2016年3月10日木曜日

外国人花嫁というブームがあった

 先日、国(総務省)が発表した平成27年国勢調査の速報値によると、日本の総人口は1億2711万人となり、前回(平成22年)調査時に比べて94万7千人(0・7%)の減少となりました。大正9年に国勢調査が始まって以来、人口が減少したのは初めてということです。
 もっとも、総務省は「人口推計」という調査も行っており、これによると実際には平成22年ごろから日本の総人口は減少が始まっていたことから、今回は、その事実が国勢調査によって再確認されたという以上のことはないわけですが。
 しかし、このような現実が突きつけられたこともあって、人口が減少している「地方」(=都市部に対しての田舎という意味での)では、少子化対策、なかんずく、若年者の結婚促進対策がますます加速することになろうかと思います。
 わしは時々、これと関連して連想していたのが、バブル全盛の30年ほど前、若者、特に農家の跡とり男性の結婚難が大きな地域問題となっていた東北地方などの農村部で、中国やフィリピンといった国々から若い女性を花嫁に迎える、いわゆる「農村の外国人花嫁」というブームです。
 疲弊する農村の起死回生策として行政が主導した事業でしたが、花嫁の出自の貧困 ~花嫁の出身国と日本との経済格差~ に付け込んだ行為であるとか、多くの女性たちは日本語で会話もできない状態で結婚を決断しており、実質的な人身売買である、などといった批判が内外から高まり、一部では法外な仲介料をせしめるブローカーが暗躍したことから2000年ころにはほぼ終焉した、例のあのブームです。

 今思うと、あの時の熱狂ぶりが、不謹慎な言い方が許されるなら「懐かしく」さえ思えます。
 農家の跡取りたちが40歳近くになっても独身なのは、農作業が重労働であり、しかも田舎は大家族で嫁はそこに隷属する身分でプライバシーもないためだとされていました。
 きわめて日本的な発想ですが、当時の村々の有力者たちは、農作業の生産性を向上したり、嫁の地位を向上させるのではなく、重労働にも隷属にも耐えてくれる(に違いないと信じられた)、貧しい国々出身の若い女性を花嫁として迎え入れるアイデアを思いつき、かつ、実行したのでした。

 安藤純子氏によると、農村での過疎化・少子高齢化・嫁不足による後継者不足は70年代に深刻化がピークに達したことから、80年代後半以降、山形県最上地区で行政が主導して外国人配偶者(女性)の受け入れを推進したことが嚆矢のようです。(農村部における外国人配偶者と地域社会 GEMJジャーナル 2009.3 No.1
 安藤氏がこの調査で対象としているのは、最上地域の中の戸沢村というところですが、この事例は非常に興味深いものなので簡単に紹介します。

 戸沢村の近隣の朝日町が、町主導で国際結婚の推進に着手したのは昭和60年のことでした。それ以来、最上地区の町村は次々と同様の政策に取り組み出しますが、戸沢村は当時の村長が「結婚はプライベートな問題」として行政主導する考えがありませんでした。このためJAが主催し、村が後援する、いわゆる婚活ツアーの実施や、結婚相談所の開設などを行いました。しかし、これらの施策は結果的に成果がなく、昭和63年の村長選で「農村後継者育成対策の充実、国際結婚の実施」を公約に掲げた候補者が現職を破って当選する事態となりました。これにより戸沢村でも国際結婚が村役場主導で進められることになったのです。

 村は役場の企画調整課内に結婚対策係を置き、フィリピンと韓国への事前調査や村内で結婚を希望する男性へのアンケート等を行い、人脈を使って具体的なマッチングに着手します。その結果、その年のうちに5組のカップルが成婚するという成果を上げたのです。
 時を同じくして民間の結婚斡旋業者も国際結婚の仲介を始め、韓国7名、フィリピン2名との婚姻も成立したため、単年度で何と14組もの国際結婚カップルが誕生するという成果をあげました。
 これがどれほど驚異的な成果かは、現下で各自治体が取り組んでいる婚活や結婚相談が往々にしてほとんど成果を上げていないことから見てもよくわかります。
 平成20年末時点で戸沢村には、韓国10名、フィリピン10名、中国18名の計38名の外国人配偶者がいらっしゃるということです。

 しかし、実質的に村役場が国際結婚の斡旋をおこなったのはわずか3年間でした。
 民間業者の進出により国際結婚のルートが定着したこと、そして、村の果たすべき役割が、降嫁した外国人配偶者の定住対策や生活支援へと移ってきたためです。
 このあたり、ぜひ安藤論文をお読みください。(リンクはこちら

 では、実際に戸沢村では人口はどう推移しているのでしょうか。
 「統計メモ帳」によると、下のグラフのようになっています。

統計メモ帳 戸沢村の5歳年齢階級別人口の推移より

 これを見る限り、人口減少傾向には歯止めがかかっていません。
 もちろん、この傾向は全国共通なので、戸沢村単独の取り組みで人口が増加するほど日本を取り巻く状況は甘くはないとも言えます。

 問題なのは、何をもって地域のあるべき姿とし、何をもって目標とするかです。なるべく人口は減らないほうがいい。なるべく若い人が多いほうがいい。これは当然です。
 しかし現実問題としてそうはならないのですから、目標をどう設定して、そのためにいくら費用をかけて対策を打つのか、を真剣に考えなくてはいけません。

 教訓とすべきなのは、ある種の「非常手段」とも思える行政による国際結婚推進事業でさえ、現実はこのようになっているということです。
 これは決して非難とか批判ではありません。少子化対策、結婚促進策に取り組んでいる地方自治体は、このような事例も教訓にすべきであると言いたいのです。

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