2015年5月20日水曜日

国税庁に楯突いた代償?

 タイムリーな話題が深堀されており、何より無料で読めるのがありがたいダイヤモンド・オンラインですが、5月19日付けの 「極ゼロ」酒税戦争で 国税庁に楯突いたサッポロの代償 という記事は納得できないものでした。というか、ジャーナリズムとして不可解な立ち位置から書かれたと感じざるを得ません。
 この記事は、ビール大手のサッポロが、いったんはいわゆる第3のビールとして発売していた「極ZERO(ゼロ)」なるビール系飲料について、製造法を調べてみると第3のビールでなく、それより税率が高い「発泡酒」に当たると国税庁から指摘を受け、サッポロが差額分の酒税を国税庁に自主納付したという、昨年起こった騒動についてのものです。
 自主納付の後、サッポロが再度社内調査を行ったところ、やはり極ZEROは第3のビールに当たるとの判断に至り、今年1月、サッポロは国税庁に対していったん納付した酒税を返還するよう要求を行いました。
 これに対して、4月28日、国税庁から「酒税は返還しない」との回答があり、このダイヤモンドの記事は次のようにこの顛末を分析します。



・第3のビールの製造法の一つが、「発泡酒」に蒸留酒を加えるという方法。この場合の発泡酒は、麦芽などを「発酵」させて作っていることが必要条件となる。
・そもそも今回の紛争の根源は、この「発酵」をめぐる見解の相違にあったようだ。国税庁は「極ZEROは発酵が不十分な段階で蒸留酒を加えており、(発酵が必要条件な)第三のビールではない。」と指摘。これに対してサッポロは「発酵と判断できる根拠を示すべき。」と牙をむいた。
・発酵とは何か、は出口のない「神学論争」である。酒税法にも発酵状態を判断する定量的な基準は示されていない。
・神学論争となれば、酒類業界の監督官庁たる国税庁が有利なのは自明のことだ。サッポロの抵抗むなしく、国税庁は、発酵は不十分という姿勢を貫き、要求を突っぱねた。
・このバトルに終止符を打てるのは裁判しかないが、サッポロが提訴はしないとみられている。国税庁に目を付けられると、ささいなことでも査察に入るなど、営業活動がやりにくくなるからだ。

 そして、この記事は
 サッポロがのろしを上げたことで、国税庁が牛耳る酒税法上のグレーゾーンがあらわになった意義はある。しかし、その代償は115億円と国税庁との友好関係。サッポロが失ったものはあまりにも大きい。
 と結論付けます。
 国税庁に対して不服を申し立てたサッポロは損得勘定ができない馬鹿者で、長いものに巻かれなかった姿勢を批判するのです。(ダイヤモンドオンラインへのリンクはこちら

 このような記事の姿勢は、比較的、合理的な視点で記事を書くことが多い経済専門誌にしては珍しいと言えるかもしれません。
 日本はただでさえ政府による社会主義的な経済統制が強い国です。企業がイノベーティブな新商品の開発や新サービスの提供を始めると、「法の抜け穴を突いた」とか「新手の」といったようなネガティブな評価がまず下されることが多く、イノベーターたちは行政の執拗なイジメに合って大変な苦労をする歴史だったことは、初めて宅急便を始めたヤマト運輸の小倉昌男氏がその著書「経営学」の中でも繰り返し書いていますし、他にもよく似た事例は枚挙にいとまがありません。
 そんな中で、経済誌の一般的な論調としては、企業によるチャレンジや革新には好意的だし、不透明で時として不条理な政府や自治体の規制やアンチビジネスな姿勢には批判的であることが多いものです。ところが、この記事はそうではありません。不思議です。

 このブログでも時々書いていますが、経済を成長させるための方策として、世界の定説となっているのは減税と規制緩和です。日本ではいまだに政府が「成長産業」を決めて、企業をその分野に誘導するために補助金を出したり、優遇税制を行う、いわゆるターゲット戦略が多いのですが、これはもはや時代遅れな政策であり、ここ20年間失敗の連続であったことは自明です。
 遅々として進まない規制緩和ですが、その一方で、世界から日本の経済政策の中でわりと評価されているのが「企業のガバナンス」の強化策です。
 社外取締役を増やすなど、経営の意思決定過程を透明化する取り組みが日本企業では遅れており、それゆえに海外の投資家は日本の企業に投資しようとしません。国際競争が激しくなる中で、多くの資金が必要となる局面において、日本企業が投資先として選ばれるためには透明な経営が(もっと言えば合理的な意思決定が)不可欠なのです。

 今回の国税庁の判断は不透明です。政府によるこのような恣意的な判断と、それに左右され振り回される日本の企業に対する信用度も決して向上はしないでしょう。これは日本経済全体の利益を損ねることです。
 ところが、ダイヤモンド編集部はそう考えないようなのです。この姿勢はジャーナリズムとして正しいのでしょうか。それとも親切と思って「ビール屋ふぜいがお上に楯突くな」と処世術を訓示してくれているのでしょうか?
 

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