2015年5月25日月曜日

「ものづくり」に感じる違和感はなぜか

 以前このブログで、木村英紀氏の著書 ものつくり敗戦(日経プレミアシリーズ) を取り上げたことがあります。
 木村さんは制御工学の専門家として大学で長年教鞭をとっておられた方ですが、日本人の多くがなんとなく信じている、日本の製造業は優秀で技術が高く、製造業を復権すれば停滞する今の現状が打破できる、といったような過剰な思い込みが氾濫していることにこの本で警鐘を鳴らしました。
 その中に、「ものつくり」(わしは「ものづくり」と表記していますが、内容は同一のものです)という言葉に対する違和感への記述がありました。かいつまんで書くと以下のような趣旨です。

・ものつくりという大和言葉(日本古来の発音)の柔らかい語感は魅力的であるが、日本を救う打ち出の小槌のように、ものつくりに頼り、すがる人が多いのは大いに気になる。
・その人たちにとって、ものつくりは日本人の天職であり、生きる道であり、日本の誇りである。戦時中に流行った「大和魂」という言葉さえ連想させる。
・日本のものつくりの強さが語られるとき、そのほとんどがハードウエア、それも量産技術である。
・しかし、量産というよりは一品料理の世界である宇宙や原子力、航空機、防災、放送通信、金融サービスなどの分野では、日本の技術力は高い評価を得ていない。まして、付加価値が作られる最大の場となったソフトウエアの分野で日本はまったくふるわない。

 そして、本来は特別な意味を持っていなかった「ものつくり」という言葉が日本人の特質にまで高められたのは、第二次世界大戦の敗戦後ゼロから出発し、短期間で世界第2位の経済大国を築きあげた高度成長期以来の成功体験が実感の裏付けを与えているからであると分析します。
 そしてこの「追いつき追い越せ」の成功体験に安住して、世界の製造業のトレンド変化を見ようとしないのは、日本の第2の敗戦につながるものとして、その対策をさまざま提言しています。

 非常に有益な本なのでぜひご一読をおすすめしますが、この本が出版されて5年近く経った現在、「ものづくり」は完全に市民権を得て、ただ単に工業とか製造業と言えばすむ場面でも、わざわざあえて「ものづくり」とか「ものづくり産業」と強調される場面は枚挙にいとまがありません。

 実際の行政の現場では、自動車、家電といった木村さんが言う「量産型」の製造業以外にも、寿司やスイーツのような食品産業、陶磁器や木工品といった伝統工芸品産業、家づくりなどの建築業や土木業、などまで広く「ものづくり」と言われており、裾野が広い反面、非常に焦点が定まりにくい言葉となっています。
 確かにこのことは、「ものづくり」という言葉自身は特別な意味を持っておらず、ある種のイデオロギーや意図(多くの場合、それは職人技などに対する優位性、優越感なのでしょうが)を盛り込むことで特殊な用途、ニュアンスになることも示しているように感じます。

 で、ここからが今日の本題です。
 このように、わしは日ごろから「ものづくり」という言葉には違和感があって、その理由は木村さんの言うようなことなのだとろうなあ、と何となく思っていたのですが、先日、ダイヤモンドオンラインで、有名ブロガーのちきりん氏が、連載コラム「マーケット感覚を身につけよう」の中で、なぜ、亀山ブランドは失敗し、ヨガは大きな市場になったのか?について対談している記事を読み、やはりなぜ「ものづくり」に違和感があるのか、マーケターの立場からの説明を聞いて、なるほどと感じたのでした。

 詳しいやりとりはダイヤモンドオンラインをお読みいただきたいのですが、この中でマーケターの代表としてLINE株式会社上級執行役員の田端信太郎が言う内容は、まさに目からウロコです。

 田端氏は言います。
 マーケットにおける価値って、他者から認められる相対的な価値しかなくて、絶対的な価値なんてどこにもないんですよね。だけど日本って、「心をこめてつくったものには価値があるはずだ」って考えてる人が多い。これ、マルクスの労働価値説からきてるんでしょうか。
 
 日本のメーカーが、丹精込めたものには価値があるはずという価値観であることは「ものづくり」という言葉でも明らかだと説明されます。
 ちきりん氏は、これを「コスト積み上げ型発想」と呼んでいるそうです。時間を何時間かけたとか、全社一丸となって取り組んだとか、プロセスやインプットの量をメーカー側は強調します。しかし、いくら手間を掛けてもマーケットの求めるものと乖離してしまっては意味がありません。
 マーケットとはアウトプットの価値を取引する場所なので、メーカーは価値あるインプットがなされた商品やサービスであることを、アウトプットを受けとる側の目線にたって、その価値をどうすれば伝えられるかまで考えられていなければならないのです。
 それがうまく伝わらなかったケースが、この対談の本論であるシャープの液晶テレビ「亀山モデル」の失敗です。
 このあたり、非常に示唆に富む内容なので、「ものづくり」に違和感がある方もない方も、やはりご一読をおすすめします。

■ダイヤモンドオンライン  http://diamond.jp/list/welcome
 

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