2015年12月30日水曜日

地域活性化に関する大きな誤解

【読感】地方創生の正体 -なぜ地域政策は失敗するのか 山下祐介/金井利之著 (ちくま新書)

 日本創生会議なる民間団体が公表し「消滅可能性都市」というショッキングなセンセーションを起こした、いわゆる「増田レポート」を痛烈に批判した ~経営難で市町村という組織が消滅することはあっても、人々の生活の場であるまちやむらが消滅することなど原理的にあり得ないことを喝破した~ 書である「地方消滅の罠」(ちくま新書)の著者、社会学者(首都大学東京准教授)山下祐介氏による興味深い新著をやっと読了しました。

 社会学者(東大教授)の金井利之氏との対談形式で書かれており、確かに「地方消滅の罠」よりは読みやすいのですが、全般的に文章が長く、わしにとってはやや難解であったことは正直に告白しておきます。

 本書の問題提起は、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方の復興が、時間的に数年を経過し、あれだけ莫大な予算が投入されながら、遅々として進まず、あるいは国や自治体の主導で住民の意向が聞き入れられないまま事業遂行されてしまうのはなぜか?という点です。
 震災復興の現場で顕在化しているこの問題が、実は全国で熱にうなされたような競争状態となっている「地方創生」に関する一連の施策に共通しているというのです。


 はばかりながら、わしも経験上、つねづねそう思っていますが、安倍政権が一昨年前から打ち出した「地方創生」、「まち・ひと・しごと創生」は、具体的な施策としてはほとんど目新しいものはありません。
 すなわち、
1)国(政府)が地方創生を国の重要課題だと宣言し、国の基本的な方針を定める。
2)地方自治体はそれを受けて、地域の実情に応じた独自の基本方針と実施計画を定める。これは行政だけでなく、地域の産学官が参加して地域の総力結集という体裁で作られなくてはいけない。
3)国は、これら地方の計画がメガネにかなう(=地方創生に資すると認める)ときは、交付金などで財政支援したり、官僚を派遣したりして支援する。
4)ただし、バラマキになってはいけないので、国は地方がやることをしっかりチェックする。
 という4段論法です。
 現在、地域振興分野に限らず、道路整備、河川整備、公園整備、障がい福祉、高齢者福祉、教育、などなどあらゆる行政分野がこのようなスタイルで進められています。
 地域振興に関して言えば、離島振興、過疎振興、中山間地振興、企業誘致などでそれぞれ根拠法(離島振興法とか企業誘致促進法とかの)が作られ、全国の自治体で無数の計画が作られ、予算とマンパワーが投入され、事業が実施されてきました。

 しかし結論を言えば、地域振興に大きな成果は出ていません。相変わらず「東京と地方の格差」とか「地域コミュニティの疲弊」とかは大きな課題であり、したがってここに至ってもまだ「地方創生」への支援が必要なのであり、その具体的方法は、表現は悪いですが~実務者にとっては~、今までの施策の焼き直しと寄せ集めという印象が非常に大きいものです。
 しいて言えば、石破担当大臣が強調している、4の事後チェックの重視はやや目新しいかもしれません。

 本書「地方創生の正体」では、このようなデジャビュに満ちた地方創生の事業スキームと、震災復興で顕在化している課題を踏まえて、全国の現場で起こっているさまざまな矛盾や行き詰まりを、そして近い将来に起こるであろう地方創生事業の結末を、鋭く指摘し、あるいは予言する内容となっています。
 詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいのですが、非常に共感した部分を二つメモしておきます。

その1 いつの間にか、国の責任が地方に転嫁されている
 地方の過疎化高齢化、若者の流出、経済の停滞などは、多くは国の政策や立法が原因でもたらされた部分があります。地方自治体も含めた地方に責任がないとは言えません。が、大きなトレンドの流れを一地方で変えるには限界があります。
 しかし、国はそれに対する根本的な処方箋は示すことができません。カネ(交付金)は出すから知恵は地方が出しなさい。そしてそれがキチンと実行されて効果が出ているかは国がチェックしますから、地方はしっかり頑張りなさい、という論法なのです。
 これは論理のすり替えであり責任転嫁です。
 サボっている地方は消滅しても仕方がないと脅され、いつの間にか地方自治体は、ある種不毛とも言える競争の俎上に乗せられているのです。

