2016年4月20日水曜日

伊勢神宮の素朴な不思議

 朝刊の折り込みに 伊勢御遷宮委員会なるところが発行しているらしい 伊勢のごせんぐう というチラシが入っていました。
 今年は内宮ご鎮座2020年にあたるそうで、日本書紀には伊勢神宮・内宮が現在地に創建されたのが「垂仁天皇26年」とあるので、それを無理やり現代歴に換算すると、今年は2020年目になるということなのでしょう。
 これは史実としては証明できない、まさしく神話なのでしょうが、それはともかく、このチラシに伊勢神宮の2020年にわたる歴史が書いてあるのかと思ったら、メインの内容は伊勢神宮の神嘗祭(かんなめさい)をお祝いする行事として昭和47年から始まった「初穂曳(はつほびき)」というイベントを紹介するものでした。
 それも、この初穂曳にみんなで参加しましょうとか、開催費用を寄付してくださいとか、そういった明確なメッセージではなく、「初穂曳とはこんなものです」とか「どこどこ地区の奉献団が運営を担当しました」という内容を、ただ淡々と説明しているだけです。
 伊勢神宮に関する(民間主催の)奉祝行事に関するチラシとかパンフレットは、なぜだかわかりませんが、このようにターゲットもメッセージもはっきりしない、つまりは誰に対して何を言いたいのかがよくわからない、情緒的でぼんやりしたものがたいへん多いことが特徴です。

 観光パンフレットでもない、ましてや神道の布教でもない、この 伊勢のごせんぐう のようなチラシが伊勢の街にあふれているのです。仏教やキリスト教のように体系だった教義が存在せず、頭で考える「論理」よりも五感で感じる「感覚」を重視する、自然崇拝としての神道のあり方と深く関連しているのではないかというのが、わしが常々感じることです。

 キリスト教やイスラム教のように宗教が道徳や社会規範の基礎にあるのとは違い、万物に感謝する心とか、自然の力を感じる感性を通じて、明るく正直に生きることこそが日本の神の意志に沿って生きることであって、このことが融通無礙というか、どうにでも解釈できる伊勢神宮の信仰の本質なのでしょう。

 ただ、これは、伊勢神宮の内宮(ないくう)が太陽の神であり、外宮(げくう)が農耕の神であるように、農業がほとんどすべての人民の職業 ~と言うか、生きる手段~ であり、集団的な農作業や水利の確保、田畑の開墾を通じて、価値観や道徳観がある程度平準化しており、同質性が高い世界だったからこそ成り立ちやすかったと言えるでしょう。

 神様が自分の口から何も語ってくれないのですから、信仰する側の同質性が失われ、価値観が多様化してくると、受け手の感覚も共通していることが前提で成り立つ、語らない宗教としての神道は危機に陥ります。
 その典型が、たびたびこのブログで取り上げているし、長らく伊勢に住んでいる人々も奇異の目で見る、この写真のような行為です。


 彼ら彼女らは、外宮の境内にある「三ツ石」とよばれる石に手をかざして「パワーをもらっている」のだそうです。実際に、ネットの観光情報とか信頼性の低い観光ガイド本などにも、三ツ石はパワースポットなどと書かれています。
 しかし、これはまったくの俗説であって、一般的な定説は次のようなものです。

【川原祓所】多賀宮遥拝所の近くに丸石三個を並べた石積みがある。俗に“三つ石”とよばれ、遷宮諸祭のうち鎮地祭、遷御前日の装束・神宝ならびに奉仕員のお祓い、後鎮祭のお祓いがここで行われる。川原というのは、むかしは宮川の支流がここを流れていたからで、いまは地震のために堰き止められて三つの池になっている。(歴史読本 昭和62年3月号 177ページ)

【三ツ石】外宮域内、別宮遥拝所の西南方にある、丸石三個を重ねた石積みを三ツ石と呼ぶ。式年遷宮で御装束神宝や奉仕員を祓い清める川原大祓がこの前で行われる。(検定お伊勢さん公式テキストブック(初版)45ページ)

 つまり、三ツ石は地震でなくなった昔の川原の場所を示す目印なのです。
 これらの方々には失礼ですが、真実を知っていれば決してこうしようとは思わなかったのではなかったでしょうか。

 伊勢神宮は、仏教や道教の強い影響によって一般の神社では定着した、おみくじ、狛犬、茅の輪、などといったものがありません。これらはまじないであって、皇祖神を祀る大廟の神聖性を汚すものだからです。
 しかし、この「三ツ石手かざし」のたぐいは今、伊勢神宮の参拝者の間で急速に広まっているように感じます。
 伊勢のごせんぐうを発行している伊勢御遷宮委員会は、敬神の意識が高い民間有志の団体だとお見受けします。今や、心ある人でさえも避けているように見える「パワースポット」の問題を正面から取り上げ、議論する ~むろん排斥し、歴史的・民族的な正しい信仰を取り戻すための議論をする~ ことをPRすべきなのではないでしょうか。

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