2016年2月22日月曜日

良い規制緩和、悪い規制緩和

 またまた日経新聞ネタです。本日(2月22日)朝刊のコラム「春秋」が秀逸でした。
大田区HPより
 東京都大田区が国家戦略特区制度を使って、一定要件に該当する外国人滞在者への宿泊提供に関しては旅館業法を適用しないという、いわゆる「民泊特区」制度をスタートさせたことにまつわるものです。
 自宅を不特定多数の客に有償で宿泊させる行為は、Airbnbなどの仲介サービスが全世界的に普及している実態がある一方で、既存の旅館やホテル、民宿などからは事実上の脱法行為であって営業圧迫になるとの声も強く、何らかの解決策が強く望まれていたところです。
 このような中で、外国人訪問者が急増し、空港に近いにもかかわらず宿泊施設の十分なキャパシティがなかった大田区が、いち早く特区を活用して民泊を解禁したのでした。

 春秋は、大田区が民泊を始めたい希望者に対して配布した説明資料の、まず法律用語の難解さを嘆くところから始まります。
 さらに資料を読み進めて、手続きの図解を見ると、民泊開業のための事前相談が、区役所(生活衛生課、建築審査課、環境清掃管理課)、消防署、税務署の最低5ヶ所で必要なことなど、現実問題として幾多のハードルがあることを再認識させられます。
 結果として、「合法な民泊」は個人が気軽に始められるものではないとよくわかった。
と春秋子はボヤき、次のエピソードに続いていきます。


 実際に大田区役所のホームページを見ると、資料が詳細にアップされていて親切といえば親切ですが、確かにこれを一個人ですべて読み込み、全部を解決していくには相当なエネルギーがいるだろうと予感させられます。
 仮に民泊の開業をしたいと思っても、主な認定要件だけでこれほどあるのです。

○賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき使用させるものであること。
○施設の居室の要件等
 ・一居室の床面積25平方メートル以上であること。
 ・出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
 ・出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
 ・適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
 ・台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
 ・寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること。
 ・施設の使用の開始時に清潔な居室を提供すること。
 ・施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること。
○当該事業の一部が旅館業法 第二条第一項 に規定する旅館業に該当するものであること。
○滞在期間が6泊7日以上であること。
○建築基準法上「ホテル・旅館」が建築可能な用途地域であること。

 このほかにも、宿泊客が出したゴミは事業によって発生した「産業廃棄物」なので一般の家庭ゴミと一緒には捨てられない、といったような思わぬ伏兵もあります。
 6泊以上する外国人しかお客にできないことも含めて、本当にこの民泊特区で民泊施設が掘り起こせるのかははなはだ疑問と思わざるを得ません。(もちろん、大田区が前向きに取り組んだ姿勢は大いに評価できますが。)

 春秋の話に戻ると、関西のある街で3年前に民泊を始めた女性のエピソードが紹介されます。この内容を読むと、明らかにこの女性の動機はボランティア精神であって、お礼として最低限の報酬を受け取っていたに過ぎません。このような善意、あるいは地域資源(ソーシャルキャピタル)の活用すらも、法を厳格に適用すれば違法行為となり、すっぱりと止めてしまうか、旅館という「ビジネス」にするかの二者択一を迫られることになるのを複雑に受け止めているというのが結論です。
(2月22日付け春秋へのリンクはこちら

 この問題提起は実に本質的です。
 これからは官が規制するのではなく、民の自由な発想こそが社会の活性に重要となる。
 社会は成長ステージから成熟ステージに移ったのだから、何かを新しく作るのでなく、今あるものを最大限活用するべき。
 これらはコンセンサスと言ってよく、これに反論する人は少ないでしょう。規制緩和もこの流れで叫ばれているものです。
 しかし現実を見ると、不要なはずの規制にも一定の合理性はあって、実際に規制に守られているのは家族経営の旅館や民宿が多い。規制緩和はこれら弱い経営者を退場させることになり、地域の経済活性を(短期的には)弱らせてしまう。この袋小路に入ってしまっているのです。

 しかしやはり日本社会の現状を俯瞰すると、今は大きな変革期に当たるように思います。失われた20年の間にも、地域の中小企業を守るために、平成の徳政令と評された金融円滑化法(モラトリアム法)のような保護政策が連発されましたが、地方経済は一向に回復しませんでした。
 経済再生が従来の延長線上にないことは明らかで、ここは民泊のようなまったく新しい血を入れるしか方法はないとも思えます。
 
 何にしろ、大田区が日本最初の取り組みなので、当面は大田区の情勢を見守るしかありません。しかし、これで民泊も増えず、宿泊施設は足りず、ということになれば、結局規制緩和は失敗だったと結論付けられて、あらゆる規制改革が後退してしまいかねません。

 

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