2016年11月8日火曜日

日本の「地方」も同じこと

 最初は泡沫候補と考えられており、党の正式な最終候補者となってからも、やっぱり結局は当選しないだろうと見られていたトランプ氏が、ここへきて何だか激しく巻き返してきました。
 金持ちだが教養がなさそうなトランプさんと、エリートだが既得権益臭が強いヒラリーさんとの「嫌われ者対決」となっていて、アメリカの一般国民の関心は必ずしも高くないとも伝えられていますが、このトランプ氏の思わぬ追い上げに、日本のマスコミも、トランプ派は白人の中高年男性が多く、これはアメリカでもいわゆる「中間層」が失業や低賃金で痛んでおり、こうした元中間層が「強いアメリカ経済」をわかりやすく求めているためだと報じています。
 わしもこの週末、こうしたテレビ番組をよく見ましたが、こうした中で取材対象となっている白人男性のほとんどが、鉄鋼や自動車、電気製品、繊維製品などのメーカー(製造業)で働いていて解雇されたような人々でした。
 アメリカは経済が成熟して人件費が高く、これらの製造業はほとんどが生産拠点をコストの安いアジアや東欧に移転してしまっています。軍需産業とかハイテク産業以外の一般製造業では、研究開発や設計を担当するエンジニアくらいしか国内には残っていません。

 一方で、アメリカはICTや金融などが主力産業の座に就いて経済成長の牽引車となっていますが、こうした仕事に就けるのは相対的に学歴が高くてスキルの高い人々であり、ごく普通の人が就職し、長く働き続けられるような産業ではないようです。製造業の職を失った人々はスムーズに成長産業に転職できないのです。

 アメリカはともかく、この話の基本的な流れは、日本でもまったく同じではないかと思います。
 日本もICTは有力産業ですが、技術革新が早いICTでの成長には人的集積がある「都会」という地の利が非常に重要で、地方が今までのように自動車の工場を誘致するような感覚で、ICT企業を誘致できるかといえば、全然そうはなりません。
 そうしている間に地方から工場はどんどん減っています。アメリカ同様、日本でも部品の製造や組み立てといった工程はコスト競争になっており、コストが安い海外との競争に次々と敗れているからです。
 日本ではアメリカのような解雇はなく、配置転換などで対応はされますが、正社員の新規採用は抑制され、工場で従事する人々も多くは有期雇用であったり、派遣労働者であったりします。
 もちろん、製造業が日本からなくなるわけではありません。自動車にしろ電気にしろ化学にしろ、開発や設計、試作といった部門は残るでしょうし、高い技術力など圧倒的な強みを持つ企業は今後も成長するでしょう。

 しかし、製造業全体、特に地方での製造業に関しては、衰退は止まらないでしょう。工場数は減り、従事者も減少が進むと思います。

 日本もこの状況に手をこまねいているわけではありません。今後、地方で需要増が見込まれる介護福祉事業などサービス業への人材の移動が進められていますし、地方ならではの地域資源を活用した食関連産業や観光業の振興が図られています。
 ただ、工場で働く製造業と、サービス業とでは中身が大きく異なっています。かなり高度な職業訓練が必要になるし、何より賃金が大きく異なります。言うまでもなく、製造業が全産業の中で相対的に賃金が高いのに対し、商業や多くのサービス業は低いポジションにあります。

 最初の話に戻って、「中間層」を、①地域の人口の一定割合を占めており、②雇用と給与が安定しており、③消費や教育にそれなりの関心と意欲がある人々、と定義するなら、中間層の太宗を占めていたのは、製造業で組み立てなどに従事していた人々であったと結論付けられます。

 アメリカでは、ヒラリーさんはこれをグローバル競争をより活発にして、そこでアメリカ産業が勝ちぬくことで(=勝てない産業は海外に移転することで)国内を豊かにしようという発想のようですし、トランプさんはグローバル化には歯止めをかけ、勝てない産業も保護しよう、という考えのようです。
 しかし、アベノミクスやローカルアベノミクスでも明らかなように、成長力を高めるには競争と自由貿易を促進することが大原則で、弱い産業を保護して補助金を出したりするのは政府の財政に限界がありますし、支援することで一層競争力は失われるので、ゾンビ産業、ゾンビ企業を輩出することになってしまいます。

 ただ、こうしたことは理屈ではわかるとしても、人々の感情のうえでは納得しがたいものがあるでしょう。非エリートの人なら、あるいは今まで政治経験がない素人なら、かえって庶民目線で大胆な政策が打ち出せるかもしれない。そんな期待になっているのだと思います。

 このように日米で共通しているように思える、地方での製造業の衰退と中間層の減少に対して、アメリカの有権者はどのような選択をするのか?
 非常に興味深く思います。

<関連リンク>
■中小企業白書2016 第2部 第4節
 http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b2_1_4_1.html

■日経ビジネスオンライン「流通業とサービス業の給料が安い経済学的理由」
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130520/248252/?P=1

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