2016年5月9日月曜日

地域再生はなぜ失敗の連続なのか(その1)

【読感】地域再生の失敗学 飯田泰之ほか著 光文社新書

 地方創生に関しては、現在さまざまな本が出版されており、毎日のように新刊が出ている印象すら受けます。そのすべてを読むことなど常人にはできないし、その必要もないと思いますが、この本は間違いなく読む価値ある一冊です。
 その理由は、議論の目線の高さがちょうどいいことと、地方創生は論点が多岐にわたる中でそれぞれの分野の第一人者がわかりやすく語っており、そして著者の飯田氏がうまく話を引き出していていろいろな角度から核心に迫ることができることです。
 地域の再生とは、何となくぼんやりとはイメージできますが、本書では「地域の平均所得が向上すること」と定義した上で議論が進みます。もちろん所得向上が地域再生とイコールではないし、文化の伝承やコミュニティの維持も重要ファクターです。しかし所得が向上しなければ地域を維持していくことすら難しくなります。このため、すでに1960年代から地域経済の活性化は大きな政治課題でしたし、実際に、農山漁村振興、過疎地・離島振興、商店街振興、ふるさと創生などなど、国や自治体はたくさんの対策を講じてきました。
 しかし、これらは全体としてみれば結果的に失敗であり、これら官製の振興策が目指してきたものと、地域が求めている経済振興策も大きく異なってきているのが実情です。


 今までの施策の失敗例から学び、将来を考えるという観点から「地域再生の失敗学」と命名されたそうですが、大変理解しやすい本なので、地方創生に関心を持つ方には強くお勧めします。
 一番いいのは、もちろん実際に本書を手に取って通読してもらうことですが、5章にわたる本編の中から、2つの章だけをごくごく簡単にかいつまんでわしなりに紹介してみます。

 まず取り上げたいのは、エリア・イノベーション・アライアンスの木下斉代表と飯田氏との対談です。
 木下氏の的確な論評はこのブログでもたびたび取り上げていますが、今の地方創生ブームのずっと以前から営々と続けられてきた、地域再生、地域経済活性化がなぜ失敗しているのかの分析は、現場に近いわしらにとって大いに参考になります。

 ビジネスが本業ではない行政機関(地方自治体や、その外郭団体である第三セクター)が主導する活性化策は、その財源が自己資本や銀行からの借入金でなく、国などの補助金というケースがほとんどです。そこには、なるべく初期投資を抑えようというインセンティブはなく、補助金をどう使うかという発想から事業がスタートしてしまいます。
 今流行の野菜産直市や農村レストランなどは、もともとわずかな日銭しか取れないビジネスであって、いかに初期投資と固定費を抑えるかが最大の課題なのに、補助金だからと「道の駅」のような華美な箱モノをまず建ててしまい、そこで販売する地域産品や特産品も十分なマーケティングしないまま事業を始めてしまうのです。
 この結果、固定費が過大すぎてどうやっても収益は上がりません。赤字垂れ流しになり、結局は地域にとって負の遺産になってしまうのです。

 木下さんのフィールドの一つである中心市街地の商店街の再生も、まず補助金ありきの官主導の事業である構造は変わりません。
 こういった事業構造は、安倍内閣下での「地方創生」でも基本的に同じです。そしておそらく、多くの地域では地方創生で多額の事業費(補助金)がつぎ込まれても、結果的に地域振興にはつながらないだろうというのが木下さんの予測です。
 ではなぜこんなことが繰り返されるのでしょうか。

 木下さんの非常に興味深い指摘の一つは、日本の地方税制のゆがみです。地方都市の商店街が典型的ですが、バブル期以前にピークアウトした商店街の店主たちは多くが高齢者となっていますが、すでにその時に稼いだ十分な資産があり、今さらガツガツと活性化に取り組む必要など感じていないのです。
 その理由は、空き店舗や空き家、空き地といった商店街にとって好ましくない遊休資産を保有していても、日本の固定資産税の負担は驚くほど軽く、資産を活用する必要が、つまり空き店舗で新たな商売を始めて収益を上げる必要性がないからです。何もしないことが一番有利なので、各商店主たちが経済合理性に従っている結果、シャッター街になっているに過ぎないのです。
 そのために何をしなくてはいけないかは明らかで、税制を変えて資産課税を強化し、収益性の高いビジネスが行える人が中心市街地の資産を活用できるようにして、まちの新陳代謝を進めることこそが本質的な解決です。そこで出番となるのは、地域経営をビジネスとしての見ることができる企業やNPOといった民間セクターであり、行政は民間が活躍できるような環境を整えることこそが仕事ということになります。

 もちろん、地方自治体サイドからも弁明はあるでしょう。
 国がせっかく補助制度を作っているのだから(地方にばら撒くと言っているのだから)、これは使わないと損で、とにかく国が言う期限までに地方版創生計画を作って ~その際、住民を交えた議論などしている暇はありません~ わが町わが村に金を引っ張ってこなければ、よその自治体に取られてしまうだけだけです。このプレッシャーは相当なものです。
 そしてその競争をあおるのは、市役所や役場の職員ではなく、実は補助金獲得という政治的な実績を上げたい首長や議員、そして「隣町には道の駅があるのにうちにはない。役場がサボっているからだ!」など、妙なライバル意識に燃える住民たち自身だったりする・・・というのがはんわしの意見です。
 まあ、それはともかく。

 木下さんによれば、このような民間主導の地域経済活性化のためには、プレーヤーにも必要な資質があると言いますが、ここいらは核心部分なのでぜひ本書をお読みください。

0 件のコメント: