2015年5月29日金曜日

アクアイグニス立花社長の戦略を聞く

 先日、三重県中小企業家同友会主催による、(株)Kodo.ccの代表取締役 立花哲也氏の講演を聞く機会がありました。

 (株)Kodo.ccは、年間100万人が訪れる三重県内でも指折りの人気スパ&リゾートであるアクアイグニスの親会社であり、立花社長はアクアイグニスの発案者にしてオーナー経営者でもあります。

 若干42歳にして、これほど高く評価されるリゾート施設を作り上げた立花さんとはどのような人物なのか?
 講演は苦手なので、ふだんの依頼はほとんど断っているという立花社長の生の声を聞ける貴重な機会でした。

 ちなみに、アクアイグニスというのは立花社長の造語で、ラテン語でアクアは水。イグニスは火。大地の水と火が出会ったのものが「温泉」だというのがもともとのコンセプトだったそうです。それにしてもカッコいいネーミングです。

 まず講演冒頭の、立花社長の自己紹介がユニークでした。
 高校卒業後、すぐに土木建築業に従事し、20歳の時に自らの工務店を起業します。業績は堅調に推移しますが、年齢が若いことと、担保になる土地や資産がなかったため、金融機関からの借り入れがまったくできない状態での経営でした。

 しかし結果的にこれが「無借金経営」という強みになりました。工務店は有限会社に、そして株式会社にと成長を続け、立花社長の経営手腕を知る人を通じて、後継者がおらず廃業の危機に見舞われていた、片岡温泉という温泉施設の経営を譲り受けることになりました。今から10年前のことです。

 当初年間10万人程度だった片岡温泉の来客数は、立花社長が経営に関わってから24万人にまで倍増します。
 ところが、この敷地が建設予定の高速道路の用地に当たることになり、片岡温泉は立ち退き対象になってしまいます。
 移転を余儀なくされた立花社長は、単に片岡温泉を移転新築するだけではなく、今までの「問題意識」を解決するような、新しいリゾートを建設しようと決意します。

 問題意識とは何か。片岡温泉がある湯の山温泉郷(三重県菰野町)は、むかし寅さんの映画の舞台にも使われた古くからの温泉街で、ホテルや旅館も多く、たくさんの観光客が訪れます。
 しかし、有名な土産物や、おいしい食事ができるレストランがありませんでした。立花社長は、この2つの機能を付け加えたリゾートにすれば新しい片岡温泉は大きく成功すると考えたのです。

 注目したのはスイーツです。平日の昼間であっても有名パティシエのお店には多くの女性客と、それに連れられた男性客でにぎわっているのはよく見かける光景です。
 最初、立花社長も菰野町の隣である四日市市の有名菓子店に出店を交渉しました。ところが結果はバツ。社長の言葉によると、「本命に断られたので、仕方なく、ダメモトで」、たまたま知人経由で紹介を受けた東京の超有名パティシエ、辻口博啓さんにお願いに行ってみたそうです。
 ところがまったく予想外なことに、辻口シェフは出店にオーケーしてくれました。しかも、繁盛していた東京の店をたたんで、菰野町にやって来るというのです。
 温泉熱を利用した温室があり、食材となる新鮮で品質のいいイチゴが収穫できることが理由とのことですが、もちろん、新しいリゾート建設に掛ける社長の熱意が伝わった面もきっとあるのでしょう。

 辻口シェフがこのプロジェクトに参加したことで、事態はさらに進展していきます。
 辻口さんをキーパーソンとして、彼につながる奥田政行シェフをはじめ、赤坂知也氏、ミヤマケイ氏などの一流デザイナー、クリエイターが次々参画してくれるようになったのです。

 一流の人材が独自の視点や思いを託してきた結果、アクアイグニスは建物も、インテリアも、メニューも、サービスも、超一流のものとなりました。
 移転補償費プラスアルファだったアクアイグニスの事業費は、最後に完全オーバーしたそうですが、クリエイターたちは「完成した暁には、無料の宿泊券を何回分(何年分?)かくれたら、自分のギャラはそれでいい。」と言ってくれたそうです。心意気を感じるエピソードです。
 また、建設工事費を圧縮するため、30件以上にもなった工事の発注はすべて、立花社長自身が考案した、建設工事受発注サイト「建サク」を使い、すべての工事をネットで公告して、最も安い工事費を提示した受注事業者に落札させたとのことです。

 完成したアクアイグニスの素晴らしさについては、ここであらためて書く必要もないでしょう。

 この成功を足がかりに、立花社長はさらなる飛躍に向かっています。
 高速道路(伊勢自動車道)が伊勢志摩と東紀州に分岐するジャンクションのある三重県多気町で、現在のアクアイグニスの10倍近い敷地を得て、温浴施設やレストラン、宿泊施設、スポーツ施設などなど、医食同源をコンセプトにした「日本版ティアハイム」のような複合施設 アクアイグニス in 多気を構想中だとのことです。
  この講演の場ではかなり詳細な計画内容の説明もあったのですが、世間に公式に発表するのはもう少し先になるとのことなので、ここには書かないでおきます。

 最後に、成功の秘訣についてこのように解説してくれました。

1)アクアイグニスは、有名温泉地で年間100万人の人が来る湯の山温泉の、いわばコバンザメのような商法である。しかし、今までの湯の山温泉にはなかったものを提供したことが目新しかった。

2)近江八幡にある、「たねや・クラブハリエ」から大いにヒントをもらった。平日でも女性客がいっぱいなお菓子屋さんは、アクアイグニスでも核のビジネスになると確信した。

3)辻口さんとの出会いをきっかけに大きく物事が前に進んだ。自分が情熱をもって人に当たれば、こんなふうにうまく行くこともある。

4)普通の人は一日8時間、1年で240日働く。1年で1920時間で、10年間で38,400時間働く。
 一方、自分は若い時から仕事が趣味で、毎日1時間早出し、3時間残業していた。年に休みは15日しか取らなかった。なので年間で4200時間。20年で84,000時間働いた。人より二倍以上働けば、自分のように学歴も才能もなくても経験で差がつく。これが成功の秘訣かもしれない。
 とのこと。

 特に4は、こう書くとギラギラと暑苦しいモーレツ社長を想像しますが、立花社長はあくまでひょうひょうとして、まったくの自然体で言ってのけていました。
 誰にでも真似ができるとは思えませんが、このように全身全霊を仕事に打ち込むことは大きな強みに見なるのでしょう。

 いずれにせよ、大変勉強になるお話でした。立花社長と、三重県中小企業家同友会の関係者の皆様に感謝申し上げます。

<追記>  平成27年9月17日、アクアイグニス(株)は、イオンタウン、ファーストプラン、ロート製薬と共同で、三重県多気町に複合型滞在施設「(仮称)アクアイグニス多気」を平成31年に開業すると公表しました。(ブログにも書きました

2 件のコメント:

まろ さんのコメント...

アクアやクラブハリエの経営センスは抜群だと思いますが、肝心要の菓子のクオリティが残残念。多気の施設に期待したいです。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

まろ様
 コメントありがとうございました。
 何しろアクアイグニスは遠いので、わしも数回しか行ったことがなく、お菓子のクオリティといった定点観測的な情報は貴重でした。辻口さんは常駐しているわけではないんでしょうが、どうしても高いクオリティを保持するのは難しいということなのでしょうか。