2016年11月21日月曜日

まっとうな地方創生のために(その1)

【読感】 地方創生大全 木下斉著 東洋経済新報社

 地域おこし、地域産業活性化など、最近ブームになっている「地方創生」について、ブームのずっと以前から携わっている人々には、国が基本方針を作り、それに従って地方自治体も基本方針を定めて、国からの交付金を財源にして様々な事業をする、という「まち・ひと・しごと創生」が行き詰りつつあることを見通していると思いますし、一般住民も、地方は人口など増加していないし経済活動も縮小が続いていると実感している方は少なくないと思います。
 このような行き詰まりがなぜ起こるのか、そして、これを克服するにはどうしたらよいか、について、地方活性化業界で最も注目されている仕掛け人・木下斉氏の最新刊を読了しました。
 わしのこのブログでも、地方創生については様々な本を取り上げましたが、おおむね次のような傾向があります。

A:国や地方自治体から仕事を請け負っているコンサルタントやシンクタンク、ジャーナリストなどは全国での活性化成功例の紹介と、その原因の調査。そして、これらの成功はあなたの街でも努力次第で十分可能である、と書きます。

B:地方自治や農業、中小企業関係の学者などは、ローカルアベノミクス(地方創生政策)は結局、地方の中央への従属を強めるだけで、ほとんど成果はない。住民はもうそろそろ価値観を変えないといけない、と書きます。
 
 この木下さんの本は、わしの理解によるとAとBの中間のスタンスです。
 違うのは、
・A説に対しては、国の支援(交付金や補助金など)を受けて地方創生事業を行うと、事業の収支見通しも甘くなるし初期投資も過大となるので、結局は収支が確保できず事業が継続できなくなって失敗するケースが多い。なので、最初から行政には頼らず、自分たちで事業計画を作り、金融機関から金を借りて着手する覚悟が必要。
・B説に対しては、批判しているだけでは衰退は止まらない。地域活性化は「稼げなくては」持続できないので、福祉や格差是正の社会政策ではなく、ビジネスとして自立しなくてはいけない。そのためには住民全員の合意も必要条件とは限らず、まずはやりたい人ができることから始めるのが第一歩で、地域の資源をそれにもっと活用すべき。
 というような点になるでしょう。

 では、具体的にどう考え方を整理して、自分たちの地域はどう進むべきなのか。
 この課題を28のポイントに分けて簡潔に解説しているのが本書です。
 地域の活性化には関心があるが、しかし今の地方創生のやり方には違和感がある、という問題意識を持つ方には最強の一冊になるでしょう。
(逆に言うと、地方創生政策や地方自治、マーケティング、商品開発、組織マネジメントなどに初歩的な知識がないと、全部を理解するのは難しいかもしれません。)

 内容については、ひとつひとつコメントしだすと、木下さんの指摘がごもっともすぎてとても書ききれないし、ネタバレにもなるので控えることとし、わしの感想を簡単にご紹介します。
 とはいえ、本書の内容は大変に濃いので、今日と明日、2回に分けて書くことにします。

その1 地方自治体の内部も一枚岩ではない
 実はこの点は、以前このブログにも書きました。(はんわしの「評論家気取り」 失敗だらけを生む「自治体」とは誰か(2015年2月18日)
 よく愚かなジャーナリストなどが、「市町村などの自治体は、せっかく国が与えてくれた地方創生のチャンスに自分たちで知恵を出そうとせず、地方創生戦略は都会のコンサルに丸投げしているし、人口を増加させるといったような非現実的な内容の計画を作る。本当に自治体の役人はバカだ。」みたいなことを書きます。

 しかし、片山善博氏も言うように、国(政府)は今まで自分たちが講じてきた地域振興政策の失敗を検証することもなく、政権によって地方創生が唱えられると突然、地方に対して、いついつまでに計画を作れ、予算要求をせよ、そして事業をいついつまでには完了せよ、と性急に命じます。
 これは地方自治体が自分で考える機会を奪っているも同じで、自治体は国から一方的に宣告された期限までに仕事を間に合わすのに精いっぱいで、結果、コンサルに頼んだり、どこかよそで成功したと聞いた事業をパクって自分の計画に乗せざるを得ないのです。自治体のニーズに応じた息の長い ~5年10年というスパンの~ 支援こそが国には求められるのです。

 さらに、これは木下さんも指摘していますが、自治体の心ある職員の中には、こうした性急な地方創生事業がほとんど成果を生まないことを見通している人も少なくありません。
 隣の町が商品券を発行するからうちの町も発行せよ。隣の市には道の駅があるのだからうちの市にも造れ。といったような採算度外視、将来見通しゼロの要求は、むしろ商店街や商工会議所、市議会・町村議会議員といった住民サイドから強く出てくるのです。もちろん、市町村長が思い付きのスタンドプレーで発案するケースも多々あります。

 こういった地方創生事業は、まずメンツ郷土の誇りありき、予算ありき、事業配分ありきなので、成果や将来の事業持続性はハナから考慮されていません。国の予算は全国で奪い合いの競争ですから、うまく事業予算を国から引っ張ってきた市町村職員は評価され、コツコツと地域住民の合意を諮ったり、地味にネットワーク構築をしているような職員は異動させられてしまいます。

 しかも市や町村の有力者(ほとんどが高齢者)がイメージしている「活性化している地域」とは、人口が右肩上がりで、若い人が多く、皆が商店街で買い物し、工場が都会から次々と移ってくるし公共事業はどんどん増えて働く場はたくさんある、といったようなオイルショック以前の高度成長期、つまり1970年ごろの姿だったりします。今では絶対に不可能な妄想を、国主導で実現できると信じているのです。

 そもそも、このような議論が横行し、そのために国民の税金が使われているような地域は、このたびの地方創生で完全に失敗してさらに人口が減り、隣の市町村に吸収合併されて無くなったほうが、日本全体の厚生の点からはむしろ望ましいことかもしれません。

■はんわしの「評論家気取り」 外国人花嫁というブームがあった(2016年3月10日)

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