2016年12月22日木曜日

地方銀行の縮小・再編は進む

【読感】 捨てられる銀行 橋本卓典著 (講談社現代新書)

 中京銀行が尾鷲市にある尾鷲支店を廃止して、松阪支店に統合すると発表しました。平成26年3月の高速道路(紀勢自動車道)全通がもたらした典型的な「負の効果」、いわゆるストロー効果の一つなのでしょうが、この例に限らず、地方にある銀行や信用金庫といった金融機関は今、冬の時代を迎えていると言われています。
 理由の大きな一つは、地方の多くは人口の減少や高齢化によって貸出先となる企業や事業所が減少していることです。ただでさえ商圏が細っていく中で、中小企業では後継者難もあって将来の展望が見いだせず、したがって融資を受けてまで設備投資はしない企業が多くなっています。
 その一方で、中小企業の側からは実際に次のような声も多く聞きます。
「金融機関が融資を決定するのは担保があるかどうかだけで、その企業の商品やサービスの優位性、事業の将来性などはなんら考慮されることがない。担当者も昔に比べて現場にやってこなくなり、経営者の人柄や企業の勢いを目利きできるタイプがすっかり少なくなってしまった。」
 地方の金融が抱えるこうした問題を、共同通信社の記者である著者が、国(金融庁)の取り組みを中心に全国の現場をルポし、提言しているのが本書です。タイトルはたいへんに刺激的で、賛否両論があるでしょう。


 そもそも金融庁は、バブル経済崩壊後の住専問題などで金融機関の放漫経営が社会問題となり、その一方で当時の大蔵省で不祥事が続発し、監督能力が疑われたことから、金融機関の規制部門を切り離して独立させることで平成10年に誕生した官庁です。
 業務の中心は、都市銀行や地方銀行の経営健全化、すわなち適正な融資をしているかどうかのチェックとその是正であり、金融機関に対しては検査マニュアルに従って貸出先を厳密に分類し、担保価値を厳しく査定して不良債権のあぶり出しを強烈に推進したのです。
 要注意先と分類された企業に対しては金融機関が追加融資の打ち切りや、繰り上げ返済を強く迫る事態が全国各地で発生し、「貸し渋り」「貸はがし」は流行語にもなりました。
 これは金融機関にとって金融庁の命令によるやむにやまれぬ選択だったとしても、これ以降、金融機関が経営健全化=不良債権の切り捨てのみを重視する姿勢が強まり、上述のように中小企業からは本業が良好にもかかわらず必要な融資が受けられないという不満の高まりにつながりました。

 こうした金融機関の姿勢に対して、大転換を迫ることになったのが平成27年7月の森信親氏の金融庁長官就任です。
 金融機関の「目利き力」の低下が、中小企業に支えられている地方経済の沈滞を招いていることにかねて危惧を感じていた森長官は、安倍内閣の地方創生戦略を下支えする意味からも金融庁の政策目標を「企業と地域経済の成長」に大転換し、金融機関が自ら中小企業の将来性を目利きし、有望企業に対してはリスクを負って積極的に貸し出しを行うよう、金融行政の姿勢を大きく変更したのです。

 このために、森長官は自ら全国の中小企業1000社のヒアリングを陣頭指揮したほか、広島銀行で企業再生などに多くの成功例を生んだ日下智晴氏を金融庁にヘッドハンティングし、地域金融のプロ中のプロと呼ばれる多胡秀人氏を招いて金融機関の再活性化のための取り組みを加速します。このあたり、著者の記者らしい緻密な取材で、臨場感のある文章が続きます。
 同時に、このような金融庁の方針転換にかかわらず、橋本さんによれば、金融機関はまだまだ努力が足りません。多くは国債などによる安定運用に安住し、自らリスクを取る姿勢を見せないのです。

 では、どうすればいいのか。
 詳しくは本書をご覧いただきたいのですが、この問題の根はたいへん深く、そもそも金融機関は長らく旧大蔵省の強い規制の下に置かれ、「護送船団」と呼ばれる横並び行政に縛られていたこと。中小企業向けの融資には信用保証制度があって、金融機関はリスクを負わないのが当然になっていることなど、自らを変えていくインセンティブがあまりに少ないのです。

 ただ、わしは少々、著者の橋本さんが金融庁寄りの立場で、金融機関を一方的に断罪しているような記述が多いのもやや気になります。
 わが国では預金者(国民)の多くは金融機関には安定経営を強く求めており、投資ファンドのような積極的な融資 ~当然ながら焦げ付く可能性が高い~ は求めていないように思えるからです。
 もちろん地方の中小企業の成長に金融機関の存在は不可欠です。金融機関も審査能力を高めるべきなのはもちろんですが、国民感情との折り合いも付けないと制度の持続は不可能でしょう。この点は、国民的な議論と、今しばらく現場への浸透の時間が必要な気がします。

はんわし的評価(★★☆) 金融庁に振り回される地方銀行がかわいそうに思えてくる

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