2015年7月16日木曜日

JR関西線で奈良から津へ(その2)

(承前) JR関西線で奈良から津へ(その1)

 加茂駅を出た亀山行き普通列車のディーゼルカー(キハ120の2両編成)は、約25分でとうとう三重県最初の駅、島ヶ原駅に着きます。島ヶ原は現在は合併して三重県伊賀市の一部になっていますが、以前は島ヶ原村という村で、林業で栄えていました。(なので、昭和の大合併の頃は合併する必要がなかったのです。)
 ここは古くから東大寺の領地であり、ゆかりの深い「正月堂」というお寺があります。


 この島ヶ原駅に隣接する穂積製材所は、関西の大学などと連携して、木材の活用や地域振興に取り組む「ホズプロ」(穂積製材所プロジェクト)という活動の拠点になっています。
 一見、伊賀の辺鄙な山村のように思えますが、鉄道を使って関西方面から小一時間でやって来ることができるので、この「地の利」はもっと注目してよいのかもしれません。

 島ヶ原を発車。しばらく進むと、今までの山の中(木津川に沿った谷合)の光景から、突然視界が開け、空が広くなります。列車は伊賀盆地の中に差し掛かったのです。


 以前、このブログで取り上げた「鉄道忌避伝説の謎」という本では、明治の初め頃は民百姓が蒙昧で、轟音をたて、煙や火の粉を吐いて走る「汽車」に対し、火事になるとか、宿場が寂れるとかの理由で鉄道敷設に反対する運動が各地で起こったという通説が、なんら根拠のない「伝説」であることが論証されています。
 その中で伝説の典型例として取り上げられていたのが、関西鉄道(現JR西日本・関西本線)が伊賀上野市街地を忌避した、という事例です。(詳しくは、この時のブログをお読みください。)

 市街地のほうを見ると、はるか先に上野城の天守閣が見えます。


 わしは伊賀上野出身でもなんでもありませんが、青々と広がる田んぼのはるか向こうに高台の町並みが見え、ランドマークとも言えるお城が見えるこの光景は、心底美しい景色だと思います。大げさでもなんでもなく、魂を揺さぶられるような、日本人でよかったと思えるような景色です。
 伊賀上野駅では、連絡する伊賀鉄道に乗り換える人などでかなりの乗客が乗り降りしました。

 次いで、佐那具、新堂、と駅に停まり、加茂出発から約50分で、柘植駅に到着します。
 柘植は、滋賀県草津に至るJR草津線との連絡駅であり、この列車に乗っていた大多数の乗客はここで降車しました。
 下り(亀山から加茂行)の列車、それと草津線の電車、そしてわしが乗る登りの列車の3つがホームに並び、この時だけはホームに人が行き交います。


 柘植を発車すると、再び線路は山の中へと入り、急な上り坂をエンジン音を立てながら登って行きます。トンネルも多くなり、その合間合間に伊勢湾に流れる鈴鹿川が見えるようになります。
 亀山と伊賀を隔てるのは急峻な加太峠(かぶととうげ)です。関西本線が敷設された当時はもちろん蒸気機関車で、それが登れる坂の傾斜は1000分の25(25パーミル)が限界でした。
 加太峠はその限界ギリギリの急坂であり、特に亀山から伊賀へはその登りが延々と続くため、蒸気機関車は重連、かつ、貨物列車などはスイッチバックを使って登っていました。


 今は、そのスイッチバックの信号所も廃止されてしまったようですが、トンネルや橋桁は今でも明治時代の敷設当時のものが活用されており、加太駅の駅舎には「加太峠の鉄道遺産」と描かれた地図が掲げられています。
 加太駅付近から、急な下り坂が続きます。伊賀と亀山はこんなに標高差があるのかとあらためて驚くほどです。
 砂地の多い鈴鹿川独特の川面を鉄橋で何度か渡り直します。


 加太駅から数分、加茂からは1時間15分ほどで関駅に到着します。
 旧東海道が通っており、江戸時代の宿場町の町並みがほぼそのまま残っている「関宿(せきじゅく)」が有名な観光地になっています。
 この駅からは、10名ほどの観光客らしい人たちが乗り込んできました。亀山まではあと5分ほどです。
 関から亀山までは平坦なので、ラストランにふさわしい軽快な走りになります。


 加茂から1時間20分ほどで、やっと亀山駅に到着しました。本当に、やっと着いた、やれやれ、という感じです。
 亀山駅から鳥羽行きの普通列車に乗り換えます。この乗換もわりと連絡はよく、10分ほどで乗り換えることができました。ここからはJR東海の管轄になり、一両のワンマンカーです。
 亀山から津まではさらに20分かかります。

 繰り返しますが、奈良から津に行く時、まず普通の三重県民なら近鉄を使うと思います。よほど時間のある時、余裕のある時でないと、これほどの「のんびり鉄道旅」は楽しめないでしょう。
 逆に言えば鉄道旅だと割り切れば、左右に美しい景色が広がり、一駅一駅に停車し、しかも停車時間も長いJR関西本線は、運賃の割に豊かな時間が楽しめる移動手段だとは言えるでしょう。
 しかし、明治からそれほど変わっていない(加茂駅以東の)関西本線の、高速化、無煙化から完全に取り残されている姿を、沿線の住民が納得しているとも到底思えないのでした。

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