2015年7月31日金曜日

東京オリンピック「エンブレム」は典型的トラブル

 平成32年に開催予定の2020年東京オリンピックのエンブレム(標章)に盗作疑惑が起こっています。オリビエ・ドビ氏なるデザイナーが、日本人デザイナー(佐野研二郎氏)が創作したオリンピックのエンブレムと、自分がデザインしたベルギーのリエージュ劇場のロゴマークが酷似していると主張しているもので、ドビ氏は7月31日、国際オリンピック委員会(IOC)に対し、著作権侵害の疑いがあるとして、使用差し止めを求める申立を行うとのことです。

 もうすでに広く報道されていますが、2020年東京オリンピックとパラリンピックのエンブレムはこのようなもの。
 ドビ氏のデザインとは、真ん中にある垂直の棒部分と、左上と右下にあるカーブ部分が酷似しているのは確かのように思います。

 ただ、一般的に言ってデザインの類似性については反論も十分可能です。
 問題なのは、このような「トラブル」に巻き込まれたことで、反論・反訴に膨大な手間がかかってしまうことと、対外的なイメージの悪化です。ある意味で、典型的な著作権トラブルであり、受け身とならざるを得ないIOCやJOCは「負のトラブルパターン」に嵌ってしまう危険性があります。


 著作権とよく似た概念に「商標権」があります。たとえ話によく使われるのは、わしがリンゴを見て何かのデザインを創作したとします。そのデザインを特許庁に商標出願し、それが認められることでわしは商標権を獲得します。
 一方の著作権は、出願行為などなくとも、いわば自然発生的に生れる権利です。仮に一つのリンゴを何人かがスケッチしていたとすれば、その人数分(スケッチ枚数分)の著作権が生まれるのです。
 このような性格の違いがあるために、商標権のほうが効力は強いと言えます。つまり、商標権者は、類似の商標に対してすべて使用を禁止させる権利を持つのです。ロゴやトレードマークなどはその商品を広く消費者に知ってもらい、他と識別してもらうために存在するわけで、紛らわしい商標を使われることで金銭損失が生じるからです。
 もちろん、著作権も侵害行為を禁止する権利がありますが、単なる類似ではだめで、完全に同一の著作物でないと著作権の侵害にはならないとされています。(DVDの海賊版などが典型です。)
 
 ただ、ベルギーのデザイナー、ドビ氏が侮れないのは、IOCに対してあえて「自分の著作権が侵害された」と申し立てていることです。
 リエージュ劇場のロゴマークはおそらく日本の特許庁には商標登録されてないので、通常ならそもそも権利が認められないのですが、著作権は自然発生権なので、創作物(アイデア)そのものが侵害されたという主張が可能だからです。
 IOCは既定事実である東京オリンピックのイメージを人質に取られ、崇高な創作活動を侵害されたかわいそうなデザイナーに反論していかなければいけません。ドビ氏の真意は不明ですが、おそらく幾ばくかの然るべき金額による和解を狙っているのではないでしょうか。

 ここへ来て、さらにIOCサイドに不利なのは、佐野研二郎氏がこれまでに発表したデザインのいくつかに、今回と同様の類似性の問題があったと報じられてきたことです。(たとえば、こちら
 これらを見ると、確かに似ていると言えば似ているし、似ていないと言えば似ていない、本当に微妙な事例だと感じます。いくら自由な創作であっても人類の能力には限界があり、よく似たアイデアが出ることも事実でしょうし、以前何かで見かけたデザインが記憶のどこかに沈んでいて、創作の形を借りてそれが「思い起こされた」ことも人間の心理作用としては排除できません。

 何にしろ、知的財産のトラブルはたいへんやっかいです。このブログで何度も書いているように、新しい製品やサービス、店舗の、ネーミングやロゴマークなどは必ずあらかじめ商標権の調査を ~重要なものは弁理士を使って~ 行っておくべきです。
 また著作権の侵害は、最近の法改正によって非親告罪化されました。トラブルメーカーによって訴訟が乱発される危険が生まれたことにも留意すべきでしょう。


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