2016年9月5日月曜日

強すぎる自民党がいいか悪いか

【読感】 「強すぎる自民党」の病理 老人支配と日本型ポピュリズム 池田信夫著 PHP新書

  今年7月の参議院選挙は安倍首相が率いる自民党が大勝しました。自公連立与党は過半数を大きく上回り、憲法改正に前向きないわゆる「改憲勢力」が参院での発議可能な2/3を超えるという戦後初めての状況が生まれたのです。安倍政権は第3次内閣、組閣以来4年目となり、近年にない長期安定政権となりました。
 しかし政権の目玉である経済政策「アベノミクス」は行き詰まっています。インフレ率は目標に届かず、経済成長率は低迷し、政府の債務は1100兆円を超えました。
 このように重要政策が成功しているとは決して思えない安倍政権が、なぜこれほどまでに国民から支持されるのか、さらに、与党政治家と官僚の集合体である政府の中でも、首相とその周辺に権力が集中する「政高党低」や「官邸一強」の構造になっているのはなぜなのか、について批判的に検証しているのがこの本です。
 著者の池田さんによれば、強すぎるともいえる自民党、なかんずく安倍政権には2つの理由があります。


 1つめは民進党など野党が弱すぎること。

 2つめは、自民党が消費増税や政府支出の削減など有権者が嫌がる政策を先送りして、政治上の争点にしないことです。

 先日このブログで八代尚宏氏の「シルバー民主主義」(中公新書)を取り上げましたが、短期的な利益誘導を行う対象が、今の日本では人口の多数を占めるのは高齢者なのでシルバー民主主義と呼ばれますが、根本的にこういった多数派に耳障りの良い政策が、たとえ不合理であっても実行されてしまうのがポピュリズム(衆愚政治)と呼ばれるものです。イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果がまさにポピュリズムの典型だと言えるのでしょうか。

 一方で、国民投票制度のような直接民主制とか多数決原理は民主主義の大原則です。この大原則に従った結果、しかしながら、どう考えても不合理な結果を選択してしまうことが大きな落とし穴です。
 そもそも重要な政治課題をいちいち国民投票にかけていては、国民自身に負担が増えるような増税などは永久に実現しないでしょう。
 なので、百年の計にたって国家国民のために本当に必要な施策を講じること。そしてそれを国民自身が選挙で選択できる民度になること。これが民主主義の本来の姿でしょうし、それと同時に実現するのが難しいことでもあります。
 政府債務が1100兆円を超え先進国では一人負けともいえる厳しい財政状況でありながら、消費税の増税は先送りされ、社会保障をはじめとした行財政改革は一向に進まない。このような日本政治の現状もポピュリズムが蔓延しているからかもしれません。

 池田さんによると、俗に「55年体制」と呼ばれる、自民党と社会党の与野党が対峙する構図が日本型ポピュリズムの発端でした。
 太平洋戦争の敗戦直後の日本は完全に疲弊し、日本復興のためには資本主義路線をとるべきか、社会主義路線をとるべきかが激しく対立していました。また、冷戦構造が強まる中で日本の再軍備(憲法改正)を巡っても国論は二分していました。
 しかし、55年安保闘争が終わると、日本の社会は政治の季節から経済の季節となり、高度経済成長が力強く前進を始めます。国民の所得は年々増え、生活の豊かさが実感されるにつれて、人々は政治に関する興味を失っていきました。

 税収も大きく伸びたため、多額の財源が必要で、社会主義政権にならないと実現しないと考えられていた国民皆保険も自民党政権は法制化します。全国総合開発計画を作って高速道路や鉄道の建設、工場の地方誘致などを進め、都会と地方の格差是正にも取り組みます。
 今、田中角栄の功績が見直されていますが、彼の政策が実現できたのは日本の人口も所得も右肩上がりで増えているトレンドの中では、果実の分配が容易だったからです。

 一方で社会党は、高度経済成長により国民が豊かになっていく中で、社会主義体制を求める主張が次第に支持を失っていきます。そして万年野党として、具体的な政策提言はなく、政府・自民党を批判するだけの勢力に変質していきます。

 このように、経済成長によって分配政策に特化し、困難な政治争点はすべて先送りしていく自民党と、それを批判はするが政権を取る気がなく対案もない社会党という、「日本型の無責任政治体制」が確立されたことこそが55年体制の本質であると池田さんは指摘します。
 さらに、池田さんは、会社とか役所とかの日本型組織においては、現場からのボトムアップが尊重され、強いリーダーシップやトップダウンを原理的に拒絶する行動パターンにも考察を加えています。江戸時代から変わっていないという、日本型組織が持つ「過剰な合意」については大変興味深いので、ぜひ本書をお読みください。

 ところで、本書の核心ともいうべき部分は、「一強」と言われた小泉純一郎政権による官邸主導の検証と、民主党政権が「脱官僚と政治主導」を唱えながら失敗した理由、そして、現在の安倍一強はいつまで続くのか、という第6章から第8章の部分です。

 この3つに共通するポイントは、池田さんによれば中央省庁の官僚組織をいかに動かすか(=いかに誘導・統制するか)ということでした。
 小泉首相は竹中平蔵氏が政策を、飯島勲氏が官僚操縦を分担して成功しました。
 民主党政権は官僚を動かせなかったことが命取りになりました。
 そして安倍首相は、再び人事権で官僚を操縦する強力なパートナーを政権内に得たことで長期政権を実現させています。

 中央省庁のキャリア官僚と地方自治体の公務員とは状況がかなり違いますが、政治家が官僚を使いこなすとはどういうことか、その意味や現状は、わし的に大変説得力を感じました。

(はんわし的評価 ★★☆)

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