2016年10月2日日曜日

都庁が特別ではない

東京都HPより
 小池東京都知事が9月30日の定例会見で、いわゆる豊洲市場の「地下空間」について都庁職員による自己検証結果を公表したことが話題となっています。
 土壌汚染対策として敷地全体に盛土を行うとしていたにもかかわらず、建物部分の地下には施工されていなかった原因について、平成22年末の基本設計から平成23年秋の実施設計にかけての時期に、「地下空間を設ける」ことと「盛土をしない」ことが段階的に固まっていったことが推定できるものの、それを具体的に誰がいつ決定したのかという点は「ピンポイントということで指し示すのはなかなか難しい」と発言したからです。
 知事はこれら一連の設計プロセスを、「それぞれの段階で、何か流れの中で、空気の中で進んでいった」と説明し、今回の事態を招いた最も大きな要因に
1)関係者のガバナンス、責任感の欠如
2)内部のチェック体制や意思決定プロセスの不備
3)上司と部下の間や職員の職種間での連携の不足
 を挙げました。


 いうまでもなく、これらは都庁だけに、あるいは地方自治体だけに見られるのでなく、国(政府)や特殊法人、東芝や三菱自動車といった大企業にも普遍的にみられる現象です。また、日本では過去からこれら大組織でさまざまな不祥事が繰り返されてきたことを見ても、こういった類の問題はまさしく日本人の国民性や気質、社会構造に根差したものであって、全容の解明は極めて困難だし、解明過程に要する長い時間の間には次第に社会から忘れ去られてしまうであろうことも容易に想像できます。
 どう解決すべきなのか、これから様々な方面からの検証や議論が興ってくるでしょうが、わしの立場から、地方自治体なら今後どうすべきかの感想をメモしておきます。

1 地方公務員の責任感は決して欠如しているわけではありません。官尊民卑的な日本社会においては県庁や市役所、町村役場は地域社会課題や住民生活課題の調整役、仲介役、最後の砦といった色合いが濃いため、森羅万象様々な要求や要望、意見が寄せられます。公務員一人一人は、それを何とかしようと考えているタイプが多いことは間違いないと思います。
 問題は、それらの課題があまりに次々起こるため業務量と人的資源のバランスが崩れてしまっており、現場の職員ほど「尾を引かないように丸く収める」「なんとかその場を取り繕う」ことしか対処する手段がなくなっていることです。
 住民と向き合い、じっくり時間をかけて合意を探ったり、一つのことをやり遂げるのは、人員削減が続く一方で新たな業務をどんどん役所が取り込んでいる現状では、よほど問題意識と能力がある職員以外、まったく不可能と言っていいと思います。(そういった優秀な職員も、家庭が崩壊寸前だったり地域コミュニティとほとんどかかわっていないケースが少なくないと聞きます。)

2 内部チェック体制が不備なのは、大きな原因の一つは、地方自治体の管理職が年功序列、職務ルーチンで就任しているため、その責に堪えられないためです。地方公務員はゼネラリスト志向でありキャリア形成も現実にそうなっているので、現場を知らない人が現場の責任者になることが一般的です。
(わしが不思議だったのは、東京都は全国でも数少ない昇任試験制度のある自治体なので、三重県などに比べてその分野の素人が管理職をやっているケースはないと思っていたのですが、市場長などはどういうキャリアの職員なのでしょうか?)
 一方で、地方公務員でも人事や予算、企画などを担当している人は、その分野に特化してキャリアを積むケースが多く、総務部で人事、農林部で予算、福祉部で企画、建設部でまた人事、といったように狭い範囲で次第に専門バカ化していくので、対外的には使いものにならない人材が多いのです。
 なので、チェック体制は部門部門、分野分野では最適に行われますが、都庁のような大組織の全体最適は機能不全なのです。

3 決定プロセスの不備はこの中で最も大きな課題です。1で書いたように役所は程度の差はあれ利害関係者が非常に多いので、様々なところでバイアスがかかる可能性が高いのです。
 講学上は、議会と圧力団体(職員労働組合、業界団体、地域団体など)の影響力に注目されますが、忘れてはならないのがOBの存在です。
 局長職や部長職を務めた職員が、定年後に議員になったり、外郭団体や業界団体の幹部に天下ったり、企業の役員に就任するケースは少なくなく、彼ら彼女らは議員や役員といった現在の肩書に加えて役所時代の人脈が強力な武器になっており、影響力を発揮し続けるケースがやはり少なくありません。
 東京都のケースも、専門分化している工事業種がそれぞれに構成している業界団体や官公需組合などには無数の都庁OBが天下っているはずで、小池知事の言う「空気」の醸成に影響していたのではなかったでしょうか。 

4 上司と部下の連携は組織の風通しの問題ですが、職種間の連携不足は構造的な問題です。地方自治体は、一般的な事務職(行政職)以外に、土木、建築、化学、農業、水産、林業、福祉、など多数の業種に分かれています。また、管理栄養士や保健師、獣医師など資格が必要な職種も多数あり、組織は大小さまざまなモザイク状になっています。
 本来はこれに横串を差すポジション、扇の要に当たる立場が重要ですが、そういった「管理」「統括」といった横断的ポストも多くの自治体では人事ルーチンの一環なので、職種間の連携を促進する組織的な方策を持ち合わせていないのが現状です。
 この対策としては、税務大学校などのように最低半年間、一定年齢の職員が職種にかかわらず合宿で共同生活しながら組織全体の業務を理解し、政策を作る長期研修を行うしかないでしょう。お互いの気心が知れ、お互いの仕事の中身が分かるようになるしか方法はないと思います。

5 ガバナンスの欠如はこれまた重い課題なので、また稿をあらためます。 

2 件のコメント:

まろ さんのコメント...

ずばらしい分析ですね。現状がよくわかりました。
15年ほど前に盛んだった行政改革、三重県でいう経営品質向上活動はどこへ行ったんでしょうか?最近こういう話がさっぱり聞かなくなりました。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントありがとうございます。
 経営品質向上活動は三重県庁(出先機関含め)ではほぼ完全に消滅したといっていいと思います。予算も人員も割かれていません。現在の県政ではマネジメントが軽視されているのはこのブログでも縷々書いている通りで、ここ数年の負の積み重ねがこれから様々なほころびを生むような気がして心配ではあります。