2016年8月30日火曜日

玉虫色決着?の消費者庁移転

 時事通信社による地方公務員向けの情報サイト「官庁速報」によると、政府は懸案だった消費者庁や総務省統計局などの中央省庁の地方移転について、消費者庁は平成29年度、統計局は平成30年度から、それぞれ徳島県と和歌山県で業務を始めるとの方針案をまとめました。この案は、近く開かれる政府のまち・ひと・しごと創生本部で正式決定される見込みです。(8月30日付け)
 統計局は中央省庁といっても政策立案や事業を行うセクションではありません。しかし消費者庁は、国民の生命・身体や財産に被害をもたらす事象の発生防止や、訪問販売、通信販売といったトラブルを生じやすい取引の適正化、 偽装表示や誇大広告の規制、公益通報者の保護など、資本主義経済が高度化・複雑化している今現在の日本において、非常に重要な責務を担う官庁であると言えます。
 官庁速報はいわば業界紙なので、消費者庁の徳島県移転を肯定的に報じており、むしろ全面移転ではなく、「消費者庁新未来創造オフィス」なるブランチを徳島県内に設けての、3年間の試行的な一部移転となることを、地方創生の本旨からは不十分であるといったニュアンスで伝えています。
 しかし率直に言って、この玉虫色決着は常識的な国民にとっては妥協できるギリギリの線であると感じます。地方創生を優先し、消費者行政の大本を見失った愚行ですが、3年たてば徳島県も全国も熱が冷めて忘れられるだろうという時間切れ作戦と見るのが正しいのでしょう。

 中央省庁の地方移転は、わしが県庁に入庁したころにも全国的なブームがあって、東海地方では三重県の北部(畿央地域)と岐阜の東濃で綱引きの陳情合戦をしていた記憶があります。
 しかしバブル経済の終焉によって移転に伴う膨大な財源確保の見通しがなくなると、そもそも本当に三重県や岐阜県に首都が来るなどと誰もまじめに考えていなかったので、急速に議論は萎みました。

 その亡霊が、まち・ひと・しごと創生とか地方創生でまたぞろ復活してきたわけですが、自民党内でもほとんど影響力を持たない河野太郎前消費者行政担当大臣の御乱心のような発案だったので、当の消費者庁の官僚はもとより、全国の消費者行政関係者や消費者問題にかかわってきた法律家など、消費者問題業界のすべてが大混乱に陥りました。

 消費者庁の誘致を表明した飯泉徳島県知事は、その理由を
・東京一極集中を是正する政府機関の地方移転について、(本)省は難しいが外局や研究機関は割と移しやすい
・徳島県は全国に先駆けて食の安全・安心や消費者行政に力を入れてきた
などと説明したようですが、徳島県は消費生活センターの相談員を雇い止めしていたり、定数を満たしていない常況であるなど、四国4県の中で最も遅れている県であるというのが関係者の共通した見方のようです。

 また、消費者団体による徳島県移転への反発は強く、消費者庁がそれまで各省庁の縦割りだった消費者行政を一元化して平成21年に発足した歴史を持つことから、日本弁護士連合会は「消費者庁に期待される機能は、極めて大きな権限を持つ(他の)省庁に対して消費者の視点からチェックを行い、修正を求め、時にはブレーキをかけるもの」であり、「各省庁から隔絶されると消費者政策が停滞する」と指摘しています(毎日新聞「徳島移転案 揺れる消費者庁」2016年1月9日)し、全国消費者団体連絡会も反対声明を出しています。

 中央省庁である以上、国会での法案審議や他省庁との調整、事業者の検査・指導など、庁外とのさまざまなやりとりがあるわけですが、徳島県という交通不便地にある以上、対面コミュニケーションは大きな制約を受けるでしょう。出張旅費がかさんでかえってコストが増えることもほぼ確実です。
 さらに、消費者庁の国民生活センターでは、相談員に高度な専門知識が求められるため、徳島県でこのような人材を確保することも現実的には困難でしょう。

 今回の方針案で打ち出された「消費者庁新未来創造オフィス」は、日本消費経済新聞が伝える河野(元)大臣の発言によれば、消費者庁の組織は改変せずに各課の職員が常駐。ほかに徳島県庁や県内大学等からも人員を配置した30人~40人規模。
 具体的な業務として、不招請勧誘規制について徳島県をフィールドとして使い、その成果を全国展開することや、フィンテックやブロックチェーンなど消費者のための技術に関する施策、消費者教育、倫理的消費、シェアリングエコノミー等を想定しているとのこと。
 さらに、国民生活センターの研修や商品テストも一部移転するそうです。(「消費者庁移転は見送りへ」2016年7月25日付け

 徳島県は葉っぱビジネスで有名な上勝町や、創造的過疎を唱えI・Uターン移住者を集めている神山町など、地域活性化で幾多の成功例を収めている素晴らしい地域です。ICT技術の進化で遠隔会議やテレワークの制約も少なくなっていることも事実でしょう。
 しかし、わしのような三重県民が仮に消費者庁に用事で行くとすれば、直線距離は近い徳島市より、交通の便がいい霞が関のほうに行くのは当然です。ましてや北海道、東北、関越地域の国民は不便この上ありません。
 日本の政治・行政の根本的な仕組みを変えることなく、省庁の一部を移転させるという考え方が、はなはだ一面的な短慮であると思わざるを得ないのです。
 うがった見方ですが、地方創生ブームに飛びつきたい田舎の県(というか、田舎の知事)と、事業官庁や規制官庁にとって煙たい「消費者行政の司令塔」である消費者庁を島流しにしようという目論見とが御乱心の大臣によって結びつき、Brexitよろしく嘘が真になってしまった「不幸」に思えてならないのです。
 

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