2016年6月29日水曜日

「えこひいき」は諸刃の剣

 ヤフーニュースに数日前、奇妙な記事が掲載されていました。大阪市がベンチャー企業を「えこひいき」をして集中支援する新たな取り組みを始めた、というものです。(リンクはこちら
 「シードアクセラレーションプログラム」なるこの取り組みは、関西経済全体の成長を支援するため、大阪市外のベンチャーも支援対象としており、今回は応募してきた68社から、事業の独創性や新規性などを審査のうえ「将来有望」と見込んだ10社を選抜し、助言者役(メンター)の大企業や、先輩起業家との勉強会、ベンチャー専門の投資家との面談などを、無料で、集中的に受けられる制度だとのことです。
 この記事には「ほかの自治体に立地する企業を支援したり、選抜企業を集中支援する行政施策は珍しい。」とありますが、これは間違いです。
 三重県でもどこの都道府県でも、中小企業向けや起業家向けの補助金など支援策の多くは、支援対象を選抜して集中支援しており ~この記事ふうに言えば「えこひいき」しており~、むしろ申請者全員に均等に支援している制度などほとんどないのです。
 人事異動でたまたま商工振興に携わり、過去の施策の経緯や積み重ねを理解していないルーチン市役所職員と、役所から提供された資料を鵜呑みにする地方紙記者との合作によるへたれ記事ですが、実はこの記事には(彼らが気付いていない)重要なポイントがあるので補足しておきます。


 まずその前に、えこひいきしている ~と言うか、有望な企業を選んで支援している~ 実例を説明します。
 企業には、本店は名古屋市にあるが事実上の営業拠点は四日市市にあるとか、本社は東大阪にあるが工場は伊賀市にあるとか、そんな企業がたっくさんあります。これらは厳密には三重県内企業ではないかもしれませんが、三重県民を雇って事業を行い、付加価値を生み出し、納税しているので、三重県としては当然に支援対象にしています。
 また、たとえば補助金なら通常は「審査」があり、多数の応募から審査にパスしたものだけが支援対象になります。補助金は満額賄われるわけではない(半額とか、2/3とか)とはいえ、数百万円から数千万円のお金を企業にタダであげるわけですから、三重県の場合なら書類審査と有識者委員会によるプレゼンテーション審査の2段階で選定を行っています。非常に狭き門なのです。
 もちろん、厚労省の雇用調整助成金のように、要件に該当すれば無条件で交付される補助金もあるにはありますが、ベンチャー支援のような企業育成、経営拡大を目的にした支援は、多くがこのような競争的な支援制度です。

 一方で、大阪市のこの「シードアクセラレーションプログラム」、内容を見てみると、スタートアップに必要な開発、生産、販路などのパートナー企業や資金パートナーをメンターとしてつないでいくという、この仕組み自体は非常に有意義なものだと思います。

 一番問題なのは、補助金の審査にしろ、シードアクセラレーションプログラムでのベンチャーの審査にしろ、その目利きが本当に正しいのか、つまりビジネスとして本当に大成するのか、ということです。
 いくら有識者とはいえ、そんな審査が本当にできるものなのでしょうか?

 この問題に対する答えも明確です。
 有識者に、本当に新規性があり独創性があって、ビジネスとしての成功が確実な企業など見分けることはできません。
 もしそんなことがわかるなら、まわりくどい行政の支援など経由せずに直接投資したり取引したりするでしょう。
 もし国や県や市に、有望な起業家や将来成長確実な産業分野が見通せるのなら、バブル景気が崩壊して以降「失われた20年」が続くことなどあり得なかったでしょう。
 つまり、中小企業や起業家の支援とは本質的にリスキーなもので、投資家は失敗しないように、取引先は自分が儲かるよう、損をしないように、慎重にも慎重を期して付き合うものなのです。
 行政が介入するのはこのリスクを税金でヘッジすること ~実際に約4千万円の大阪市の予算は地方創生関連の国からの補助金で賄われるらしい~ ですが、このことがビジネスの真剣味や切実度を鈍らせる面もないとは言えません。

 わしは、だからといって行政が中小企業や起業家を支援しなくてもよいとは思いませんし、そのためには合理的な審査と選抜と集中、すなわちえこひいきは不可避だと思います。
 いくらえこひいきしても、ベンチャーは多くが失敗して倒産し、成功するのはわずかです。ましてや世界的に通用するベンチャーなどセンミツでしょう。
 だからこそ、ビジネスにチャレンジする起業家は尊いのです。
 彼らこそがイノベーション(革新・創新)を起こすのです。
 
 だとすれば、支援のかたちはえこひいき型の「収斂」ではなく、チャレンジのハードルを下げ、誰もがトライしやすくなる「開放型」であるべきなのかもしれません。これがこのニュースの重要なポイントだとわしは思います。
 メンターを務める大阪ガスやオムロン、阪神電鉄などの民間企業は、このことを話し合うべきなのです。

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