2016年10月31日月曜日

「田舎の小さな工場」は謙遜としても

【読感】世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡 山中重治著 幻冬舎
 
 よくテレビで、「地方にあるこんなに小さな工場なのに、作られた製品は世界でナンバーワンなんです」みたいな番組が流れています。中小企業の工場の場合、最終製品を作っているわけではなく、その一部のパーツを作っている場合が多いので、実はアイフォンに使われているとか、実はレクサスの中に入っている、という企業もあるにはあるのですが、この本の著書、山中さんが社長を務める オキツモ株式会社 は、正真正銘の世界的ニッチトップ中小企業といえます。
 オキツモは、オートバイのマフラーのように高温となる部品を塗装する「耐熱塗料」で圧倒的シェアを持つ企業であり、ロケットエンジンの塗装にも使われている、知る人ぞ知る ~と言いながら実は製造業関係者の間ではかなり有名な~ 中小企業です。
 この本は、三重県でも名張市という、田舎というほどでもないけど都会でも決してない地方都市で、やはり小さな塗料工場だったオキツモが、どのようにニッチトップに駆け上ったかが、経営理念、マーケティング、技術開発といった面から書かれています。(その意味で、経営者のいわゆる自叙伝とは趣が異なります。)


 本書は、山中社長が先代から経営を引き継いでから5年目、平成20年のリーマンショックから始まります。顧客から次々取引をキャンセルされ、会社は窮地に陥ります。しかしその時に社長の頭をよぎったのは、平成8年、社長がまだ30歳だった時、先代社長から突然タイでの新工場の立ち上げを命じられた時の苦労です。異文化の中での苦闘、やっと事業が軌道に乗った時に襲ったアジア通貨危機。しかし若き山中社長の頭をよぎったのは、祖父がこの会社を創業した時からも、さまざまな苦難と戦ってきており、常に新しい製品を開発することで乗り切ってきたのがオキツモの「DNA」であるとの確信でした。

 その新しい製品の例が、「ヒートテック」という放熱塗料です。
 オキツモは高度成長期から耐熱など特殊な機能を持つ塗料を多く作ってきました。取引先から「このような塗料は作れないか」という依頼を受けてオキツモが開発し、製品化するビジネススタイルです。究極のマーケットインではありますが、顧客の数と同じだけ製品の種類がありコストが高くなるほか、顧客依存度が高いために、より多くの販路が見込める汎用品を開発することが急務になっていました。
 そんな中、これから新たな需要が見込まれる「放熱」の機能を持つ塗料の開発に取り組みますが、これを実現させた「アルミの陽極酸化(アルマイト処理)」という原理に着目したのは、この技術の「おもろさ」を社内で主張した技術オタクともいうべきベテラン社員でした。
 苦心の末に完成した放熱塗料ヒートテックは、市場から高く評価されました。ところが、なかなか思うようには売れません。大手電気メーカーP社のLEDの塗装に採用されますが、その後LEDはあっという間に世間に普及し、結果的に価格競争に巻き込まれてしまいます。
 もうだめかと思われたヒートテックが生き返ったのは、オキツモでは予想もしていなかった「電子基板」の塗装用として引き合いが来たことです。もちろん、電子基板用とに変更するために、紫外線硬化といった新しい研究にもチャレンジしなくてはなりませんでしたが、社員の熱意によって実用化されることになります。

 本書では、このようにいくつかのオキツモの新製品について、開発のきっかけや過程が紹介されます。詳しくはぜひ本書をお読みください。

 わしがこの本の中で関心を持ったのは、オキツモが「DNA」を持つとかはともかく、社員が天才ばかりではなかろうし、たびたび出てくるように、高速道路もない名張市という地理条件の不利さにもかかわらず、次々新製品や新技術を開発する、そのイノベーティブな社風がどこから出てくるのか、ということです。
 一般的に考えて、日本を含む先進国で製造業が斜陽産業であることは避けられません。日本製の車や家電は凄いとしても、それら最終製品を支えている国内の中小企業は、「下請け」と呼ばれるビジネスモデルであり、大量生産、コスト、納期にしか強みがありません。大多数の中小企業は自社で開発したり設計したりする能力はなく、生産しかできないのです。この部分はもろに新興国と競合するところで、人件費が安く、技術力も高まってきた新興国には太刀打ちできないのです。
 つまり、製造業の中小企業が生き残るには「自社製品」を持つか、「開発・設計能力」を持つしかなく、それがないところは淘汰されても仕方がないところまできているのです。(これはヨーロッパやアメリカも同じです。中国もそうなるでしょう。)

 この疑問については
・役職、部署の垣根を超えたコミュニケーションから開発の種が生まれる
・予算なし、プロジェクトなし。行き当たりばったりの開発がチャンスを呼ぶ
 といった章が参考になりますし、そのようにして確立した「開発先行型ビジネスモデル」を次のステージに高めるための協業戦略の記述も参考になります。

 客観的事実として、行政が「産業政策」と称して、将来の成長が期待される産業分野とか行政として育成したい産業分野を決め、これらの分野に即して民間企業が行う研究開発に予算を集中投下する、「ターゲティング」と呼ばれる政策手法は、ことごとく失敗しています。
 たとえば三重県でも、石油化学コンビナートの活性化とか、エコタウン、燃料電池、産業クラスターなど、時流に乗っていろいろな「ターゲティング産業政策」が行われてきましたが、どれ一つとして成功していません。
 これはマクロ経済的な意味で当然の結果ですが、中小企業というミクロな立場からも、こうした「選択と集中」戦略ではなくて、行けそうな技術、面白そうな技術、自分が得意な技術を突き詰めるという「八方美人」 ~なので、これは「戦略」ではありません~ なスタンスで、できるだけ多くの技術シーズを持つことが重要なのであり、そのためには自由に意見が言いあえるオープンな社風とか、最低限の理念・戦略を共有すれば、それを土台にあらゆることに取り組める組織風土とかが不可欠なのだと思います。

 自叙伝的な、読み物としての面白さはなく、やや硬い内容ですが、オキツモという、間違いなく三重県を代表する製造業中小企業の軌跡とこれからを想念させる、面白い一冊です。
 
 はんわし的評価 (★☆☆) ややマニアック。

オキツモ株式会社   https://www.okitsumo.co.jp/


(参考)はんわしの評論家気取り 三重県内の経営者の本レビュ

 中小企業オヤジの円高サバイバル(2011年9月1日)  リンクはこちら

 人に必要とされる会社をつくる(2012年8月31日) リンクはこちら

 あなたがこの本を読むべき3つの理由
    【読感】ニッポンのスゴい親父力経営 (2016年3月8日)  リンクはこちら
 

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