2016年9月12日月曜日

イノベーションは物流ビジネスで起こる

【読感】物流ビジネス最前線 ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防  齊藤実著(光文社新書)

 創新とか革新を表す「イノベーション」ですが、消費者の価値観やライフスタイルと向き合い、変化に素早く対応することでビジネスを拡大するという本質を持っている意味では、小売業や卸売業といった商業(流通業)でこそ、イノベーションの萌芽が常に生まれており、その結果、大化け(急成長)するビジネスも多いことは周知の事実かと思います。
 これを、「経済的に興味深い現象が何らかの形ですべて流通の中に見えてくる」と喝破したのは経済学者の伊藤元重氏で、わしもその本を以前このブログで取り上げたことがあります。

 あれから2年半。
 爆買いブームとその終焉、スーパー・コンビニチェーンの再編などいろいろなトピックがありましたが、この間にネット通販が完全に流通業の主役の地位に定着したことは大きな状況変化だといえるでしょう。
 この本は物流の専門家であり神奈川大学教授である著者が、ネット通販(電子商取引。略してEC。)を中心として、その伸長が実際に商品の輸送や配達をしている物流業者にどのような影響を与えているか、そしてそれが、わしら消費者にどうつながっているのかをわかりやすく解説した本です。



経済産業省 平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)より

 日本に限らず全世界的にEC市場は拡大基調が続いています。国内では楽天市場とアマゾンが拮抗する状態でしたが、この本ではまず、アマゾンが独自の物流戦略を持って試行錯誤を繰り返しながら、一つの成功パターンを確立しつつある ~この物流戦略が楽天などのライバルを大きく引き離す力になっている~ ことが紹介されます。
 アマゾンは独自スタイルを持つ自社の物流センターを「フルフィルメントセンター」と称していますが、取扱商品数が天文学的に増大している中で、受注、在庫管理、ピッキング、梱包、発送を効率的に行うために、ますますセンターは巨大化しICT化し、かつ拠点立地化する傾向となっています。
 アマゾンはまた、アメリカで「アマゾンフレッシュ」という生鮮食品の宅配を始めたり、ドローンによる宅配サービス(プライム・エアー)の実証実験を始めたり、といった先駆的な取り組みを行っていますが、詳しくは本書をお読みいただくとして、日本で特に問題が深刻化しているのは、このように物流センターで発送された商品を消費者の家に届ける「ラストマイル」(よく「ラストワンマイル」と聞きますが、齊藤さんによるとワンマイルという表現は日本だけだそうです。)の部分です。

 宅配を担う運輸業者はヤマト運輸、佐川急便、日本郵政の3社の寡占状態ですが、一般的な寡占による独占効果は見られず、むしろ超安値で仕事を奪い合うダンピング競争が苛烈です。
 同時に、世帯の独居化や共働きなどによって、配達に行っても不在で再配達が必要なケースが20%、そして再配達でもやはりまた不在であるケースが十数パーセントもあります。無駄な配達、無駄なコストが莫大に積みあがっているのです。さらに通販には付き物の、返品や交換の数も膨大です。
 これは、各EC事業者がスピード競争を繰り広げる結果、即日配達が浸透し、ますます宅配業者、宅配ドライバーにプレッシャーがかかっているためでもあります。(ちなみに、スピード配達がこれほどまでに普及した原因が、顧客サービスではなく実は通販業者側の理由にあるという齊藤さんの解説は目からウロコでした。)

 しかし、宅配業者をはじめとしたトラック物流業者はいま、人手不足が深刻です。中・長距離の運送を担うトラック事業者は零細規模が多く、ドライバーの労働条件が厳しいとともに、長らく男の職場であり、女性の進出が大変遅れているためでもあります。
 EC市場はますます拡大する、スピード競争もますます強まる、消費者の低価格志向も強まる ~それは往々にして運賃は安いほどよいという、劣悪な労働条件をトラック事業者に押し付ける根幹です~ といった状況があり、一方で、都市部と地方とを問わず深刻化する買い物難民、それの解としてのネットスーパーの普及、など物流を取り巻く環境は今再び大きく変化しようとしています。
 その業界のダイナミックな動きを把握するには最良の一冊と思います。

 余談ですが、この本の中で取り上げられているネットスーパーの成功例に、三重県のスーパー、サンシ(本社:四日市市)の事例が紹介されています。全国多くのネットスーパーが赤字に苦しむ中、サンシ宅配は導入の時期から配送料は有料とし、消費者にもコストを分担してもらう姿勢を貫いてきました。これを齊藤さんは評価しているのですが、わしも時々使っているサンシが、このような優れたビジネスモデルを持っておられることは意識したことがありませんでした。
 このブログでは何度も書いているように、日本のサービス業は他の先進国に比べて生産性が低いことが課題ですが、遠因の一つには消費者が、本来自己負担すべきコストを適正に負担しない「お客様は神様」的な価値観が浸透していることが挙げられます。神様扱いは必ずしも長い目で見て双方のメリットにはならないことを示す例かもしれません。

はんわし的評価(★☆☆) 読みやすくわかりやすい本。

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