一方で人口減少により市場規模が縮小し、顧客の高齢化や価値観の多様化で市場は成熟していく中、どのような経営路線を取るべきなのかは家族経営の企業にとり大きな問題です。
 必然的に親子の対立、世代間の食い違いは表面化するのですが、多くの場合、この対立をどう前向きに収斂していくかの方法論を経営者たちは持ち合わせていません。これは大企業たる大塚家具でも同じことでした。

 その時、ただ単に古いやり方を批判するだけではなくて、実際に新しいビジネスを「試し」にまずやってみることが大事なのだと言います。後継者側にそうした挑戦のプロセスがなくては、事業承継(路線対立)はいつまでも解決しないでしょう。
 
 ちょうど株主総会の直前あたりから盛り上がってきた大塚家具論争ですが、この商業界のコラムのように中小企業(零細な家族企業)の事業承継の視点から掘り下げた論点はほとんど見かけませんでしたのでメモしておきます。  

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