2015年7月28日火曜日

地域の活力とは、企業の革新力である

 時事通信が配信している地方公務員向け業界紙である「官庁速報」に、中小企業の支援窓口拡充=愛知県 という記事が載っていました。(7月24日付け)
 愛知県(庁)が、中小企業の新たな事業活動を支援する制度である「経営革新」支援制度について、従来は県庁のみで行っていた経営革新計画の承認申請受付業務を、愛知県内のすべての商工会議所や商工会、愛知県中小企業団体中央会、及びあいち産業振興機構の計81の支援機関でも行うよう窓口を大幅に拡充したというものです。(愛知県庁のホームページはこちら
 経営革新計画の促進キャンペーンと銘打たれたこの措置は今年7月から開始されましたが、これは非常に画期的、かつ有意義な中小企業支援策であると断言することができます。

 ここで、経営革新支援制度についてごく簡単に説明しておきましょう。
 経営革新は、中小企業新事業活動促進法に基づいた支援措置であり、
1)新商品の開発または生産
2)新サービスの開発または提供
3)商品の新たな生産または販売方法の導入
4)サービスの新たな提供方法の導入その他の新たな事業活動
 のいずれか、または複数の、その中小企業にとって新しい事業となる取り組みを行う場合で、一定の要件に基づいた経営革新計画を作成し、知事の承認を得ると、信用保証の優遇、低利融資の活用、特許料の減免制度などのさまざまな支援措置を受けることができるというものです。



 ただし、経営革新計画の承認を受ければ直ちに融資が受けられるのではなく、実際の融資に当たっては、金融機関の審査を経る必要があるのは通常の融資と変わりません。経営革新の承認は、これらの支援措置を受ける資格を得たに過ぎないとも言えますが、しかし、これらの支援措置は圧倒的に有利な制度なので、中小企業支援の強力なツールであることは間違いありません。

 国(経済産業省)は産業政策と呼ばれる施策を行ってきており、多くの法律や支援制度を作って巨額の税金を投入してきましたが、日本の景況が長らく低迷していた(失われた20年)のは周知の事実です。
 産業政策なるものの大宗が、「成長戦略」という「今後成長していくであろう産業分野」を政府があらかじめ決めて、他業種に属する企業をその「成長産業」に誘導したり、すでに成長産業に属している企業の研究開発や市場開拓を集中的に支援する戦略です。
 しかしながら今や経済はグローバル化していて栄枯盛衰が激しいので、国が成長戦略という独りよがりな「選択と集中」をしている間に、予想もしない製品やサービス、予想もしない産業が片隅からあっという間に拡大して世界市場を席巻してしまいます。
 こういった日本の産業政策は、戦後復興期から高度成長期までは有効に機能したものの、バブル期以降は失敗の連続です。ICT産業、携帯電話、薄型テレビなど、技術は高くても市場シェアは外国企業に奪われ、日本企業が存在感も競争力も失っていることは、政府が見当違いの戦略を連発していることも一因であるのは関係者のコンセンサスと言っていいでしょう。

 しかし、このような死屍累々の行政による支援策の中で、唯一、中小企業向けで実効性があるのが、この経営革新支援制度です。
 上記の(1)~(4)の新事業の類型を思い起こしていただきたいのですが、これは、かのシュンペーター博士によるイノベーション(革新)の定義
1)まだ消費者の間で知られていない新しい財貨の生産
2)特定の産業部門における、新しい生産方法の導入
3)新しい販路や市場の開拓
4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5)独占的地位の形成や打破をもたらす新しい組織の実現
 に準じています。もっとも5の新組織は中小企業支援のスキームにはそぐわないので除外されていますが。

 このような、中小企業によるイノベーションを、「成長分野」など特定分野に限定せず、あくまでも経営者の自主的、自立的な自由な経営判断によって取り組もうとするのを、国や自治体が側面から支援するという原理原則が貫かれている、わしが見るに、経営革新支援制度とは、非常に珍しい企業本位の支援策であるということができます。

 中小企業の関係者、あるいは中小企業支援の関係者は、この経営革新支援制度に正反対の評価が両立しているのをよく御承知でしょう。
 ある企業(または支援者)は、経営革新計画が求める内容は詳細過ぎ、承認基準はハードルが高くて、普通の中小企業にとってはなかなか手が出せないという感想を持ちます。
 これとは逆に、経営革新計画は厳密なエビデンスが求められず、目標達成しなくてもペナルティがない、いわば造りっぱなしの作文でよく、あまりにも簡単に承認されてしまう、企業にとって甘すぎる支援だという意見もあります。
 これはなかなか難しい話で、わしもこの両方の例をいくつも知っていますが、考え方によっては、多種多様な中小企業に対して、賛否が拮抗する支援策とは、かえって中立値なのではないでしょうか。中小企業すべてが満足する100点満点の支援策などあり得ません。
 より実効的な経営革新計画をブラッシュアップしていくのに、商工会議所や商工会は重要な役割を果たせるのであって、今回の愛知県のように、すべての支援機関(商工団体)が当事者として企業にコミットしていくのはとてもいい制度設計だと思います。

 ここ長らく、「地域活性化」とか「地域経済の振興」などのスローガンが行政や市民活動のお題目となってきました。最近は地方創生が唱えられ、これまで以上に多くの行政資源や税金が投入されるようになっています。
 しかし、活性化すべき「地域の力」とは何でしょうか?
 さまざまな定義があり得ますが、現実問題として、多くの企業や商店があって住民が就労し、賃金を得て、モノやカネのサイクルが地域でまわっていること、つまり経済活動が活発であることがバロメーターの一つなのは論を待ちません。
 では、それはどんな物差しで測れるのか。
 わしは、間違いなく、イノベーションに取り組む企業の多さ(その地域にある企業や商店のうち、経営革新にチャレンジしている企業の割合の高さ)だと思います。

 ざっと見てみると、愛知県には223,698の中小企業があります(中小企業白書による)。このうち経営革新承認企業の累計は約4,300なので、承認率は概算で1.9%となります。
 ちなみに、三重県は55,694の中小企業があり、経営革新は833なので1.5%。実に0.4%もの差があります。
 あくまで乱暴な概算であり単純な比較はできませんが、企業数が多く、イノベーションへの意欲も、アクションも高い企業が多い愛知県は、さらに支援策を充実させ、ますます地域活力を高めていく。
 一方で、恥ずかしながら三重県は、経営革新支援制度自体のPRにも消極的で、支援体制も不十分。中小企業にイノベーションを促す具体策もなく、ますますイノベーションの芽が摘まれていく。
 日本全体が東京に吸い込まれ、東海地方なら愛知にあらゆるものが集中していくのは、このような格差も一因なのです。

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