2015年10月12日月曜日

TPP合意で、日本の医療保険はどうなるの?

 やや旧聞に属しますが、今月5日、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定締結の交渉が、参加国の間で大筋合意に達したことが報じられました。
 TPPは参加国12か国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、アメリカ、ベトナム)で構成される経済連携協定であり、簡単に言えばモノやサービスを貿易するときの関税を撤廃(=貿易を自由化)して経済活動を活発にすることが目的です。しかしTPPはこれらのほかに、政府調達、貿易円滑化、競争政策など幅広い分野でも貿易や投資の自由化を認めようという理念を持っています。
 当然ながら、加盟各国はそれぞれ対外競争力が低い産業を抱えているので、その産業は保護しようと、原則として物品の関税は10年以内にほぼ100%撤廃することが原理原則ではありつつも、自国に有利な例外を認めさせようと熾烈な交渉を続けてきていました。
 2年前、先行していたTPP交渉に乗り遅れてはならないと日本も参加することを民主党政権が表明した時には、やれ米作り農家がいなくなるとか、酪農家がやっていけなくなるとか批判が噴出し、大きな社会問題になりました。
 しかし、日本を含め各国の交渉自体が難航していたため、TPPはもはや合意に至らないのではないかという観測も流れたりして、農業関係者の懸念もややトーンが落ちてきていたように思える、その矢先の合意発表でした。



 TPPの問題点やメリット、デメリットについては多くの論者が論じており、ここでわしが書く必要はないと思います。農業への影響は大きいでしょうが、今まで何十年に渡って農業が保護、育成されてきた中で、貿易自由化をチャンスと捉え、日本の付加価値が高い農産物を海外に輸出しようという意欲とビジョンを高らかに掲げる農業者が多数現れてきたのは本当に心強く思います。
 仮にTPPが発効すれば、生産性の低い農家は多く淘汰されるでしょうが、高齢化が進む農業従事者の現状を見てもこれはやむを得ないことで、競争力のある農家への支援と共に、廃業する農業者への転職支援や農地の流動化の仕組みづくり、農地を含めた都市計画のあり方などが話し合われていくべきでしょう。
 
 しかし、一方で、一連のTPP合意報道に関してわしが不思議に思うのは、農業や、自動車、製薬などの一部の産業に関する情報以外は、ほとんど流されていないように思えることです。
 TPPは産業や対象別に24の部会が作られており、たとえばサービス業分野に関する部会ではどういった内容が合意されたのかがほぼまったく報道されてないように思えます。

 サービス分野で懸念されているのは、たとえば次のようなことです。

・医療保険分野
 日本は一つの病気に対して、国民健康保険を使った診療と、公的保険外の診療(自由診療)を同時に使う診療を、いわゆる混合診療が認められていません。しかし、TPPが発効すると混合診療が解禁されるので、アメリカのように民間医療保険しかなく、往々にして営利主義だと言われる病院経営が増加し、患者が多い大都市と少ない地方の医療に格差が生じ、現在の国民均一の公平な医療サービスが持続できなくなってしまうのではないか。

・資格相互認証分野
 日本では医師や弁護士などの資格を持って実務を行うのは医師免許や法曹資格などの資格が必要です。外国人が日本で医療行為をしようとすれば日本の医師免許が必要になります。しかし、TPPが発効すると相互主義となり、日本の実情を知らない外国の資格しかない医師や弁護士、税理士などが日本で事業を行うようになり、専門サービスの質が低下するのではないか。

・公共調達分野
 日本では、公共工事や物品購入の入札に、一定の経営水準とか地域要件が求められることが普通です。しかしこれは実績のない海外の業者を排除する閉鎖的な慣行なので、仮にTPPが発効すると、これらの条件は付けられなくなり、仕様書も外国語作成、支払いも海外通貨使用が認められ、中小企業が多い国内の建設業や卸売業は過当競争となるのではないか。

 このほかにも、TPPにはISD条項という、企業や投資家を保護する条項があるそうです。ある国が、その国内法で外国企業の営業を制限した場合、不利益を被ったとしてその企業や投資家が、その国を訴えられるという制度です。
メ このISD条項はTPP以外のFTAにも採用されている場合があるそうですが、その先例を見ると、
・メキシコに進出したアメリカの産廃処理業者が、産廃の埋め立て地を建設したが、有害物質が流出したため、地方自治体が建設許可を取り消した。それを不服として事業者が提訴し、訴えが認められ、メキシコ政府は多額の賠償金を支払わされた。
・アメリカの製薬会社がカナダで新薬の特許を申請したところ、臨床試験が不十分として特許を与えなかった。米製薬会社はカナダの裁判所に持ち込んだが却下されたので、ICSIDに提訴。カナダ政府に対する1億ドルもの賠償請求が認められた。
(以上の例は、ブログ「もうすぐ北風が強くなる」より引用しました。内容の真偽は確かめていません。)

 もしこんなことになれば、もちろん影響を事前に予測することは不可能なほどに懸念が広がることになりますが、たとえば、確実に起こりそうな心配事はなんなのか、まずは国民で共有し、どうすればよいかの議論を重ねていく必要があると思います。

 まだまだ合意内容の全貌は明らかになっていないのだとは思いますが、TPPを農業VS製造業に矮小化することだけはやめるべきだと強く思います。


■はんわしの評論家気取り TPPは農業よりサービス業が問題(2010年11月9日)

0 件のコメント: