2015年6月15日月曜日

「地域の産業・雇用創造チャート」は使えるか

 総務省が「地域の産業・雇用創造チャート」なるデータを公開しました。
 総務省は、国勢調査や経済センサスなど国にとって重要な全数調査を行っている官庁です。
 安倍内閣が地方創生を主要テーマとして各種の施策を講じている中、総務省が今まで行ってきた平成21年経済センサス基礎調査と平成22年国勢調査の結果データを加工・グラフ化して、市町村ごとの産業構造をオープンデータとして公表したものが「地域の産業・雇用創造チャート」だとのことです。

 一般の国民にとって、国勢調査とか経済センサスとかの大量、専門的なデータを読みこなすのは非常に困難です。データが宝の山であったとしても、事実上多くの場合は死蔵されているに近く、「地域の産業・雇用創造チャート」が誰にでもく理解しやすいデータであれば、市町村単位の事情に応じた産業構造の分析と、今後の対策のための企画立案に有用でしょう。
 総務省のホームページを見てみると、「地域の産業・雇用創造チャート」への理解を深めるために、岡山大学大学院・経済学部の中村良平教授による「地域産業構造の見方、捉え方」 というYoutubeの動画が付いています。これがなかなか参考になるので、ご紹介してみます。


 「地域の産業・雇用創造チャート」の基本的な考え方は、それぞれの市町村にとって「稼ぐ力が強い産業」は何かを、特化係数という手法によって明確化したことです。
 市町村には地場産業と呼ばれるような古くからの主力産業があります。たとえば岡山県倉敷市は繊維工業が盛んですが(確か、ジーパンの国内主力産地だったような・・・)、その従事者の比率を日本全体の繊維工業の従事者比率で割った値が、倉敷市の繊維工業の特化係数になります。
 実際には倉敷市の繊維工業の従事者比率は3.3%。日本全体の繊維工業の従事者比率は約0.7%なので、3.3÷0.7=4.7が倉敷市の繊維工業の特化係数になります。(ただし正確には、経済はグローバル化しているので、国内だけで比率を比較する特化係数でなく、世界での比率を比較する修正特化係数が用いられることになりますが、まあ基本的に考え方は同じです。)
 この特化係数(修正特化係数)は1を超えると、その地域での相対的な集積度が高い産業=稼ぐ力が強い産業ということができます。
 
 ここで、もう一つの前提条件が出てきます。
 それは、地域の産業は「基盤産業」と「非基盤産業」に分類できることです。基盤産業とは、鉱業や製造業のように、市町村内で作られた商品が地域外に移出され、地域外から利益をもたらす産業のこと。
 一方の非基盤産業とは、小売業や理容業のように、主なお客さんはその市町村内の住民であり、地域外からの利益をもたらさない産業のことです。
 この基盤産業と非基盤産業の区分方法が、修正特化係数が1以上であるかどうか、ということです。
 気をつけなくてはならないのは、製造業は基盤産業と書きましたが、現実はそう単純ではなく、宿泊業のようによそからお客さんが泊まりに来てお金を使っていく産業は、商品を移出している産業と原理は同じなので修正特化係数いかんでは基盤産業になり得ますし、カリスマ美容師やカリスマシェフがいて、他地域からどんどんお客さんがやって来るような小売業やサービス業も、やはり基盤産業になり得るということです。

 以上を踏まえて、「地域の産業・雇用創造チャート」を見てみると、チャートは縦軸を雇用吸収力、横軸を修正特化係数にとった十字型の点グラフになっています。
 簡単に言えば、縦軸は上のほう、つまり地域の雇用者数が多く、横軸は右のほう、つまり稼ぐ力が強い、という、時計で喩えれば2時の方角になる産業が、その市町村にとって重要な基盤産業ということになります。
 実際に三重県内の市町の分をざざっと見てみるとわかりますが、これはまあ、世間一般で認知されている、いわゆる地場産業、主力産業とほぼ一致しています。三重県内の市町では、自動車産業(輸送用機械製造業)や石油化学業、電子・デバイス製造業、一般機械製造業などが2時の方向にある市町が多くなっています。
 南部にある市町では、水産業、観光業なども2時の方向に来ていて、確かに地場産業には地域差があることもわかります。
 中村教授のYoutube動画は、3セットで通算30分ほど。わかりやすい解説になっているので、一度ご覧になったうえで、自分の市町村のチャートを見てみると、何か発見があるかもしれません。

 ただ、問題なのは、そのようにチャートを見て、稼ぐ力が強い産業、雇用吸収力が高い産業がわかって、さてそれでどうするのか、ということです。
 このチャートの目的は、地方創生ブームに合わせた地域産業活性化策の立案などにあるようなので、仮に、三重県A市では甲という産業が基盤産業だとわかったとします。これに基づいてどう対策を考えるべきでしょうか?

1)今も強い甲産業を一層強くしていく。具体的には甲産業に従事する企業への補助金交付や減税、人材確保支援などを施策化する。

2)今は弱いが、将来的に世界市場の拡大が見込め、成長産業となる可能性があるを乙産業を新たに振興する。具体的には乙産業に従事する企業を誘致したり、乙分野での起業、M&Aなどを支援する。

 という2つがまずは考えられるでしょう。

 現実問題として、上述のように地域の地場産業(基盤産業)は明確なエビデンスはなかったものの、ある程度は経験的に知られており、今までも各市町村は、既存地場企業の競争力向上支援や、企業誘致などにずっと取り組んできました。
 本当に問題なのは、その両方とも結果的には必ずしもうまく行っておらず、その失敗の積み重ねが現在に続く(やや回復しつつあるとはいえ)失われた20年であったということです。

 その原因の一つは、グローバル経済の動きは早く、市町村(や都道府県、国も)のスピード感では刻々と変わる情勢に対応できないことです。液晶産業はあっという間に日本メーカーが凋落しました。自動車産業もシェールオイルの登場により競争要因は省エネ技術よりも自動運転のICT技術に移行しつつあります。
 市町村が強いと信じてきた地場産業、これから成長すると信じて誘致してきた企業が、いつまでも優位性を発揮するとは限らなくなってきたのです。ましてや、チャートで分析できるのは過去の調査結果に基づく過去の数字に過ぎません。将来どう変わるかは誰にもわからないのです。

 繰り返しますが、今まで往々にして地方自治体が行っている産業振興策は経験則に基づくものが多かったのは事実です。チャートのようなデータ活用は、政策に一定の客観性ももたらすことは間違いありません。
 しかし、これに依存しすぎるのはよくありません。市町村はフットワークを鍛え、どのように世界情勢や産業動向が転んでも、瞬発力で対処できるようにする。そのための体力と知力と情報力を鍛えることがやはり基本なのではないかと思います。

■総務省統計局  地域の産業・雇用創造チャート-統計で見る稼ぐ力と雇用力-

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