2016年11月27日日曜日

世の中のトレンドを「マッチング」から見てみる

【読感】フー・ゲッツ・ホワット (Who Gets What) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学 アルビン・E・ロス著  日本経済新聞出版社

 よく最近の若者は「モノ離れ」だと言われます。自家用車が必要だと考える若者の割合は年々減少しており、実際に保有率も低下しています。しかし一方で、これはクルマの「所有」に関心がないだけであって、カーシェアリングなどネットで手軽に使えるサービスは若い世代の利用は意外に多い現実があります。
 ICTでシェアリングするサービスといえば、自家用車を使って乗客を運送するUberや、自宅を使って観光客などを宿泊させるAirB&Bといったサービスは、すでに全世界で普及しており、規制が多く先進国で最も浸透度が低い日本は、シェアリングというまったく新しい世界経済のトレンドに乗り遅れているという危機感に満ちた声もよく聞きます。
 「規制」という市場のコントロール手法が行き詰る一方で、シェアリングエコノミーが爆発的に普及しているという事実は、日本の市場開放が不完全なのか、それとも市場メカニズムを超えた新し仕組みなのか、ということについては、わしもぼんやりとではありますがかねがね不思議に思っていたことがあり、夏ごろに新聞の書評で知った本書を購入したのですが、このたびやっと読了できました。率直に言って難しかったです。


 この本の著者、アルビン・E・ロス氏は米・スタンフォード大学教授で、平成24年にはノーベル賞も受賞している経済学者です。なので、本書が難しいのは当然なのでしょうが、内容そのものは具体的な事例が多く引用されていて、それなりに理解することができます。

 でもって、300ページ以上もある本書の内容をむちゃくちゃ簡単に要約すると、以下のようになるのではないかと思います。

1 今、スーパーで買い物したり、銀行でローンを組んだりする、いわゆる「経済行為」は、市場を通じて(少なくとも、資本主義国家においては)、市場メカニズムによって行われている。野菜や果物の値段は需給バランスによって決められており、ローンの金利も資本市場の需要と供給で決められている。

2 これらの「市場」とか、「市場メカニズム」は、勝手にあるように思えるが、実は人類史と並ぶ長い長い歴史があり、知恵と工夫が積み重ねられて成り立ってきたものである。例えば、度量衡を全国、全世界で共通にしなければ公平な売り買いなど成り立たない。貨幣システムにせよ、品物の等級付けにせよ、すべて人類の経済活動の中で試行錯誤が積み重ねられてきた。

3 この「市場」の特徴を一言でいうと、お金の多い少ないだけで取引が成立するシステムということができる。(これを「コモディティ市場」という。)
 売り手の商品には値段という貨幣価値が明示されていて、買い手がその代金を支払えば売り買いが成り立つ。(物々交換ではこうはいかない。)この市場というメカニズムが広く社会に広まったから、取引の危険度やコストが下がり、あらゆる取引活動はスムーズになり、そのために経済活動は全世界的に活発になった。

4 その一方で、入学とか就職のように、求めている相手が一つの価値では必ずしも受け入れられず、「求愛と選別」というプロセスを経ないと取引が成立しない市場がある。これが「マッチング市場」である。

5 誰が何を手に入れるか(Who Gets What ~本書のタイトル)を決める要因が価格だけではないとき、市場では必ずマッチングが行われる。会社が求める人材は最も安い給料で働く人ではなく、意欲や能力がある人である。このため会社と求職者はそれぞれ熱意や資質、やる気をアピールしあうことになる。

6 また、マッチング市場には臓器移植のように、まったく金銭が絡まないもの、あるいはあえて貨幣的な価値を明示しないものもある。

7 マッチング市場も、歴史とともに成立してきたものもあるが、取引の対象となるものの特性に合わせて、人為的にデザインされた市場もある。こうしたマーケットデザインは、経済学の新しい研究分野となっており、既存の市場(コモディティ市場によっては解決できない問題を解決するために、マッチングがデザインされることが行われている。

 とまあ、以上が前段です。
 本論はここからで、ロス博士が実際にデザインに取り組んだ、「アメリカの新任医師たちを研修医として全米のどの病院に割り振るか」とか、「ボストン市の中学生が本人の成績と志望を最大限勘案したうえで進学する公立高校をどう割り当てるか」といったような具体例について、ボトルネックとなっていた原因の分析と、それを、ICTやゲーム理論などの知見を使ってどうマッチングデザインし、解決したかが紹介されます。

 マッチングデザインに重要なことは、当然ながら取引を希望する参加者をどれだけたくさん集めるかです。次に、それら多くの売り手と買い手がいかに容易にマッチング市場にアクセスできるかも問題です。
 この「市場の厚み」は、インターネットの登場によって革命的に前進しました。冒頭で書いたシェアリングサービスは典型的なマッチング市場ですし、不特定多数の出資者から資金を集めるクラウド・ファンディングもそうでしょう。
 今この世の中に存在している資源を最大限に引き出すのがこうしたマッチングデザインであって、社会問題の解決を政治や行政だけに求め、企業や国民も自分たちの既得権は規制によって守ろうとする体質である限り、残念ながらこういった世界の趨勢から日本が一周も二周も遅れていくのは避けられない ~残念であり、残酷なことではありますが~しかたがないのかなあ、という奇妙なあきらめが湧いてくるのを禁じ得ないのでした。

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