2016年5月10日火曜日

地域再生はなぜ失敗の連続なのか(その2)

【読感】地域再生の失敗学 飯田泰之ほか著 光文社新書

 5つの章からなる本書「地域再生の失敗学」からもう一つ紹介したいのは、東洋大学経済学部教授の川崎一泰氏による「官民連携の新しい戦略」という章です。マニアックな内容になりますのでご容赦ください。

 日本の政府は国債残高が1兆円を超える危機的な財政状況です。また、同じように地方自治体も財政が厳しいことは多くの方がご存知でしょう。今までは国と地方の財政上の関係は、多額の納税をする大企業が集まる東京などの都市部から国が税金を集めて、それを補助金や地方交付税として全国の(大都市部以外の)自治体に分配するイメージでした。つまり、国を通じて東京-地方間での財政均衡化(地域間移転)が図られていたのです。
 しかしバブル期以降は、国・地方とも税収入よりも支出が恒常的に上回るようになり、財政の形も「地域間移転」から、国債・地方債という借金に依存する、つまり財政のツケを将来の子孫に回す「世代間移転」に変化してきます。
 ここで誰もが疑問に思うであろうことは、ではなぜわれわれは自らの負担を増やすという選択、つまり増税をする決断ができないのか?ということでしょう。



 地方自治体が増税に踏み切れない理由は、川崎さんによれば「インセンティブがない」からです。なぜなら、地方自治体の財源の不足分は、国から地方交付税を通じて補填される仕組みになっているからです。

 たとえば、地方自治体が国(政府)という親から仕送りを受けている大学生だとします。毎月10万円の仕送りが地方交付税にあたります。
 ある月、この学生はアルバイトして4万円稼ぎました。ならば、この月の可処分所得は14万円になるかのといえば、地方交付税の仕組みではそうなりません。
 増収分の75%は地方交付税(仕送り)がカットされてしまい、25%のみが留保財源として認められることになるのです。つまり4万円の稼ぎのうち1万円だけが自由に使えるに過ぎず、総額では11万円にしかならない仕組みなのです。
 これではよほど親孝行な学生でない限り ~4万円稼ぐことで仕送りは3万円減らせますから親はラクになります~ 自ら稼ぐインセンティブにはならないのです。
 地方自治体が自ら身を切る ~住民からの猛反対を招くことが必至な~ 「増税」に踏み切れないのはこのためです。

 そこで、公共サービスは維持しつつ地方自治体の負担を減らすために、新たな方向性を模索することが求められているのです。主に海外で編み出され、導入されてきた、民間の資金や活力を公共サービスに生かす方法が日本でも注目を集めているのです。

 指定管理者制度(PPP)がもっとも有名な制度ものですが、中心市街地の活性化のために、地区全体が合意の上で固定資産税を上乗せして徴収し、必要な投資や事業を行う「BID」という手法や、スラム化で地価が下がっている地域で再開発事業を行う場合に、再開発後に予想される地価上昇分を担保として債券を発行し、資金調達する「TIF」などの手法がアメリカなどでは普及しているそうです。
 これらは日本でも十分に研究の余地はあるでしょう。これまで中心市街地活性化や土地区画整理などには多額の補助金が投入されてきましたが、これから先もこういった公共事業に税金をつぎ込むことは難しくなってきており、民間資金 ~海外の投資マネーも含めて~ を地域に投資する仕組みづくりが重要になってくるからです。

 このような官民の連携手法として日本でもかなり浸透しているのが「PFI」です。
 三重県でも桑名市立中央図書館は建物建設から運営までを民間企業に任せて事業が行われており、日本でも先駆的、かつ成功している事例として有名です。わしも何となくPFIは、民間資金の導入や民間ノウハウの活用に意味のある手法だと思っていました。

 しかし、本書で川崎さんが指摘するのはPFIが地方自治体にとって借金の隠れ蓑に使われている事例があることです。
 地方自治体が自分でインフラを整備するとなると、資金は地方債を発行して借金することが普通ですが、これだと公債比率という財政指標が悪化してしまいます。
 これを逃れるためにPFIを使うのです。
 すなわち、サービス購入型PFIと呼ばれる、自治体と民間業者が契約して、業者が運営する公共サービスに対して自治体が対価を払うというPFIの場合、インフラ整備のために借金をするのは民間業者のほうであって、毎年定額の対価を払うだけの自治体にとっては予算の枠組み(一般会計)の外で事実上の借金ができるという打ち出の小槌に変容しているのです。

 これらは専門的な財政テクニックの話一般住民にはわかりにくいものであり、それゆえに「官民共同(協働)」という美名の下で、実はまったく違った事態が進行してしまいかねない危険があるそうです。恥ずかしながらわしもこのような面があることは知りませんでした。

 要するに、現世代による適正な税負担を何とか逃れたい、ツケはなるべく将来の世代に回したい、というわしらの意識こそが、国・地方の財政悪化と現在の閉塞した社会状況の出発点であることがわかります。
 経済情勢がまた最近になって混迷してきて、消費税の10%への増税も危ぶむ見方が出てきました。確かに増税で一時的な景気後退は起こるでしょうが、かといってこのまま危機的な財政状況を放置していて良いものでしょうか?

 このような財政、資金調達、官民連携のシビアな話は、「田舎のおじちゃん、おばちゃん達ががんばって野菜を加工販売している」などといったほのぼのした田舎ビジネスの括りの一つで語られることが多い「地方創生」の、超リアルな一面です。
 10年後、30年後、50年後の地域を考えた時、果たして今のやり方が本当にベストなのか、そのことを考えさせられる章でもありました。


はんわし的評価 (★★★) 地方創生に関心を持つ人は必読

0 件のコメント: