2015年10月11日日曜日

現代のロバート・オウエン賞授賞式に行ってみた

 まずお断りですが、授賞式に行ったは行ったのですがわしはかなり遅刻してしまい、今年の「現代のロバート・オウエン賞」を執行(しぎょう)泉さんが受賞する瞬間は見逃してしまいました。

 で、執行さんによる記念講演会から参加したわけですが、これが非常に参考になる、というか胸を打たれる講演だったので簡単にレビューしてみます。

 わしも仕事柄、色々な経営者にお会いしてお話を聞く機会が多いのですが、執行さん、そしてこの後のパネルディスカッションに登場された第一回「現代のロバート・オウエン賞」を受賞した野口義弘さんは本物の経営者、そして社会イノベーターだと思いました。

 授賞式は伊勢市にある皇學館大学の7号館で開催されました。これは、賞の主宰である現代のロバート・オウエンを探す会の事務局を、同学教育学部の吉田明弘准教授が務めているからのようです。
 会場には、学生中心に、見たところ100名くらいの聴衆がいました。

 執行さんは、福岡市で餃子専門店「黒兵衛」を経営する株式会社いづみカンパニーの代表取締役です。ご自身も発達障がいを持ち、子どものころから、そして社会人となってからも、周囲とうまく協調することができない悩みを抱えていました。


 ご結婚されますが、洗濯や炊事もうまくできず、色々なことをあれこれ考えているうちにヘトヘトに疲れ切って一日が終わってしまう状態の繰り返しだったそうで、ついにお子さんを抱えたまま離婚するに至りました。
 その後、居酒屋を経営していた男性と縁あって再婚するのですが、その時に初めて携わった「餃子づくり」の作業が、実は発達障がいや自閉症の人にとって大変向いているものであることを発見したのでした。

 餃子には玉ねぎを使いますが、皮が付いた茶色い玉ねぎを、皮をむいて白くする。つぎにそれをみじん切りにして炒めると、再び茶色くなる。このように仕事の到達ラインが視覚的に分かりやすい作業が障がい者には向いているのだそうで、ご自身も職場環境で苦労してきた執行さんは、お店を新しく移転することとなった時、思い切って、住宅地の中の餃子専門店に衣替えし、心に障がいを持った人を従業員に雇うことを決意します。

 最初に雇ったのは、自閉症の男性でした。それまで職場実習や、まして雇用された経験もなかったこの方は、黒兵衛の他のスタッフが受け入れに不慣れだったこともあり、たびたびパニックになったり問題行動を起こしてしまいます。
 この方に対して執行さんは、作業中に出る音(機械の音や作業中に流れているTVの音など)を共通言語にし、この方が今なにを考えているのかを把握したうえで、リラックスして心が通う状態の時に仕事の指示をする、という手法で ~これを受容的交流療法というそうです~ 対応します。
 当初はトラブル続きであった自閉症のスタッフを雇うという試みも、何年かすると定着し、今ではその方は勤続10年目。発達障がい者の雇用も増やし、今では周りのスタッフにとってもなくてはならない戦力と認知されているそうです。

 うまく行った理由として執行さんは、障がい者就労支援とは、障がい者に仕事を与えることではない。餃子を買ってくれるお客様にサービスすることであり、お客様からスタッフに「おいしかった」「ありがとう」といった感謝が伝えられることで、自分たちに社会での役割や居場所があることを体験してもらうことと理解するべきで、自分はそのように実践してきたとおっしゃっていました。
 また、お店の周囲の地域の人の理解と協力が絶対に必要で、時に問題行動を起こす障がい者の病状への理解や、あえてその人たちを雇っている意義、目的などを、トラブルが発生した都度、謝罪するとともに粘り強く説明し、徐々に理解されるようになっていったとのことです。

 一方で、問題としては、障がい者が職場に馴染むには非常に長い時間がかかること。また作業環境も、餃子店のように狭くてスタッフやお客の顔が見えるスペースでないとコミュニケーションが取りにくい面があるとのことでした。
 しかし、仕事面だけでなく、生活のケアもできれば、仮に重度の障がいがあっても働くことは十分に可能だとのことです。

