2015年9月15日火曜日

企業を弱める、とある問題(マニアック)

 以前、このブログに、中小企業が新たに販路を開拓する一つの方法として、国や県、市町村などが公募している物品調達とか委託事業への応札、受託などがあることを書きました。(はんわしの評論家気取り 【読感】地方自治体に営業に行こう!! 2015年3月3日
 たとえば三重県(庁)なら、現在公募している公共工事とか物品調達の情報は、ウエブサイトの「三重県電子調達システム」で誰でも見ることができます。県レベルになると、備品の購入やパンフレットの印刷など、おびただしい数の業務が発注されていることがわかります。(応札するには一定の資格要件が必要)
 これらの物品調達は、品種とか品番、数量、納期などの仕様があらかじめ明示されているので、最も安い価格で応札した企業が県と契約できることになります。いわば価格競争です。
 一方、これとは別に、地方公共団体の契約決定方法には、企画提案コンペというものがあります。
 これは、たとえば県が交通安全を啓発するチラシを作成するに当たり、単にチラシを何万枚印刷してくださいという業務とは異なり、このチラシを誰に対して配るのが最も交通安全に効果的か、そのためにどのような内容のチラシにして、どのような方法で必要なところに撒くか、といったような、「交通安全PR」という最も肝になる部分に関して、企業から提案を募り、コンペを行って(=提案者に競争させて)、最も優秀な提案だと県が認めた相手にその仕事を委託するという方法です。
 この企画提案コンペも、おびただしい数が発注されています。(三重県ウエブサイトの関連リンクはこちら

 わしの今回のテーマは、この企画提案コンペです。
 これはわしら公務員にとって実にありがたい、もっとはっきり言えば「使い勝手が良い」しくみです。
 県には金がある。交通安全対策という使命もある。
 しかし交通対策は往々にしてマンネリで、劇的に交通事故を減らすために有効な啓発方法はなかなかない。
 このように自分達では知恵が回らず、いいアイデアが思いつかない分野の仕事について、広く民間企業(もちろん、NPOや個人事業者も含みます)から企画を提案してもらい、最も優れたものを採用し、業務を委託すればいいというわけです。

 おそらく、この「企画提案コンペ」という方法が地方自治体の契約に広く普及してきたのはここ10~20年くらいのことではないかと思います。県や市町村の仕事が、インフラの建設や公衆衛生、学校教育といったシビルミニマムの定型的な仕事から、地域振興、産業振興といったアイデアが重視される分野や、多様な住民を巻き込んで取り組む必要があるような分野にまで守備範囲を広げてきたことが主な原因だとわしは思います。
 基本的に総合職である行政職員には高度・専門的な知識は不足しており、いわゆるコンサルタント会社や企画会社といった専門業者のアイデアやノウハウ、組織や実行力を借りないと、仕事がスムーズに進まないという実態もあります。

 しかし、わしら公務員にとってはうまい話である企画提案コンペですが、もちろん問題もあります。
 それは、コンペティション、つまり競争である以上、採用される一つの提案以外は、すべてボツになってしまうことです。
 多くの場合、コンペに参加するための事前要件として、企画提案に必要な費用はすべて提案者の負担とする、という条件が付されています。
 企画提案書を作成したり、根拠となるバックデータを整理したり、会社の定款や登記事項証明書や財務諸表を用意したり、それらを必要部数 ~場合によってはカラーコピーで10部提出するよう指示されたりする~ 印刷して製本したり、プレゼンテーション審査に備えてパワーポイントの資料を作ったり、プレゼンのリハーサルをやったり、といったもろもろの手間と費用と時間は、仮に落選してしまった場合、まったくの徒労となってしまうのです。
 しかも、言うまでもなく、企画提案書やプレゼン資料は、その提案者のアイデアやノウハウといった知的財産のかたまりです。コンペの審査にあたった公務員は、いろいろな提案者から、さまざまな提案資料をプレゼンしてもらい、貴重なノウハウをどんどん知り得る仕組みなのです。
 公務員には守秘義務があるので、これらの内容が外部に出ることはありません。しかしアタマの中にはアイデアやノウハウは残るので、不謹慎な言い方をすれば、大変重要な勉強の機会、情報収集の機会になるわけです。

 かたや、落選者の徒労感は並大抵ではないでしょう。地方自治体にとっても、審査基準が単純に数値指標化できない業務だからこそ企画提案コンペをやっているので、なぜあの業者のあの提案が最優秀になって、なぜうちの提案は落選したのか、についても明確には説明できない場合が多いのです。
 もちろん、審査は適正にやっています。採点基準に基づいて採点しているので、審査票を見ればA社は何点、B社は何点、C社は・・・というふうに数字はわかります。が、なぜこの点数になったか、この点差になったかについては非常に説明がしにくいのです。

 わしが知っているある組織の代表者は、「国や県の企画提案コンペには二度と応募しない」と言っていました。ある行政分野では日本を代表する草分け的な方です。
 提案書を作るエネルギーが膨大なわりに、なかなか採択されないから、というのが理由です。さらに、上述のように、審査する側の行政にはさまざまな提案者からのアイデアやノウハウが集まるので、結果的に自分たちのノウハウをタダで行政機関にあげているようなものだ、あんなのバカバカしい、と言っていました。

 これには一理あるとわしも思います。単純な解決策はまったく思い浮かびませんが、特定の行政分野に関心がある人が企画提案に応募してくるのですから、他の人たちがどんなことを考えていたのかについて、全部の企画提案の内容を一定範囲内で共有できるような仕掛けは必要なのではないかと思います。上位に入賞した企画提案に対しては、契約はできなくとも、作成料のような対価支払いも考えるべきではないでしょうか。
 提案する側とてアイデアは無限なわけではありません。特に、地域に根差した小規模な企画会社とかNPOは、行政がどんどん企画提案コンペをやるとコンテンツをタダで搾り取られ、ますます疲弊してしまうことが起こり得ると思います。地域にとって大切な企業が、むしろ弱まってしまうわけです。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

「行政コンペ対策講座」を産業支援センターが実施したらいいんじゃないですかね。受験対策みたいな感じで。
それにより官民両方で無駄なコストが省かれ、民間企業のそれはそれは貴重なノウハウの無駄な流出も減りますから、行政案件に頼らないとと生きていけない県内企業に喜ばれるでしょう。