2016年9月13日火曜日

起業か、承継か

 先日、わしは三重県内の中小企業振興にかかわる関係者が一堂に集まる会議を傍聴する機会がありました。
 県庁、市役所や町役場の商工課、商工会議所、商工会、金融機関などの実務担当者が中心でしたが、その意見交換の中で、ある興味深い傾向に気づいたのでメモしておきます。
 会議のテーマは、「地域資源を活用した産業振興」と「起業・創業の促進」という2つでしたが、行政関係者からの情報提供は、地域の特産品開発や首都圏・海外への販路開拓支援についてが多く、商工団体からは創業塾の開催や起業家と若手経営者のネットワーク作りについて、そして金融機関からは企業承継に関する報告が多かったのです。(もちろん、あくまでわしの印象であって、定量的にこれを示すことはできませんが。)
 地方創生ブームによって、県や市町村が行う商工振興策に対しては国から多くの交付金が支給されています。これらの使い道として一番多いのは、その土地土地の特産品や農林水産物を使って新しい商品を開発したり、既存の地場産品を東京や名古屋などに販路開拓していく、といったものです。
 誰であっても自分が住んでいる土地への思い入れは強いものです。お茶とかお米、シイタケ、ノリ、ひものといったような特産品は、我がまちのものが日本で一番うまい!と地元は信じていても、全国的には差別化要因がほとんどないコモディティ商品化しており、これを全国市場や地域ブロック市場に流通させ、大きなシェアを獲得することは非常に困難なイバラの道です。

 そういった意味で、行政よりも当然ながらビジネスというものが分かっている商工会議所や商工会は、特産品開発などに加えて、創業・起業の支援に注力しているところが多くみられます。
 戦後の経済復興期からバブル経済期にかけて、日本には新たにお店を始めたり、会社を立ち上げたりする起業家は一定数存在していました。しかし、右肩上がりの経済が終わり、先行きが不透明になってくると安定したサラリーマンを選択する人の割合が増え、さらに、高度成長期に起業した店主や経営者の多くが高齢化して廃業が増え、事業所全体に占める新規企業の割合は、近年とうとう廃業の割合を下回ってしまいました。
 これは産業の担い手の新陳代謝が進まないことを意味しており、地域経済の活性化、すなわち地域の外から売り上げを得て、その利益を地域内で循環させるためには、新しい経済の担い手である中小企業や個人事業主を増やすことが有効なのです。
 このため、三重県内でも多くの商工会議所や商工会が、起業を目指す人に対して様々なスキルを教授する「創業塾」が活発に開催されています。
 この会議でも創業塾の結果、実際に創業し、ビジネスが安定してきた事例などが発表され、さらに、往々にして相談相手が少ない起業家をサポートするため、先輩の若手経営者とネットワークスを作ることの有効性などが議論されました。

 しかし、わしが興味深く思ったのは、最後に登場した銀行や信用金庫などの地域金融機関からの報告です。事業承継こそが地域経済の活力を維持するのに有効であり、仲立ちを金融機関が行うことで事業承継がスムーズに進んだ、という内容が多かったのです。
 事業承継とは、廃業しようとしている経営者から、新しい経営者が事業を引き継ぐもので、最もわかりやすい例は社長を親から子に引き継ぐ経営相続ですが、第三者が会社を買い取るM&Aも事業承継の一種です。
 中小企業は後継者難に悩んでいるところが多く、後継ぎがいないために事業そのものは堅調で黒字であっても廃業してしまう会社も少なくありません。地域にとって貴重な雇用機会である企業が失われてしまうのは大きな損失です。
 このため、10年近く前から国では中小企業の事業承継のために相談センターを設けたり、セミナーを開催したり、さらには相続税法の改正などを行ってきました。
 しかし、後継人材の確保や教育、株主の合意、従業員のモチベーションの維持、取引先の信頼の維持、などなど実際の事業承継のためには解決すべき課題は山積しており、公正公平が旨の公的支援機関よりも、実際にその会社の財務に深く関与している取引金融機関のほうが、適切なアドバイスができ、対案が提示できるケースが多いのです。
 
 わしが事業承継に個人的に関心を持ち、このブログで関連記事を書いてきたのはもう数年前からですが、その時は中小企業もまだまだ事業承継に関する関心は高くありませんでした。
 起業・創業が最も根本的な担い手育成なのはそのとおりでしょうが、いま現実に事業の実績がある中小企業を絶やさないようにしていくことはより有用な対策と言えるでしょう。
 生産性が低いゾンビ企業の延命は有害ですが、実際にキャッシュフローをまわせる企業の承継は産業振興にかかわる人たちがもっと積極的にかかわっていくべきかもしれません。 

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