2015年4月30日木曜日

【読感】福井モデル(その1)

 何かと話題になる全国学力テストですが、その成績が常に上位、トップか、第2位か、あたりの常連となっているのが福井県です。学力テストの成績下位の府県は、自習や宿題を課して児童生徒の自発性や問題意識を鍛える、福井モデルともいうべき独自の教育指導法を学び取ろうと血眼です。
 他にも福井県は2011年の都道府県幸福度ランキング第1位、勤労者世帯の実収入第1位(2010年)と輝かしい地域特性を有しており、「精神的にも経済的にも豊かな県」である証左となっています。

 これらのほかにも、生活保護受給率の低さ第2位、高校生の就職内定率第2位、共働き率第1位、正社員比率第1位、持ち家率第3位、保育園収容定員比率第1位、人口10万人あたりの書店数第1位、などなど、知的で、就労機会が豊富で、子育て支援も手厚く、女性の就業率も高い、したがって若い夫婦も子育てしやすい環境であることを示すデータが多く出ています。

 経済成長は望むべくもなく、少子化・高齢化は否応なく進み、東京への一極集中と地方の疲弊が進む日本。いわば八方ふさがりの中で、さらに「消滅可能性都市」なるキーワードで危機感をあおる増田レポートが登場したことにより、このように素晴らしい福井県を全国民は見習い、未来の日本を開く処方箋である「福井モデル」を横展開すべきである、という意見が声高に叫ばれても不思議ではありません。
 この本、福井モデル 未来は地方から始まる 藤吉雅春著(文芸春秋社)も、趣旨はそのような内容であり、「日本のシリコンバレー」であるという福井県鯖江市の取り組みや、福井県の小中学校での教育実態を紹介しているルポルタージュです。


 わしは、雑誌フォーブスジャパンの副編集長であるという著者の藤吉さんのことは知りませんでしたが、福井特産の織物をデザインに使った装丁に目を引かれ、パラパラ立ち読みしたら面白そうだったので購入したのですが、知らなかったことがたくさんあって大変勉強になった反面、よくわからない点、疑問点もいくつか残ったのでメモしておきます。

 まず、この本は福井モデルというタイトルで、確かに内容の多くは福井についてのことですが、実際には冒頭の部分で、大阪(市、府)の衰退についてや、京都は明治遷都の衰退を経てどう再生したかの分析にかなりのページが割かれています。
 藤吉さんによると、大阪は衰退に直面しても具体的な対策がとれなかったのに対し、京都は「繁栄のピークはもう終わって、それをもとの形に戻すことはできない」とこを深く自覚し、新しい血、つまり若い才能を呼び込み、ベンチャーを立ち上げ、それを地元も支援する、という「自己組織化」を行うことができました。大学生のような「よそ者」を寛大に受け入れ、活躍を応援することで古い人たちも含む町全体が活性化できたのです。
 京都は東京遷都によって旧来の体制が崩壊しました。もうこれ以上はひどくならない、堕ちるところまで堕ちた、という「底付き体験」を共有できたからこそ、あとははい上がるしかないと町全体が一致団結することができたというのです。

 では、福井も何らかの「底付き体験」によって自己組織化できたという話になるのかと思ったら、本書の第2章は福井県の隣県にある富山市のコンパクトシティ―構想の話になります。
 たしかに富山市はまちづくり分野では日本の最先端であるということができます。人口が減少していく中、インフラ維持に費用がかかる都市の郊外拡散をこれ以上継続することは困難です。しかし、土地の開発利害や住み慣れた故郷への愛着は住民にとって強固なもので、理屈ではコンパクトシティーしか選択肢がないことは自明でも、なかなか行政当局が住民利害を調整することができません。しかし、富山市は森雅志市長のリーダーシップによってコンパクトシティ―の構築に取り組み、成果も生みだしつつあります。
 藤吉さんによると、優れたまちづくりは(森市長が実践しているように)市民の危機感は必要ですが、長期的なビジョンと、さらに、住民自身の手でまちづくりが進むような行政の仕掛けがセットのなっていることが重要です。
 このような良い仕掛けと、綬民たちの郷土愛(シビック・プライド)が相俟った、まちづくりやまちおこし、中小企業による経営革新の事例もいくつか紹介されます。

 そして、ページ数にして本の半分ほど、第3章になって、やっと福井県鯖江市の話が始まります。前ふりとしては長すぎるので、福井モデルって、一体なんだろう。福井というか、福井も富山も、場合によっては石川も一緒くたになった「北陸モデル」という展開なのだろうか、と疑問がよぎります。

(つづく)

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