2015年5月1日金曜日

【読感】福井モデル(その2)

承前 【読感】福井モデル(その1)

 第3章め、119ページからやっと本格的に福井の話になります。しかし、福井市ではなくて鯖江市の話です。
 鯖江市は言わずと知れた「メガネの街」であり日本最大のメガネ産業の集積地ですが、昨今は漆器や織物といった伝統的産業のほか、メガネ製造技術を起源に持つ表面処理や微細加工といった金属加工産業、さらにIT産業でも注目を集めています。
 人口数万人の地方都市に過ぎない鯖江市の産業が、なぜこんなに元気なのでしょうか。
 著者の藤吉さんによると、そもそも住民の(経済的な)独立意識が強い風土と、地域全体で起業家や経営者を支えるオープンイノベーションの意識が根付いているからです。これは、明治時代に地域経済振興のためメガネ産業を移入したときから見られ、技術教育制度を整えて多くの職人を育成することと、職人がある程度ひとり立ちできるようになったらのれん分け(独立起業)を奨励し、多くの小企業で切磋琢磨して全体を底上げしようという意識が強かったとのことです。
 このような歴史もあって、鯖江では、ビジネスのアイデアを地域の中で具体化する ~企業同士、あるいは県内の大学や研究所と連携して~ オープンで内発的なイノベーションが活発に創発されたのです。


 その具体例として、いくつかの中小企業の事例が紹介されます。漆器にしろ、織物にしろメガネにしろ、普通に考えると成熟産業で革新の余地は少ないはずですが、新たな用途開発、産学連携による技術高度化、自立化(自社ブランド化)などに取り組み、その分野でのトップシェア企業や、日本のオンリーワン企業になっているところも少なくありません。
 自立意識の高い経営者だけでなく、行政(市役所)の姿勢もユニークです。牧野百男市長のリーダーシップと、企業や住民の声を市政に取り入れ、市役所職員も巻き込んでいく手法には括目すべきものがあります。
 わし的には、この第3章がクライマックスでした。

 第4章(最終章)は、もうかなり有名になっている、小中学校の教育現場での独特の実践方式である「福井モデル」の紹介です。詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、福井県が教育熱心であるのは、かつて(室町時代後期。今から数百年前)、越前で勃興した一向一揆が権力に弾圧され、一向宗の僧侶や信者たちが散りじりになった結果、草の根で信仰を守る活動として、今でいう学校のような「道場」が県下各地に浸透した歴史があるからということだそうです。 
 江戸時代も福井藩は藩士の教育に熱心だったことで有名で、多くの人材を輩出しているそうですから、もうこれは、教育熱心さに関しては他の府県と年季の蓄積が違うということになります。
 三重県もそうですが、全国学力テストの成績下位県はこぞって福井モデルをベンチマークしていますが、成績順位に関してはひょっとしてリカバリーは不可能で、無駄な努力なのではないでしょうか・・・

 本書では、最終章の最期に「まとめ」という章があり、「福井モデル」とは何かについておさらいされています。この、まとめに限らず、藤吉さんは雑誌記者やライター経験者のためか、文章が非常に読みやすく、ポイントが整理されている点は素晴らしいと思います。学者や官僚の悪文を読む機会が多いわしにとっては大変ありがたい本だったことは前置きしておきます。

 で、藤吉さんによると「世界に通用する」福井モデルとは以下のような特長を持つものです。
1)女性も羽ばたく「一緒にやろう経済」
2)日本一早い「自発教育」
3)地域まるごとインキュベーター
4)町を動かす「市民主役事業」
 1は、最近にわかブームとなっている少子化対策に先立ったいるものといえるかもしれません。三世帯同居が多く、母親は充実した保育支援を活用し両親にも子育てを手伝ってもらいながら共稼ぎすることもできる。このため世帯所得も高いし、子供をもっと設けようとも考える。というサイクルです。
 2は教育の福井モデル。3は地域の産学・産産連携によるオープンイノベーション。4は富山市(福井県じゃないけど)や鯖江市の市政における市民参加。
 これらが絡み合っているのが「福井モデル」ということができます。

 繰り返しますが、福井県はさまざまな生活指標で上位を占めています。この良いところを学ぶことは三重県でも、どこの県でも必要でしょう。
 また、藤吉さんもところどころで書いているように、凡百の府県、市町村が地域経済活性化のために取り組むのはまず企業誘致ですが、これがもはやほとんど有効性のない遅れた政策であることはその通りだと思います。ニューカマーよりも、今ある地元の中小企業を育てる「エコノミックガーデニング」が地域経済政策の主流であることは、関係者のコンセンサスと思います。

 一方で、福井モデルへの疑問点も湧いてきます。いくつか書いてみると。
・福井県といっても広いので、鯖江市以外の市町村でも、福井モデルはうまく行っているのでしょうか?。本書は福井モデルというより「鯖江モデル」というべきもののような印象が強いことは、率直に感じます。
・女性の就業率が高く、出生率が高いことは賞賛すべきですが、逆に言えば、昔ながらの大家族主義、家中心主義の思想が生き残っている結果とも考えられます。
・正直言って、福井県の経済を支えているかなりの部分は電源交付金です。福井県の電源立地市町村に行くと、巨大なホールやグランド、壮麗な庁舎などに度肝を抜かれます。誤解を恐れずに言えば、電源と隣り合わせの経済的繁栄は非常にリスキーな気がします。この問題について、この本はまったく触れていません。

 わしの読後感としては、福井モデルの定義の1~4とも、地味で、息が長い取り組みとならざるを得ないであろうことです。今の少子化対策ブーム、地方創生ブームは、何らかの理由で政権が代わればたちまち冷え込み、忘れられてしまうかもしれません。もしそうなっても、ブレずに、おもねらずに、愚直に子育て支援や義務教育の質の確保、中小企業の支援は続けなければいけません。実は、福井以外の全国の地域ではこの当たり前の、地味で愚直な取り組みができなかったために、出生率は低く、学力テストの成績は振るわず、中小企業には元気がない、と考えられるのです。要するに、日々の積み重ねということではないでしょうか。

(はんわし的評価 ★★☆ おすすめ)良質な現場ルポ

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