2015年10月28日水曜日

国が大学の「サービス業学部」新設を支援へ

 時事通信社が配信している地方公務員向けの情報サイト 官庁速報 によると、経済産業省が、宿泊や飲食、運送などのサービス業の経営者を育成するため、専門の学部やコース、講座を新設する大学などへ支援を強化します。文部科学、厚生労働両省とも連携して、平成28年度は20校程度を支援する方針だとのことです。 (10月27日付け)

 経済活動が成熟すると、産業の中心は製造業のような第2次産業からサービス業のような第3次
内閣府資料より
産業にシフトしていきます。これは全世界的な傾向で、日本もGDPの約7割はサービス業が生み出す付加価値に依っています。
 しかし同時に、サービス業の労働生産性、すなわち労働者一人当たりが生み出す付加価値の額は、技術革新の効果が大きい製造業に比べて低い傾向があり、経済のサービス化が進めば進むほど、GDPの伸び率は低くなっていくというジレンマを抱えています。
 また、同じサービス業でも生産性は国によって違っており、欧米諸国に比べて日本のサービス業の生産性が低いことも長らく指摘され続けてきました。

 政府は平成25年には0.8%だったサービス業の労働生産性の伸び率を、平成32年までに2.0%に引き上げる目標を設定し、宿泊、運送、飲食、医療、介護、保育、卸・小売を重点分野と位置付けて、今年度から大学などがサービス業者と提携してサービス業経営の教育プログラムを開発する場合に補助金を出すといった支援を行ってきました。



 来年度からはこれをさらに拡充し、 コースや講座にとどまらず、学部新設を目指すとともに、民間事業者による外部評価の仕組みを取り入れる教育機関を重点的に支援します。また、教育機関とサービス業者の提携をさらに促すため、両者のマッチング支援にも乗り出すとのことです。

 このように、大学でサービス業の経営者やスペシャリストを育成する方針は、以前このブログにも書いた冨山和彦氏も主張していたことです。
 詳しくは、その時のわしのブログをご覧いただきたいのですが、冨山さんは、日本の経済活動は世界で戦っていく先端的な製造業やICT産業のようなG型産業と、地域密着型のサービス業のようなL型産業に分けられるが、都市部との格差や活力の低下が指摘されている「地方」を活性化するには、地方経済の主流であるサービス産業の生産性を向上させていくことが急務だとしています。
 その具体的な手法として、生産性が低く競争力を失った企業は退出させて(=行政が延命させない)、新規創業を増やし、競争を促進して生産性を高めていくことが必要であると提唱していました。
 冨山さんの言う具体策のもう一つが、文科省の「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で提唱している、
 Lの世界の生産性を向上させるためには、L型大学における「職業訓練の展開」が必要
 というものです。
 冨山さんによれば、全国にあまたある大学も、東大のように世界最先端の研究を行う少数のG型大学と、実学教育や職業訓練を行う大多数のL型大学に二分されるので、特に地方に多いL型大学では、マイケル・ポーター(はんわし注:高名なアメリカの経営学者)の戦略論などでなく、「弥生会計」の使い方を、シェイクスピアの文学などでなく観光ガイドに必要な英語を、教えたほうがいいと主張しています。(文科省の審議会での冨山さんの資料はこちら
 今回の経産省の対応も、これらの一連の議論を踏まえたものと言えそうです。

 大学で実学を教育すること、特にサービス業に必要な人材を育成すること、これらのこと自体にわしは異存はありません。21世紀型の産業構造に日本が移っていくために、ぜひとも必要なものだとさえ思えるのです。

 しかし、同時にこうも考えます。
 現在、三重県でも「観光学」を標榜した学科を持つ大学がすでにあります。この大学では観光学科創設からすでに20年近く経過しており、多くの卒業生を世に送り出しているはずですが、少なくともわしが見聞きする範囲では、この大学の卒業生が日本の観光業界の第一線でバリバリ活躍しているとは限らないようです。(もちろん、多数のOB、OGが活躍されているのでしょうが)
 また、観光学のコースが大学としてのブランドや、その大学が立地している自治体の観光発信力を高めている、という結果にもつながっていないように見受けられます。
 残念なことに、宿泊業、飲食業、運輸業など、観光業の大宗を占めている業種では、まだまだ大学での専門教育の必要性は認められておらず、人はOJTで育てるものという認識が一般的なのかもしれません。
 人材を育てると同時に、その人材を受け入れる素地、ニーズがサービス業界にないと、せっかくの人材も宝の持ち腐れであり、ひいては産業全体の底上げもかないません。

 三重県観光業の人材育成の話にこだわれば、かつて30年近くも前、リゾート産業を地方活性化の起爆剤にするのだとして、開発を推し進めた「総合保養地域整備法」(通称、リゾート法)なるものの後ろ盾を受けて、当時の二見町に「リゾート短大」なる専門学校が作られたことがありました。
 巨額の公費を投じて建設され、学校の運営は民間(職業訓練法人)が行う方式でしたが、結果的に数年で経営は行き詰まり、現在でも校舎の廃墟が残っているという失敗に終わりました。
 バブル経済の崩壊で、リゾート産業が極度の不振に陥り、人材育成どころではなくなったことが原因とされていますが、地元三重県のリゾート業界に、そもそも従業員は人件費が安ければよく、ヘタに専門教育を受けた人材には高給を出さねばならず雇いにくい、という認識が強かったからとも言われています。
 もはや多くの人が忘れ去ってしまったリゾート短大ですが、これと同じ失敗は犯さないように願いたいものです。

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