2016年9月16日金曜日

テレファームの遠藤さんが凄すぎた

 伊勢市産業支援センターで(株)テレファームの遠藤忍社長によるセミナーがあったので参加してきました。テレファームは今、日本で最も注目されているベンチャーの一つと言って過言ではないでしょう。元々は遠藤さんが愛媛県松山市で平成19年に創業した会社ですが、今年6月には楽天が出資を決定し、三木谷社長が直々にテレファームビジネスの拡大を宣言しているほどに世に認められました。
 ただ、ここに至る道のりは決して平坦ではなかったそうです。いまでこそ会社から給料を取れるようになってはいますが、創業から7年間は自分を含め役員はすべて無給。この間に多くの仲間が会社を去っていきました。
 伊勢市でセミナーを行ったのは、伊勢市産業支援センターのインキュベーションマネージャーである渡辺憲一氏が、以前、愛媛で起業支援を行っているときに遠藤社長と知り合い、ビジネスモデルへの理解者がほとんどなく変人扱いされていたという社長の数少ない理解者、そして支援者であったことを恩義に感じているからだそうです。
 世の中にないもの、初めて世に出た誰も見たことも聞いたこともないものを正しく理解し、目利きすることがいかに難しい、困難なことかを示すエピソードだと感じました。

 テレファームのビジネスモデルは以前このブログでも書きましたし、多くのウェブサイトにインタビューや解説が載っているので詳しくはそちらをご覧いただくとして、わしが遠藤社長の話を聞いて感心したことは、日本の地方、特に中山間地域と呼ばれる過疎化高齢化に悩む地域の課題、そしてそのほとんどが主力産業にしている農業の課題を大変明確に認識されており、その課題への解決策も非常に明確であったことです。
 まず遠藤社長は、日本の農業が衰退する理由を、農産物は生産が不安定である上に農家が価格を決めることができず、作業量に比べて収入が低すぎ、後継者が育たないためと看破します。
 この解決策は、収穫量や価格が不安定な「農産物」で儲けるのではなく、農家が自分で決められる(安定している)「農作業」で儲ける方法に変えることです。テレファームのビジネスモデルは、顧客がネットを使ってコメや野菜の購買を注文するのでなく、自分の代わりに農家が栽培作業をしてくれる、その労働に対してお金を支払う仕組みであり、これによってテレファームの農家は安定収入が得られるようになりました。(このビジネスモデルはCSAと呼ばれます)
 
 しかもテレファームは完全無農薬有機栽培を行っています。あくまでも顧客は「農作業」というサービスを購入しているわけであり、場合によっては病気で畑の作物が全滅したり、イノシシに食べられてしまったりということも起こりますが、無事に収穫できる場合は通常の通販で有機米や無農薬野菜を購入するよりはるかに安い単価で手に入れることができるのです。
 しかもユニークなのは、テレファームは大規模化・効率化の風潮とは逆に超労働集約的で、一反当たり3人の農作業者を従事させています。これはテレファームが試行錯誤の結果生み出した有機農法を実践するために必要な人員ではありますが、結果的に中山間地に多くの雇用を生み出すことにつながっています。
 遠藤社長は、農家が夫婦で働いて子供を大学まで出せる収入をもたらすことを目標としており、テレファームの農作業者は年収が3反規模でも600万円以上を得ているとのこと。常識では考えられないことが起こっているのです。

 しかし考えてみると、今は地方創生ブームで ~正確にはそのはるか以前からではありますが~農業の後継者育成として都会からのI・Uターン者の就農支援が盛んにおこなわれています。これはなぜうまくいっていないのでしょうか。
 遠藤さんによると2つ問題があります。1つは地域の農家は都会の新参者には農地を貸してくれないこと。行政がいくら旗を振ろうが、地縁血縁が優先するコミュニティでは、仲介者なしに農地を確保することはほとんど不可能です。
 もう一つは新規就農者はお金を借りることができないことです。農業を始めるにはハウスの資材やトラクターなど数百万円の初期投資が必要ですが、農地に担保価値はないし、収入が不安定なので金融機関は農家にお金など貸しません。JAは農産物を出荷している実績があるとかJAバンクに多額の貯金があればお金を貸しますが、新規就農者はどちらにも当てはまりません。その結果、農業を志してI・Uターンしてもほとんどの人は夢破れ、都会に戻るしかないのです。
 遠藤さんがテレファームで実現したかったことの一つが、この農家へのファイナンスの仕組みづくりです。楽天と提携したのも、楽天の豊富なキャッシュと融資ノウハウが農家のサポートのなると確信したからです。

 今後、遠藤さんは(株)テレファームの社長としてより、楽天のテレファーム事業部長として活動する時間が増えるそうです。その大きなミッションが、テレファームに参画してくれる、高い栽培技術を持つ農家(農作業者)を1700人確保することだそうです。伊勢をはじめ、三重県内でもぜひ多くの農業者を集めたいとのことでした。

 ここまでの話だけでもかなり刺激的な内容だったのですが、この日のセミナーにはさらに後半部分がありました。テレファームが軌道に乗るまでの苦労談、楽天が出資に至った経緯など、こちらも大変興味深い話のオンパレードでしたが、残念ながらオフレコが条件でのお話でしたので、めちゃめちゃ面白かったその内容がご紹介できないのが残念ではあります。

 わしが驚いたのは、半年ほど前でしょうか、2020年(平成32年)の東京オリンピックの時は、選手村の食事に国産のコメや野菜が使えないかもしれない、という報道がなされましたが、これを遠藤さんが解説してくれた部分です。
 多くのマスコミはこれを、日本では有機農法の普及が遅れ、有機の基準に適合する農産物が少ないからであり、政府は至急、有機農法の一層の普及や基準の明確化などを進めるべきだと報じました。
 しかし、この問題で農水省の審議会委員も務めた遠藤さんによると、問題の本質は有機農法では全くありません。そうではなく、日本の農産物には長い耕作の歴史の中で諸外国と大きく違う特性があり、EUが99年に定めたこの特性の基準を日本の農産物ははるかに超えてしまうので、欧米諸国の選手に食材として提供することは、今のままでは実質的に不可能なのです。
 テレファームはいち早くこれに対する技術的対策を講じており、楽天の出資も実はこの対策に着目したからとのことでした。わしはこうした事実を初めて知ったので、大変驚き、かつ感心したのでした。

 三重県ではいまだに「伊勢志摩サミット」の開催実績が対外的な地域PRになると信じられています。この食材はG7首脳が晩さん会で食べたとか、ランチで食べたとかを誇らしげに宣伝することが繰り広げられ、これで世界に打って出ようと勇ましい掛け声も聞かれます。
 ところが農産物のグローバルな常識で見れば、残念ながら地域ブランドなどに何の優位性もありません。まったく競争軸ではないのです。本質を見ている遠藤さんや、グローバルビジネスを展開する楽天は、このことを理解しています。そしてすでに次の手を打って備えているのです。
 なんだか戦慄するほどの、ビジネスの、農業の、厳しさを垣間見た時間でした。

 このような貴重な機会をくださった遠藤忍さん、そして伊勢市産業支援センターに感謝いたします。

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