 一つのエピソードとして、自閉症のスタッフを雇ったとき、その人が幼稚園内の運動場に侵入してしまったことがありました。すわ不審者!?と大騒ぎになったそうですが、執行さんが事情を話して園長に謝罪したところ、「この園にもいろいろな障がいを持った園児がいます。この子たちが成長して大人になった時、働く場所が絶対に必要なので、そのような職場がどんどん広がるように頑張ってください。」と逆に励まされ、執行さんは涙が出るほどうれしかったと言います。

 40分ほどの講演でしたが大変感動的であるとともに、執行さんのイノベーターとしての強い信念と実行力を感じさせる内容でした。
(なお、当然ですが、このブログに書いた内容ははんわしに文責があります。)
 とりあえず黒兵衛の餃子を通販で買って、少しでも応援させてもらいます。

 このあとは、少年院から出所した非行少年を130名も雇用している北九州市の有限会社野口石油 代表取締役の野口義弘さん、「現代のロバート・オウエン賞」特別選考委員で朝日新聞編集委員の中島隆さん、そして皇學館大の吉田先生の3名で「自前の思想」をテーマにパネルディスカッションが行われました。

 詳細をここに書ける筆力がないのが残念なのですが、「現代のロバート・オウエン賞」は障がい者や犯歴者の雇用をしているというだけでなく、そのことに自前で取り組んでいることを評価する表彰制度です。

 吉田先生によれば、障がい者雇用などは大きな問題として社会的にも認知されつつあり、行政が雇用した企業に補助金を出すといった支援制度もある。しかし、残念ながら行政の支援が打ち切られると解雇してしまったり、障がい者を「安い労働力」として使い捨てる発想の事業所もまだまだ多いのが現状であり、このためには経営者が自前で、つまり行政の補助金などは当てせずにアクションする姿勢が重要であるとのことです。

 また、中島氏からは、現代の企業経営の常識となっているコンプライアンスとか、コーポレートガバナンスの浸透が障がい者や犯歴者の雇用を妨げているとの指摘がありました。法令は遵守しなくてはいけない、社員は利益を最大化するために合理的に行動しなくてはいけない。この思想が強調されるあまり、「問題行動」を起こしがちな精神障がい者や「規範精神が低い」犯歴者などを雇うことが企業にとってリスクとなっているというのです。これは非常に重要で、何らかの社会的な合意や中小企業経営者によるブレークスルーが必要なのは確かだと思います。
 一番興味深かった、というか、単純に面白かったのは野口社長のお話しでしたが、野口社長は非行少年の更生に長年協力してきた功績で平成23年度社会貢献者表彰や第49回吉川英治文化賞も受賞しておられるので、詳細はぜひこちらの関係資料をお読みください。
 九州弁で訥々と話された野口社長ですが、口では言い表されない苦労を重ねてきたのではないかと推察します。

 というわけで、わしにとって一つの新たな地平が開けたとも思えるような「現代のロバート・オウエン賞」授賞式でした。三重県で、それも伊勢市で、このような素晴らしい賞の授賞式が行われたのは本当に誇らしく思えます。今後の課題は、この賞の存在を三重県をはじめ、全国の企業経営者にどう広めていくかだと思います。
 おそらく、非行少年の更生などに取り組んでいる中小企業経営者は少なくないと思いますが、自前主義であるがゆえに他に話が聞こえてくることがないからです。PRの点は、行政もふくめ、関係機関とタイアップする余地はあるような気がしました。

2 件のコメント:

餃子専門店黒兵衛 さんのコメント...

はじめまして、半鷲様。突然のコメント投稿失礼いたします。
当方は今回記事にしていただきました、執行泉の経営する福岡の餃子専門店黒兵衛と申します。
10日の授賞式にご出席いただき、そして当店社長の講演に新しい可能性を感じていただきまして、感無量でございます。
また、姉妹店の日進店でのご購入誠にありがとうございます。
ぜひこの記事を当店のツイッター(https://twitter.com/kurobee8150082)やフェイスブックで取り上げさせていただきたいのですが、リンクしてもよろしいでしょうか。
唐突なお願いで恐縮ですが、前向きにご検討いただけましたら幸いです。

餃子専門店黒兵衛

半鷲(はんわし) さんのコメント...

はんわしです。お目にとめていただき光栄です。
リンクしていただくのはもちろんまったく何の問題もありません。ぜひよろしくお願いいたします。