2016年6月27日月曜日

無理に人口を増やすことなどできない

【読感】人口減が地方を強くする 藤波 匠著 日経プレミアシリーズ

 冷静に考えれば ~冷静に考えなくても~ 当たり前なのですが、日本の総人口がこれから本格的に減少していく中、いくら一地方自治体が「地方創生」に力を注ぎ、人口を増やしたとしても、それは結局、ほかのどこかの地方自治体の人口を減らしているに過ぎない、つまりは「ゼロサムゲーム」です。
 ならば、限られた財源は、各地方自治体がおらが町によそから人を引っ張ってくる競争に使うのでなく、人口減少を所与のものとして、縮小していく中で政策に優先順位をつけ、今いる住民が幸せに、豊かに暮らせるための施策に取り組んでいくことが必要です。
 今、地域おこしや地域産業活性化に従事している関係者の間で話題のこの本「人口減が地方を強くする」の趣旨をひとことで表すと、以上のような内容になると思います。
 そう思ってこの業界の周辺を見回してみると、「地方消滅」に代表されるように危機感だけが強く煽られ、肝心なその根拠があまりに曖昧であるのをよく見かけます。
 本書の真骨頂は、地方創生策の必要意義として引き合いに出される世間の常識が、実はこういった根拠薄弱なものであることを、数字を示しながら論破している点です。ぜひご一読をおすすめします。



 たとえば、藤波さんは、地方創生政策の根拠とされる「東京一極集中」は大きく誤解されていると言います。全国各地から若い世代が東京に集まっているのは事実ですが、それは「一極」ではありません。また、集中の規模も、地方の若い世代が根こそぎ吸い取られているようなレベルではまったくありません。
 意外に思えますが東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)への人口の転入超過は10万人に過ぎません。地方からの転出者を世代別に見ると18歳~30歳が多いのは確かですが、実際には若者人口の9割は地方に留まっています。藤波さんによれば、もしあなたに東京に転出した若者の知人がいるとして、彼(彼女)に「あなたの友達で同じように東京に出てきている人を知っているか」と聞けば、ほとんどはそんな人はあまり知らないと答えるであろう、ということだそうです。
 つまり、若者も含め大多数は生まれ育った地域に留まっています。問題なのは、日本は少子化が急速に進んだ結果、35歳~39歳の団塊ジュニア世代を1とすると、それ以降の若い世代は20歳~24歳の世代なら0.7になってしまう、というように若者の絶対数が ~都会だろうと地方だろうと~ 急減していることなのです。このことを冷静に前置きせず、昔の常識や自分の肌感覚だけで現状を捉えるので、本当の原因を取り違えてしまうのです。
 
 もう一つ認識すべきことは、日本には「郡部から市部へ」、そして「小都市から中枢都市へ」という人口の流れがあるということです。経済のサービス化が進んでいる中、第1次産業や組み立て型の製造業くらいしか仕事がない郡部から、知識集約的な産業も含め多種多様な働き口がある大都市に人口が集中するのは避けられない面があります。
 中でも、たとえば仙台市とか福岡市のように、東北や九州といった広域圏を代表する大都市(中核都市)は、東京圏以上に若者の割合が多くなっており、この意味で人口は「東京一極集中」ではなく、道府県内の地方都市から中枢都市へ、という大きな流れが確立しているのです。

 このような、産業構造変革のトレンドや大きな人口のうねりを無視して、人為的に人口、特に若者を地方にIターン、Uターンさせようというのは経済力学に反する政策であってどこかで矛盾が生じます。
 現在の地方創生策では、行政から地方での就労者に対する支援や、生活支援策が積極的に行われてはいますが、これは補助金だったりして持続性がありません。若者が地方へI・Uターンしても、結局低賃金の仕事しかないとか、子供の教育環境が整っていない、などの理由で再び流出してしまう可能性は否定できないのです。

 では、地方はどう対処していけばいいのか。
 もちろん、これといった特効薬などないのですが、まずは補助金頼みで無理に移住を進めたり、短期雇用を生み出したりすることを改め、地方において、確実な雇用先となりうるしっかりとしたビジネス(企業)を生みだし、成長させていくことが重要です。
 また、本書の中で示唆的なのは、人口の減少や経済活動の沈滞に悩む「地方」においては、今まで述べた来たような客観的な数字の裏付けによる政策目標の再構築と共に、住民自身の心構えも再度考え直す必要があることに何度も触れられていることです。
 地方の住民は、「昔ながらの生活を続けているだけで、変わったのは(グローバル化のような)社会のほうなのだ。なので昔に戻すために行政が地方を助けるのは当然だ。」という思いがどこかにあるケースが多いと思います。しかし、そうではありません。
 社会がここまで不可逆的に変わった以上、地方も変わらなくてはいけません。若者を呼び込むのは補助金でなく、安定的な仕事をその地域で作り出すことによってです。つまり、自分たちが考え方を変え、行き方を変えないと、新しい住民を呼び込むことなどできないのです。この点はまさに地域おこし、まちづくりの原点の思想ではないかと思いますし、実際に全国で地域再生に成功しているところは、この軸がぶれておらず、小さな成果を10年、20年、30年と積み重ねて今に至っています。迂遠ですが、この点をしっかり議論し、構築しないと、本書で再三言及されるような、目先の補助金ばら撒きで終わってしまうでしょう。

はんわし的おすすめ(★★★) 凡百の地方創生本の中でも論理的で、頭の整理に最適

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