その2 実は地方の個性が無視されている
 さらに困るのは、国の支援を受けるには期限か切られており、ごく短期間に地方自治体は独自戦略なるものを作らされることです。時間がないのでコンサルに丸投げするか、既存の各種計画を寄せ集めただけの、要するにキンタロー飴的な計画になりがちです。
 とにかく大至急で計画を作り、交付金や補助金にエントリーしなければ、その財源はみすみすよその自治体に行ってしまうのです。指をくわえて見ているわけには行きません。いや、そんな風な競争心理に追いやられてしまいます。
 一方で、真に成功している地域振興の現場では、成功の秘訣とは、住民の合意であったり、独立採算できるしっかりした事業計画づくりであったりします。ボトムアップとか、核になるメンバーの強い結集であったりとかが ~その地域地域の実情に応じた~ キーになります。
 しかし「残念な」首長や議員などが、バスに乗り遅れるなとばかりに役所の尻を叩いて拙速な計画づくりを行うと、それに投入される予算やマンパワーは結局死にガネになってしまいます。

 これはまさしく、今まで地域振興の分野で繰り返されてきた「必敗の法則」ということができます。国の予算獲得が主眼となり、次いで予算の消化が命題となり、一時的な経済効果はあったとしても、その事業は継続せず自立も果たせません。過去がこの繰り返しだったように。

 残念ながら本書では ~わしの読解力のせいかもしれませんが~ 上記のような問題点の指摘はあったものの、そしてそれにはきわめて納得でき共感できるものの、ではどうしたらいいか、については言及が弱いような気がしました。
 もちろん、答えを他者に求めてもどうしようもないわけで、地域地域で考えるほかないのでしょうが。

 本書からは離れますが、ここで懸念されていたような問題がチラと頭をのぞかせているようなブログを読みました。
 南九州のある過疎地域の町に副町長として派遣された若い総務官僚が書いているものです。
 この方は、着任早々、さまざまな改革と新規事業の立ち上げを実行され、関係方面から高く評価されています。「地方創生への1番の誤解」と題された彼のブログには次のようにあります。

・最近、マスコミなどから「この町では、これだけの施策を半年余りの短い期間でよく実践できますね。地域での反対や対立はないのですか?」と聞かれるが、それに「ありません」と答えると怪訝な顔をされる。
・これこそが「地方創生への1番の誤解」である。
・地方行政に注目が集まるのは、迷惑施設の建設とか公共施設の統合再編といった賛否両論がある問題についてである。それぞれの立場から侃侃諤諤の議論が多いので、「地方行政とは対立を解消するものだ」と捉えている人が多いのだろう。
・もちろん賛否両論がある問題に取り組まなければならないときは丁寧に誠心誠意対応しなければならない。しかし、自分たちで地域づくりを行うときに、わざわざ賛否両論がある問題から取り組む必要はないし、むしろ取り組んではいけない。
・賛否両論があるような最も難しい問題に最初から取り組むのはつまずきのもとだろう。まずは、みんなが総論で賛成、大きな夢を描けるものから始めるべきだ。

 そのうえで、この副町長が取り組んだ施策のいくつかが紹介されるわけですが、わしが思うに、国から地方に天下ってくる官僚 ~総務省のキャリア官僚という肩書でなければ、この若さで事務方トップの副町長になれるはずがない~ の1番の誤解が、まさに上記のようなものの見方です。

 彼らキャリアは、法律や制度、事業を創ることが仕事です。それには高い見識が必要なことはよく承知しています。しかし、残念ながら彼らはできあがった制度や事業を着実に実行していくこと、マネジメントしていくことにはほとんど知見がありません。能力もありません。
 事業の実行には多くの軋轢や矛盾が生じますが、彼らはそんな泥臭い汚れ役は担うことなく、制度や事業を創ったら、さっさと次のポストに転勤してしまうのです。この副町長さんも、あと1~2年で本省に呼び戻され、きっとご栄転されるのでしょう。
 そんな本質的なよそ者に住民が心を開くわけもありません。なので公然と文句も言いません。文句が出るのは彼がいなくなってから、「身内」の町長や役場職員に対してなのです。
 キャリア官僚がお手柄で作っていった制度が立ち往生するのはその時です。国主導、キャリア官僚主導の地域活性化の最大の課題はまさにここなのです。
 

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