2015年8月8日土曜日

中部経済新聞の役割に期待する(マニアック)

 8月のこの時期、新聞やテレビでは太平洋戦争に関連する記事や番組が洪水のように報道されます。もちろん、その全部を見たわけではありませんが、戦後70年たって国民のほとんどは直接的にしろ間接的にしろ「戦争」を実感する局面はなくなっており、このせいか、昔に比べて当時の日本を客観的に分析し、現在の日本社会との共通点や相違点を考えさせる内容のものが増えているような気がします。
 太平洋戦争に突入したのは当時の国力や世界情勢からみて無謀でした。指導者の多くはそのことを知っていましたが、開戦を止めることができませんでした。また、戦争開始から1~2年で日本の敗色は濃厚となり、戦況が好転する見込みもありませんでしたが、終戦に踏み切ることができませんでした。
 このような、客観的なデータや科学技術力・産業力を軽視して、建て前や今までの行き掛りから逃れられず、皆が現実を直視しないで意見も言わず、信念とか忍耐といった精神力を極端に重視した当時の日本社会のあり方が、70年を経て変わったのか変わっていないのかは非常に興味深い ~そして重要な~ 問題提起ですし、これに関してはさまざまな見方や意見があることでしょう。
 そんなことをあらためて連想させてくれる記事が先日の中部経済新聞に載っていました。

 それは中経新聞の記者による「取材ノート」というコラムです。「中小企業の支援再考を」と言うタイトルのこのコラムの要旨は次のようなものです。非常に重要であり、かつ的を射た指摘であるので取り上げてみます。

1)国内市場が成熟化する中で、三重県は海外の政府機関と連携協定を締結するなどして県内企業の海外展開を積極的に支援している。
2)海外のデパートでの三重県物産展開催とか、県内の産業展に海外企業を招待するなどの交流から、県内のメーカーが台湾メーカーに技術供与した健康食品が、ヨーロッパに輸出されるなどの成果も生まれている。
3)しかし、関係者によると、成功事例は数えるほどしかなく、商談会から具体的な契約につながるようなケースはほとんどないのが実態である。
4)海外企業が商談後に詳細な問い合わせをしても、県内企業が十分に対応できていないことが理由。中小企業の限られた資源では、海外ビジネスにヒト、モノ、カネを投じる余裕がないからだ。
5)いくら三重県が動いても(中小企業の海外展開の成果が少なく)血税が生かされていないと思うと歯がゆい。商談前の事前準備、商談後のアフターフォローなどきめ細やかな支援の強化も必要ではないか。

 少々補足すると、三重県は現在の知事になってから県政全体が経済産業分野重視となり、中でも県内企業の海外展開と、海外観光客の県内誘致は最重要政策となっています。
 この数年間で、知事は10回以上も外遊しており、経済産業分野に関するものだけでも

・台湾経済部の台日産業連携推進オフィス(TJPO)産業連携に関する覚書(MOU)を締結
・タイ投資委員会(BOI)と産業連携に関する覚書(MOU)を締結
・カナルタカ州(インド)と産業連携、人材交流等の分野で覚書(MOU)締結
・アヌシー広域行政体(フランス)と連携協定のリニューアル協議
・ヴァルドワーズ県(フランス)と産業連携を目的とする覚書(MOU)を締結
・フラウンホーファー研究機構(ドイツ)と協力協定を締結
・CSEM 社(スイス)と連携協定リニューアルを合意
・ワシントン州(アメリカ)と航空宇宙、ライフサイエンス分野等で覚書(MOU)を締結
・テキサス州サンアントニオ市(アメリカ)と航空宇宙、ライフサイエンス分野等で覚書(MOU)締結
・サウスシアトルカレッジ(アメリカ)と航空宇宙分野での人材育成プログラム実施に向けた基本合意書を締結
・ブラジル連邦共和国サンパウロ州と日本国三重県との姉妹提携40周年記念共同宣言に署名

 などの合意文書を作成しています。
 このほかにトップセールスや投資セミナーの開催などのパフォーマンスも含めると、県による企業の海外展開への支援は膨大なもの(予算、マンパワー、時間)になります。

 しかし、多くの三重県民はそう感じることでしょうが、これらの覚書締結によった、これといった成果は現実にほとんどありません。
 そもそも大多数の県民はこれらの覚書など知らないし、関係もありません。MOUは条約でもなんでもなく、話し合った内容の単なる「合意メモ」に過ぎないので法的拘束力もありません。
 なので、MOUがあるからビジネスが有利に働くわけでは必ずしもなく、海外で売り先や仕入れ先を見つけようと思えば、結局はその企業同士による純粋なビジネス、商売上の交渉によらざるを得ません。(当たり前の話ですが。)

 余談ですが、このMOUについては政府や自治体が覚書を締結すると何かメリットになるという誤解のほかに、
 日本企業、特に中小企業は、技術力や製品、サービスが優れているのに、国内の市場に安住して積極的に海外展開してこなかった。このような企業は十分に競争力があるので、海外市場にどんどん出ていくべきだ。
 という、いわゆる「臥龍企業」論という誤解があります。
 商品がいくら優れていても、商売が下手ならビジネスにならないわけで、企業としての総合力を顧みることもなくやみくもに海外進出すれば、「玉砕」が続出するのも当然でしょう。

 なので、結論としては、海外市場が有望なのは確かである。しかし、進出は容易ではないので、経営者が理念とビジョンを持ち、しっかりした経営計画を作ったうえで自己責任で進出すべきだ、という内容に尽きることになります。

 中部経済新聞のこの取材ノートの結論としては、「商談前の事前準備、商談後のアフターフォローなどきめ細やかな支援の強化も必要」ということになるのですが、中小企業への支援は、きめ細かくやればやるほどキリがなくなるし、しかも所詮その支援はビジネスを知らない ~無知であったり、アンチビジネスであったりする~ 公務員が従事するのです。非効率や政治からは逃れられません。きめ細かくやればやるほど、さらにますます中小企業は行政に頼ってくるようになるでしょう。

 このグズグズを防ぐには、行政(県)の役割と、支援機関(銀行や商工会議所や)の役割、企業の役割を明確にしておかなくてはいけません。まさに血税を使う意味で、行政の役割は必要最小限度で、公平・公正に行われなくてはいけません。無限定にどんどんと支援を拡大していくのではだめなのです。
 そのために、中経新聞のような専門紙の役割は大事です。是は是と言い、非は非と言わなくてはなりません。本当に行政の支援策の成果が出ているのか、課題は何か、という政策の評価は、行政自身ではお手盛りになるので、専門知識を持つマスメディアが外部から行うしかないのです。

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