2015年6月4日木曜日

中日新聞「甦る経済秘史」

 日曜の夜、ぼんやりとNHKテレビを見ていたら、タイトルは忘れたけど戦後(←当然、1945年に終わった第2次世界大戦以後という意味)の日本の経済発展についてのドキュメンタリー番組をやっていました。
 東京や大阪を含め、地方に至るまでほとんどの都市は空襲で焼かれ、若者が徴用されて田畑も荒れ、日本の経済活動は完全にマヒしていました。
 そこからわずか10年で ~もちろん朝鮮戦争という特需があったことが大きいのですが~ 経済を力強く復興した日本。その政治的なスローガンとなった池田勇人首相による「所得倍増論」の特集でした。
 よく知られるように、所得倍増論は池田首相のオリジナルな発案ではなく、エコノミストであった下村治氏の、消費財の生産を増やすことによって国民の購買意欲を高め、それによってさらに経済規模を大きくする、という成長理論を具体的な政策に落とし込んだものです。
 一昔前のNHKなら、日本の国民総生産が一年で10%も成長した理由を、「優秀な官僚による経済政策」とか「賢く勤勉な国民性」とかで説明したことでしょうが、さすがにそのような神話は取りあげられなくなっていました。
 昭和30年ごろの、まだまだ生活水準が低かった国民にとって、テレビや冷蔵庫のような耐久消費財を買うことは「豊かさの実感」そのもので、モノを渇望する社会ステージであったこと。そして、生産年齢人口(15歳~60歳)が多く、勤労にも消費にも旺盛な大きな国内市場があったという、いわゆる「人口ボーナス」がその主要因して挙げられていました。ちょっとはNHKも目覚めてきたようです。

 このような番組が特集されるのも、今年が戦後70周年に当たることと関係しているようです。
 中日新聞の朝刊には、今年初めから「甦る経済秘史」という連載が載っているのですが、数日前からいよいよ高度成長期の話になってきて、もちろんわしはリアルタイムではこの時代を実感しているわけではないけれど、わしの親の時代、団地族やモーレツサラリーマン、専業主婦、などといった生活スタイルが定着し、呼び名が生まれたこのころの残り香をかすかに知っているわしは、何だか懐かしいような、それでいて遠い昔のような不思議な時間軸を感じるのです。

 ちょうど今日(6月4日)の記事は地方から都市部の工場や商店に集団就職でやって来た若者 ~子供たち、と言うべきか~ の話でした。
 昭和30年ごろ、日本の花形産業であった紡績・繊維産業の中心地、愛知県一宮市で、紡績会社のリクルーターをしていた方のお話に興味が惹かれました。
 1年のうち200日も東北や九州で中学卒業見込み者の採用活動に明け暮れていたというこの方は、それでも他の工場や商店と激烈な人材確保競争の中では、思うように社員が採用できなかったということです。

 そこで、一宮市の関係者たちは繊維から連想される「女工哀史」的な負のイメージを払しょくしようと、中卒で紡績工場に集団就職した少女を主人公にした映画の制作に乗り出します。 
 尾張地方の地元出身の人気歌手 舟木一夫さんが主演した日活映画「花咲く乙女たち」がそれです。(昭和40年公開)
 約6千万円の製作費のうち、400万円を一宮市(当時は合併前の尾西市)が負担しました。
 映画のストーリーは、この当時の日本映画によくある荒唐無稽な娯楽作品です(主演の山内賢、舟木一夫とも正義感が強いチンピラ(?)という役まわり)が、映画の中では昼は清潔な繊維工場で生き生きと働き、夜は定時制高校で学び、休日にはスポーツやサークル、街への外出を楽しむ女性工員たちの日常生活が魅力的に描かれていました。
 この映画は「女工」のイメージ改善に貢献し、実際に、紡績会社のリクルーターは舟木一夫さんの唄う主題歌を新卒者に使ったりもしたそうです。

 実は、わしの母親も若いころ(昭和30年ごろ)某紡績会社で労務管理みたいな仕事をしており、一時期、女性工員の寮の舎監をしていたことがあったそうです。
 名古屋市内にあった寮は、木造二階建が十棟以上も建ち並ぶ一つの「町」で、集団就職者など1000名以上の女性工員が寝食を共にしていたそうです。さすがに今ではここまで労働集約的な工場はありえません。
 ここでの仕事は母親にとっても楽しい思い出が多かったようなのですが、そのエピソードの一つに、たしかに「寮をロケ地にして映画を撮った」というものがありました。(その時に主演したという中原ひとみさんとの記念写真も持っていました。)
 母の記憶では、やはり紡績会社の上層部の意向で、会社のイメージアップのために全面協力のもと撮影されたもののようでした。内容は全然つまらなくて、エキストラで誰かは映っていたのに自分は映っていなくてがっかりした、みたいなことも言っていました。
 若い人を求人するには「映像」が有力なツールになること、会社としてはイメージで若者のハートをつかみたがっていること、などは古今同じだなあと実感します。

 その後、日本の繊維産業は円高による繊維不況によって壊滅状態になるわけですが、モノを買うことで幸福を感じられたのと同じく、若者は働くことで自己実現していたこの時代を、もうおそらく二度と戻ってこない時代だとは重々わかっていながら、どことなく眩しく思うのです。

■はんわしの評論家気取り 「ヨイトマケ」は知らない(2013年1月27日)
 

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