2016年3月8日火曜日

あなたがこの本を読むべき3つの理由

【読感】ニッポンのスゴい親父力経営 伊藤澄夫著 (日経BP社)

 三重県四日市市にある金型メーカー (株)伊藤製作所の代表取締役社長 伊藤澄夫氏による著書です。
 副題に 続・モノづくりこそニッポンの砦 とあるように、この本は、このブログでも紹介した前著「モノづくりこそニッポンの砦」の続編ともいうべき本です。
 伊藤製作所が作っている「金型」とは、たい焼きを作る型をイメージするとわかりやすいのですが、中に溶かした樹脂を流し込んで複雑な形の部品を作ったり、鉄板をはさみこんで凹ませたり穴を開けたりするのに使う金属製の「型」のことです。つまり、モノづくりの一番最初に必要となる道具です。
 摩擦や熱に耐える非常に固い金属で作られ、しかも非常に精密な ~ミクロン単位の~ 精度が求められるものでもあります。
 この「金型」の技術を切り口にして、社員約50名の中小企業である伊藤製作所が生き残りと事業拡大のため取ってきた戦略が本書のテーマですが、中でも以下で紹介する3つのポイントは、地域産業活性化やまちおこしに関心を持つすべての方にとって非常に参考になると思います。
 やや乱暴ですが、わしなりにまとめると次のようになります。


1)日本の高い技術力は外交カードになる
 金型はあらゆる製造工程の出発点になる技術なので、世の中で何か新しい製品が作り始められるにあたり、きちんとした金型が設計できて、その設計通りに精密な金型が作れ、作った金型をプレス機などで使いこなすことができる、というのは一国の工業力の水準を示すモノサシです。
 日本は長らく金型で世界のトップランナーでしたが、それでもグローバル化とともに徐々に金型技術は海外に移転しています。
 しかし、伊藤社長によると、安い労働力や低い生産コストを求めて製造業が海外に出ていくのは仕方がないことで、中小企業であっても海外の成長力をいかに取り込むかという、海外とのパートナーシップの構築に前向きに取り組むべきだと説きます。
 ただその際、パートナーに選ぶのは「親日国」でなくてはなりません。
 伊藤製作所が15年前に初めての海外進出先(工場建設先)に選んだ国はフィリピンでした。まっさきに治安の悪さが思い浮かびますし、地味なコツコツしたモノづくりには馴染まない国民性のようなイメージもあります。
 しかし、基本的に親日的であり、若者の多くが英語に流暢であることなどからフィリピンへの進出を決断し、人材育成に努めた結果、今では金型設計技術者も現地で育っています。
 日本の高い技術力は発展途上国にとっては喉から手が出るほど欲しいもので、反日感情が高い国ではなく、親日的な国に積極的に技術を供与したり人材育成したりして、技術力を外交手段として活用すべきだというのが伊藤社長の提案です。

2)中小企業はどうすれば儲かるようになるか
 しかし、海外展開などの基礎となるのは「しっかりとした経営基盤」があることです。伊藤製作所が事業を着実に継続し、拡大できたのは、3つの要因があったそうです。

 その1 社員を大切にする
 その2 他者の追随を許さない新技術の開発
 その3 常識と逆の方向に進む設備力

 特に1の社員を大切にする、というのは公私にわたって社員とコミュニケーションし、見守り、励まし、叱り、メリハリのある、しかし温かい関係が重要とのことです。伊藤社長はこれを「日本の親父力経営」と名付けました。この手法が、意外にもフィリピンや新たに進出したインドネシアでも現地社員から大きな支持を受けているそうです。
 設備力というのは、製造業はいかに生産コストを低くするかが他社との競争なので、常に最新・最先端の設備を導入して一人の社員当たりの生産額を不断に高めなくてはならないという意味です。金型の生産設備は億単位です。損益分岐点を見誤ると過剰投資となって会社は潰れてしまいます。どのような哲学と見通しでこのバランスを保っているのか。ややマニアックながら、ここは本書の肝の一つです。

3)地域の中小企業を守るにはどうすればいいのか
 国や地方自治体は常に「中小企業支援」の必要性を説き、補助金など巨額の予算を投じ続けてきました。しかし、日本の製造業の国際競争力は低下し、中小企業の減少(廃業)は止まりません。
 その大きな理由の一つは、経営者の新旧交代、つまり事業承継をわざわざ難しくしている今の税制です。伊藤社長によれば、企業が社会に貢献できるのは納税であり、利益を出している以上納税の義務があることは当然だとしながらも、仮に経営者が高齢となって子供に会社を承継させようと思っても、相続税があまりに高く、税を支払うために自分が持っている自社株などを売却せざるを得ないような事態に多くの経営者が戸惑い、苦しんでいます。
 この点は国もかねてから問題意識は持っており、会社承継時の株価をあらかじめ定めておく制度など承継をスムーズにする法制が整えられつつはあります。しかしそれでも万全でなく、今の税制は中小企業に営業利益を出さないことを強要しているも同然で、納税という卵を産む金のニワトリを殺すものだと批判しています。
 この指摘は非常に重要です。
 わしもよく実感するのですが、中小企業の経営者にとって、行政による補助金や助成金、販路拡大支援などはもちろん意味がなくはないでしょうが、いわば枝葉の話に過ぎません。
 一番大事な話は、儲けた金をいくら税金で持って行かれるかということです。税制いかんによって経営者や社員のモチベーションは大きく変わってきますし、複雑な今の税制を見直すことで事務の簡素化や透明性の確保も容易になるはずです。
 しかし、今の政治家や行政官は、治世の提要であり国の大本たる税制の議論を避けて、逃げまくっているようにしか見えません。消費税の軽減税率のように議論は混乱し、制度はますます複雑になって、ごく一部の専門家以外は理解できないブラックボックスとなっています。
 中小企業振興策の根本は、利益を多く生み出すようなモチベーションとなる税率の引き下げ(適正化)と、税務手続きの透明化、簡素化です。伊藤社長の主張は経営者として当たり前のことのように思えます。政治家がこの問題を正面から見据えないのはなぜなのでしょうか?

 これ以上はぜひ本書をお読みいただきたいのですが、地方の中小企業の経営者は立場上、なかなか本音を公に言わなかったり、特に政治的な発言は慎重な場合が多いのですが、伊藤社長はまさに直言であり、実際にビジネスでも成功を収めている一流の経営者であるからこそ、その内容には説得力を感じます。
 関係者にとって、本書は必読だと断言できます。強くお薦めする次第です。

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