2015年5月23日土曜日

結局、エスカレーターは一列なのか二列なのか?

 このあいだ名古屋の地下鉄に乗った時、「エスカレーターの上を歩くのはやめましょう」みたいな内容のポスターが、ちょっと尋常でないほどの大きさになって、上り下り、それぞれの手前の壁面に張り付けられていました。
 名古屋市営地下鉄に関しては、わしの記憶ではおそらく一年以上前から、エスカレーターは二列に並んで乗りましょうという趣旨の掲示がされていましたが、お願いの姿勢は何となく控え目な印象で、何が何でも二列乗りを強制しようという意気込みは感じられませんでしたが、その姿勢が急に硬化してきたのかもしれません。
 地下鉄の車内には、顔が名古屋城のシャチホコで、胴体が駅員の制服という、あんまり可愛くない交通局のゆるキャラ(名前知らない)の中づり広告がつるされていましたが、それによると
・エスカレーターはそもそも上を歩くように設計されておらず、歩いて上り下りすると衝撃で故障する原因になる。
・移動しているエスカレーターの上をさらに歩くのは転倒の原因になる。
・立ち止まっている人と接触事故を起こす原因となる。
・手が不自由などの理由で、片方の手摺しか持てない人がいる。
・エスカレーター上で立ち止る人は(名古屋では)左側に乗ることから、乗り場の付近が混雑する原因となる。
 などの理由があり、このため、エスカレーターの片側(右側)は空けて、そこは歩く人が通る、という乗り方はやめましょうと呼びかけていました。
 しかし、思い起こせば、片側を空けるという今のエスカレーターのルールは、せいぜいここ25年ほど前に広まったものです。もともとは日本中で誰もこんなことはしていませんでした。

 ちょうどそのころ日本はバブル経済で景気が非常によく、資産価値の上昇で「成り金」的な小金持ちが至る所に生まれていました。
 彼らはニューヨークなど海外の高層ビルや老舗ホテルなどを買いまくり、ブランド物の化粧品やバッグ、時計なども買いまくり、世界中の観光地に出没して立ち入り禁止の場所に傍若無人に立ち入って写真を撮り、旅の記念だと言って名所旧跡に落書きしたり、ホテルの備品を盗んできたりしていました。まるで大挙してやってきて「爆買い」していくどこかの新興国みたいですが、日本もかつては通って来た道なのです。

 当然、アメリカやヨーロッパなどの「先進国」は苦々しく思っていたでしょう。しかし同時に、海外に積極的に出ていくようになった日本人の側も、諸外国に比べていかに日本の公共マナーが遅れているか、不合理かを痛感する機会が増えることになったのでした。
 たとえば、お店や銀行などの行列の際の「フォーク並び」がそうでしたし、典型的な例がこの「エスカレーターは横を一列空ける」というマナーだったのです。先進国の国民はさらりとこんなふうに身をこなしていたのです。

 それまで日本のエスカレーターには乗り方のルールなどはなく(頭をはさまれないようにとか、スリッパを巻き込まれないように、という注意事項はありましたが)、好きな側に好きなように乗っていたし、別にそれで文句を言う人はいませんでした。そもそもエスカレーターに乗っていながらさらに歩く人などいなかったのです。そんなに急いでいるなら階段を登ればいいことです。

 しかし、外国に当てられた人々にはこの無秩序が許せませんでした。当時のテレビ番組もエスカレーターは急ぐ人のために片側を開けるのが「世界の常識だ」と喧伝していましたし、当の鉄道会社やデパートなど自身が、いつしかそれを推奨するようになってきました。名古屋の地下鉄にもそんなポスターがあったと記憶します。
 それでも、このルール(というかルールチェンジというべきか)が本格的に普及するには数年かかったでしょうか。地方でも定着するようになったのは間違いなく平成に入ってからです。

 ところが、これでやっと日本も先進国並みの成熟した公共マナーになったと思ったら、今度はそれをやめようというのです。
 やめようという理由はもっともですが、これも本格的な社会ムーブメントになった時点から、やはり25年はかかると見たほうがいいのではないでしょうか。ましてや律儀な日本人です。急いでいる人を先に送ってあげようというのは社会の共通認識なので、それが果たしてあらたまるのか、今となっては難しいような気もします。日本人は他人と比較されるのが嫌いなので、やはりよく調べたらアメリカやヨーロッパでも今は両側に乗っています、とか、片側を空けて乗っているのは中国くらいです、と宣伝すれば、効き目はあるかもしれません。

■一般社団法人日本エレベーター協会
    http://www.n-elekyo.or.jp/instructions/escalator.html  

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