2016年10月5日水曜日

田舎という古層

 年配の人なら同意してもらえると思いますが、「パリやロンドンには白人しか住んでいない」とは、多くの日本人が気軽に海外旅行に行けるようになった80年代のバブル経済期まで日本社会の常識だったといってよいでしょう。テレビの旅番組やドキュメンタリーでも、ヨーロッパの有名都市の映像にはほぼ白人しか映っていませんでした。
 しかし実際にヨーロッパの主要都市に行ってみると、有色人種が相当な人口を占めており、特に肉体労働にはアフリカ系やアラブ系の人々が多く従事していることを目の当たりにして、良くも悪くも日本社会の同質性を再認識した人も多いのではないかと思います。
 そんなことを思い出したのは、三重県東紀州地域にある町の議員が、拳銃を隠し持っていたとして警察に逮捕されたニュースを聞いたからです。
 この議員は5年前にも、健康保険に加入していない知人の元暴力団組長に自分の保険証を貸して不正に使用させたとして逮捕され、詐欺罪で有罪判決を受けた前科があるほか、平成24年には無免許運転でも逮捕歴があります。
 しかしながら、平成26年11月に行われた町議会選挙では700票を獲得して第6位(定数16名)で当選。現在3期目のベテラン議員となっていました。


 わしはこの議員とは全く面識はありません。しかし、常識的に考えて、こういう人物を上位で当選させた700名の有権者 ~過疎化しているこの地域では決して少なくない人数~ の見識は疑わざるを得ませんし、やや飛躍するかもしれませんが、この地域の人々が持つ甘さと言うか緩さと言うか、悪く言えば順法精神とか規範精神の低さといったものは強く感じます。
 その一方で、わしはこの地域の人々が総じて純朴で、温かく、皆で助け合って生きていることも知っています。
 それゆえに、田舎の良さ、素朴さと同居するこの摩訶不思議な正義感のなさは、まさに典型的な日本の田舎の「古層」ではないかと思うのです。

 また、こんなことも思い出します。
 昔ながらの疑似家族制度、徒弟制度が今も色濃く残る漁村があります。豊かな自然環境に恵まれ、人々は古来から漁業を営んで暮らしてきました。やはり過疎化、高齢化が進んでおり往時の隆盛は失われていますが、住民有志による町おこし活動や行政の支援もあって観光客が徐々に増え、Uターン、Iターンも生まれて、関係者の間では名の知られた漁村でもあります。

 しかし、以前このブログにも書いたことがありますが、実際にここに行ってみると、住民は交通ルールをほとんど守っていません。
 バイクは100%ノーヘル。車は100%シートベルトなし。軽トラの荷台にたくさん人を乗せて走っているのも珍しくなく、警察官はこれらを目こぼししており、交通事故が起こっても「顔役」に仲介を頼んで解決してもらうことが今でもしばしば行われると聞きます。
 新聞やテレビはUターン、Iターンしてきた新住人のことを明るい希望として報じていますが、取材した記者たちは交通事情のことは何も見ていなかったのかしらん? それとも可哀想な田舎の人々のことだから見て見ぬふりをしているのでしょうか?

 あるいは、これまた、ある水産物が特産品として有名な漁村のことも思い出します。最盛期にはそれを目当てに多くの観光客がやってくる土地であり、道沿いに建ち並ぶレストランでは、いかにも地元の元気のいいオバチャンといった風な女性たちが店員を務めています。
 しかし、そういった観光客でにぎわうスペースではなくて、そのもっとずっと奥にある、海のすぐ近くに建ち並ぶ加工施設で働いているのは、技能実習生と呼ばれるたくさんの外国人です。 
 冒頭のパリ、ロンドンではありませんが、旅番組に出てくるのは漁師やオバチャンたちばかりで、この土地の地場産業を実際に縁の下で支えている外国人たちは100%、すべて完全に、マスコミからは黙殺されているのです。

 これらも日本の地方の古層と言えるのでしょう。

 わしは都会人では決してありません。三重県の、それも南部に住んでいる地方人です。農業や漁業、観光業が重要な産業ですし、交流人口を増やして産物を販売し、外からの富を獲得するほかに豊かになる方法がほとんどないこともわかっています。
 素晴らしい自然、美しい風景、温かい人々がいます。ここで暮らしたい、ここで働きたいという人がいてくれるのは嬉しいことです。これは本心です。

 しかしその一方で、地方(田舎)には都会の生活ではほとんど目にしなくとも済む「古層」が残っており、時には足下で大きく口を開けています。
 このことは観光客、U・Iターン者、そしてこれからU・Iターンを考えている人たちに、ぜひとも頭の片隅に置いておいてほしいことなのです。

■はんわしの評論家気取り  田舎暮らしに殺されない法(2012年11月10日)


0 件のコメント: