2015年6月29日月曜日

稼げない「おもてなし」に意味はない

【読感】新・観光立国論
 今話題の書、デービッド・アトキンソン氏の著書 新・観光立国論(東洋経済新報社)を読了しました。アトキンソンさんはイギリス出身。証券会社でアナリストをつとめ、日本には25年前から滞在しておられます。現在は、文化財の修復などを手掛ける小西美術工芸社(株)の社長であり、日本を愛し、伝統美術を深く理解している「外国人」としてテレビでも時々お顔を拝見します。
 そのアトキンソンさんは、アナリストのバックボーンを持っているため、日本社会が成熟して経済成長が起こりにくい環境になりつつあることをまず指摘します。高齢化や少子化はスピードの違いはあれヨーロッパの先進国にも共通の課題です。それによる労働力の不足をヨーロッパは「移民」の受け入れで対処しました。日本も来たるべき労働力不足に対し何らかの対策は必要になりますが、移民受け入れには抵抗が強いことは事実であり、現実的な解決策として、「移民」ではなく「短期移民」、すなわち外国からの観光客を大幅に増やして、国内の消費需要を喚起することが必要だと提案します。日本経済をけん引してきた製造業にもはや成長の余地が少ない以上、サービス業、なかんずく海外客に向けた観光業を産業として振興させることは、日本にとって数少ない選択肢であることは間違いないでしょう。

 ただ、わしも含め、一般的な日本人はこう考えるはずです。
 日本に来た外国人観光客は昨年、過去最高の1300万人になりました。円安やビジットジャパンキャンペーンなどが功を奏し、日本の観光業は順調に拡大しているのではないか、ということ。
 さらに、日本には伝統文化やアニメなど外国人に魅力的なコンテンツが多く、何よりも日本人のDNAともいえる「おもてなし」の精神がある。これを順調に拡大して行けば、ますます外国人観光客は増えるはずだ、ということ。
 ところが、アトキンソンさんによると、これは両方とも間違っています。

 日本への外国人観光客は1300万人。しかし、この数字はフランス(約8千万人)、アメリカ(約7千万人)、スペイン(約6千万人)に比べると取るに足らない数字です。それどころか、ロシア、マレーシア、トルコ、タイなどといった国に比べても半分以下にしかすぎません。近年の伸びは確かに堅調なのですが、絶対数はまだまだ非常に少ないのです。アトキンソンさんはずばり、これは日本観光に魅力がないことの証左であり、本当の観光戦略が日本にはないからだと指摘します。

 日本人がよく抱く勘違いは、かの星野リゾートのホームページにある、次のようなものです。すなわち、日本がフランスなどに伍していくための観光大国の3つの条件は、「国の知名度」、「交通アクセスの良さ」「治安の良さ」である、といったものです。しかし、アトキンソンさんによればこれはまったくの間違いだそうです。日本人の思い込み、うぬぼれに過ぎないのです。
 たとえばタイは世界的には日本より知名度は低いですが、日本よりはるかに多くの観光客を呼び寄せています。ペルーのマチュピチュは超不便な場所ですが、年間40万人がやって来ます。治安がいいことも、悪いよりはマシですが、それで観光客を呼び寄せる条件にはなりません。観光客は非日常のワクワク感や体験を求めに来るのであり、コンテンツの魅力に比べれば治安の良さなどずっと順位が低い要件なのです。

 しかし日本人はひたすら勘違いし、時間どおりに動く電車を外国人にアピールします。外国人の多くは少々の遅れなど気にしないので、それよりもバカ高い日本の電車賃をもっと安くすべきだと思うそうです。ゆるキャラ、オタク文化などもそうで、必ずしも多くの外国人にはヒットしていないのです。
 そして日本人最大の勘違いが、「おもてなし精神」です。
 日本は、お客さんの要望を先読みした対応をする、しかも無償でする「おもてなし」を誇りとしています。アトキンソンさんによると、もともと「チップ」という接客サービスに対する経済的評価があるアメリカ人などは、サービスに対する良し悪しを評価するツールが奪われていると感じる上に、望んでもいないサービスの料金が上乗せされているイメージも持つことがあるそうです。
 そもそも、おもてなしが日本人内輪の以心伝心的な文化であって、誘客の競争要因にならないのは、おもてなし精神とは対極にある無愛想なフランスが世界一の集客を誇っていることからも明らかです。
 多くの外国人観光客にとって日本のおもてなしなど関心外のことで、それよりもお客の個人個人の要望やニーズにしっかり応えることのほうが ~つまり、グローバルスタンダードな接客サービスになるほうが~ 日本の観光競争力は高まるでしょう。

 アトキンソンさんによると、このように日本の観光業のレベルが低いのは、日本にはゴールデンウイークがあって、ほっておいても勝手に観光客が押し寄せ、観光業も連休特別料金など割増料金で稼ぐ、という供給側の論理によるビジネスモデルが蔓延しているからです。この発想は、多くの観光客をいかに能率よくさばくかという問題意識に繋がっており、その延長線上に外国人観光客も位置付けられているので、「郷に入っては郷に従え」という価値観の押しつけが是とされているからです。逆に言えば、日本が外国人観光客をさらに多く受け入れ、彼らから「稼ぐ」ためには、供給側の発想を捨て、「おもてなし」といった無償であることが良いことだという発想も転換して、外国人の本当のニーズを掘り下げ、それにしっかり対応することによって、代金もしっかりと頂く、というビジネスモデルに進化させなくてはいけません。

 具体的には、現在日本に来ている外国人観光客の実態を分析し、買い物に関心はあるが文化には関心が低い中国人、テーマパークに関心が高く、やはり文化には関心が低い台湾人、滞在期間が短い韓国人、文化や芸術に関心が高く、滞在中の出費も多いオーストラリア人やロシア人、ドイツ人など、といったようにセグメントを行い、それぞれのターゲットに向けたプロモーションを行うのです。
 アトキンソンさんによれば、中国人や台湾人はボリュームゾーンではあるが優先順位は低くてよく、日本の歴史や文化、自然に関心が高く、納得したサービスには高額でも対価を支払うドイツやフランスなどの観光客をもっと誘客すべきだと言います。

 では、実際にどうしていったらいいのか。これについてはぜひ本書をお読みください。
 巷間言われる観光振興策やインバウンド対策が、いかに表面をなぞっただけの中身がないものかもよくわかります。
 本書は全般的にそうですが、アトキンソンさんはアナリストなので、意見はすべて客観的なデータに基づいています。こんな調査があったのか、という新しい発見も多くありました。また、日本人に対して辛らつな意見も多いのですが、その都度「私は日本を愛しているので、それゆえに呈する苦言である」という説明書きが出てきます。外国人の立場からの意見に対して感情的な反発が多いことに、アトキンソンさんほどの人でもここまで慎重にならざるを得ないのは、まだまだ日本には「議論の文化」が浸透していないことの証かもしれません。
 いずれにしても、非常に参考になる本でした。三重県、特にわしが住む伊勢志摩や東紀州は、観光業が主力産業であり、今後もライバルと闘っていかなくてはいけません。そのために、観光に関わる全ての人の、まずは「レベル合わせ」のための必読書だと思います。

はんわし的評価(★★★) 必読 

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