2016年1月26日火曜日

ドイツ人は1年に150日休んでも仕事が回る

【読感】 ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか 熊谷徹著 青春新書

 本書の中で、NHKで政治記者を務め、90年代からドイツで暮らしている著者の熊谷さんが紹介するドイツ人の働きぶりには驚かされます。

 ドイツでは法律で、労働者には年30日の有給休暇が与えられます。これは日本の20日と比べても多い日数ですが、一般労働者のほとんどは、この30日もの年休を何と100%完全に消化しているそうです。
 日本人としては素朴に「そんなに休んで周りに迷惑がかからないのか?」が心配になりますが、ドイツでは社員は ~もちろん、取引先の会社やお客さんも~ すべてが交代で100%年休を消化するので、当たり前すぎて、そもそもそんな問題にはならないのだそうです。
 しかも、労働者はこんなに休むのにもかかわらず、ドイツの経済は非常に好調です。2015年3月時点で失業率は4.7%。欧米先進国の中でもきわめて低い数値です。また、GDPも2014年の実質経済成長率は1.6%で、ユーロ圏諸国平均の0.9%を大きく上回っています。(ちなみに日本の平成26年の実質経済成長率は、-0.1%)

 なぜこんなことが可能なのでしょうか? 逆に言えば、なぜたくさんの人が夜遅くまで残業して頑張っている日本は低成長のままなのでしょうか?

 日本の企業に関する大きな課題は、諸外国に比べて労働生産性が低いということです。
 生産や流通といった経済活動で生み出す付加価値額を、投入した労働量(労働時間)で割ったものが生産性です。ほぼ全ての業種で、日本は欧米諸国を下回っています。

日本生産性本部「日本の生産性の動向2015年版」より
これには多くの原因がありますが、その一つは、日本は長時間労働が常態化していることです。
 日本の会社組織は一人ひとりの社員の職務範囲が明確に決められておらず、チーム(会社、部、課など)が協力して職務に当たるスタイルです。このため何よりも社内の和が重んじられ、チームへの忠誠を示すために長時間残業して一体感を維持することが、いわば組織の知恵として受け継がれてきました。
 これが極端なのが、三重県庁もそうであるように、公務労働です。
 民間企業では利益を生まない残業は無意味ですが、公務労働は利益を生むものではなくコストでは評価できないので、いかに「たくさん残業するか」「遅くまで残っているか」が職員の能力や忠誠心として評価されるのです。

 著者の熊谷さんもNHK記者の時代、3ヶ月間休みなく、ヨーロッパ諸国で取材を敢行していたようなモーレツ社員でした。しかしあるドイツ人から「仕事は重要ですが、自分の時間を犠牲にすることに他なりません。我々ドイツ人にとって、休暇とは、人生の中で最も重要なものです。」と諭されたことが心に残りました。
 その時はあまりピンとこなかったドイツ人にとっての休暇が、実際にドイツで暮らし始めるようになると、実はドイツ経済の強さの本源であることを知ることになるのでした。

 遵法精神や法規範意識が強いドイツ人は、法律で明確に規定されている8時間の労働時間を所与の前提条件とします。8時間で、いかに効率よく働くか、いかに結果を出すかが命題なのです。このために国をあげて、徹底した仕事の効率化と、分業システム構築が進められています。スタートとゴールが明確に設定され、そのためのプロセスを最適化するというのは日本がもっとも苦手とするところです。
 その一方で、ドイツはアメリカのような優勝劣敗、弱肉強食的なバリバリの資本主義(成長至上主義)からも距離を置いています。労働組合の力が非常に強く、会社は労働者を簡単に解雇できません。生活保障、職業訓練も充実しており、労働者は経済的な弱者であって政治や社会制度に労働者の声を取り入れることもドイツ社会のコンセンサスになっています。
 これもまた、今や全雇用者の4割も占めるいわゆる非正規雇用者の大多数が労働組合にも入っていない日本とは大きな違いです。労働組合は企業別で、内部に序列があり、労働者全体の利益を守っていこうという行動理念にはなっていません。
 このように、著者が身近に体験した出来事から、ドイツ人が理想としていることや考え方、行動様式などが解説され、それが強い経済とどうつながっているかがわかりやすく説明されています。詳しくはぜひ本書をお読み下さい。 
 
 ドイツがすべてよくて、日本が全てだめということはありえないし、わしもそう言うつもりはありません。
 しかし、間違いなく今の日本社会は過渡期に差し掛かっています。皆が組織に忠誠を示して団結してコトに当たっていくやり方では、これ以上高い価値を生み出すことは出来ないのです。社員一人ひとりの能力や意欲を高め、社員たちの多様な価値観やライフスタイルを集合させてコトに当たっていくほうが高い付加価値やイノベーションの原動力となるでしょう。
 考えようによっては、ドイツで長い年休が100%消化され、それでも高い生産性を維持しているのは、それによるリフレッシュ効果が現実に経済的な価値を生み出し、生活がより豊かになっているからです。
 日本でも「ワークライフバランス」だの「女性活躍」だのの掛け声が勇ましいですが、これはキャンペーンとしてはあまり意味がありません。そうではなくて、社員がしっかり休暇を取ることでイノベーションが生まれ、女性社員が活躍できる会社にした結果、実際に大きな利益を生み、社員がいっそう豊かになった、という実績を、論より証拠で生み出さなければ社会に普及しないのです。
 逆に言えば、年休消化100%で、かつ利益が高い企業が多く輩出してくれば、残業漬けの社員や会社は淘汰されていくでしょう。そうでなくてはいけないのです。

(はんわし的おすすめ ★★☆)大変読みやすい。

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