2016年6月13日月曜日

経済波及効果のポイントは何か

 三重県志摩市で開催されたG7主要国首脳会議の午餐や晩餐で使われた三重県産の清酒が大人気を集めているようです。
 首脳達の食事メニューは外務省ホームページで詳細に情報公開されており、食事になんという酒が使われたか銘柄も公表されています。
 これは直ちに全国の清酒ファンや流通業者に知られるところとなり、その日の夜から蔵元には注文や問い合わせが殺到して、ある蔵元はその日一日だけで一年分が完売してしまったそうです。

 三重県の酒が有名になることは一県民のわしとしても誇らしいのですが、このような「ブーム」をもって、サミットの経済効果だというのは早計です。地域産業の持続的な成長の視点からも、蔵元(すべて中小企業)の経営戦略の視点からも、この状況では将来が楽観できないからです。

 サミットのように人為的に起こされたブームによって、特定の地域の、特定の企業の、特定の商品が大ヒットに化け、あっという間に在庫は切れて、生産もまったく追いつかない事態になることはまま見られます。そしてそのブームが長く続いた例はほとんどありません。今回もせいぜい半年か、あと一年で終焉するでしょう。

 三重県や関係市町では、昨年の開催決定当初からサミットにあやかった経済効果に強く期待しており、巨額の先行投資も行ってきました。清酒は食事やパーティーに使われることがあらかじめわかっていたので、酒造組合も早々に外務省に対して三重県産の酒を乾杯に使うよう陳情していたと報道されています。 その結果、首尾よく幾つかの銘柄は注目を浴びることになったわけです。

 しかし、注文が殺到したと言っても、それは一年かけて徐々に販売していた商品が一気になくなることを意味しており、品薄なことは逆に不評につながりかねません。
 焼酎ブームの時に九州などの小規模な焼酎の蔵元が困惑したのは、品薄となって小売価格が一気に値上がりしていたため、それまで愛飲していた古くからの市井のファンには入手困難となり、地元での販売額が逆に減ってしまったことだといわれています。ネットで転売されて、定価の何倍もの高値で取引された例もよく報道されました。

 それでは機会損失なので、蔵元が量産すればよいではないかとも考えられます。政府による低金利政策(マイナス金利)も、企業が設備投資に踏み切ることを後押ししているわけであり、サミット需要は企業にとって事業拡大のチャンスでもあるはずです。
 しかし、一般論としては清酒の将来展望は決して明るくありません。いまやアルコール飲料の主役は焼酎(チューハイ)やワインであり、清酒の出荷量は長期的に減少傾向が止まりません。
 小規模事業者が多い清酒の蔵元には新製品の開発余力がなく、全国的に見ても経営状態が決して楽ではないところは少なくありません。これは醸造業が酒税の課税・徴収と関わって、監督官庁と密接につながっており、新規参入がほとんど不可能な流動性の低い業界であることも関連しています。
 行政も「乾杯条例」なるものを作って需要喚起したり、輸出を促進しようと海外見本市への出展支援などを行っていますが、今回のようにそもそも売る商品がなくなってしまったら、このような経営戦略も画餅に帰してしまいます。
 行政や地域としては地場産業の発展として企業に増産 ~それにともなう設備投資と雇用増~ を期待する。しかし、蔵元経営者としてはそれに踏み切れない、そのジレンマが深刻化するのは目に見えているのが今のこの状態なのです。

 行政は地域の産業を振興しています。しかし経営の責任までは取りません。経営の先行きを指し示すこともできません。あくまで応援団です。そして、時としてその応援は自然消滅してしまいます。
 ブームが終焉するまでの間に、中小企業経営者にどう設備投資に踏み切ってもらうか。議論のポイントはここなのです。
 この決断をしてもらうために、行政としてどのような応援が必要なのか。場合によっては行政の過保護は無用、むしろ有害かもしれません。経営者とよく意思疎通し、彼らが本当に必要としている行動を行政は取るべきでしょう。
 注文が殺到している、喜ばしい、などと浮かれている場合ではないのです。

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