2016年12月30日金曜日

サミットという「流儀」の終わり

 先日、スーパーでこんな納豆を見つけました。納豆大手のあづま食品(宇都宮市)による新商品で、その名も「伊勢志摩あおさのりたれ」納豆。三重県伊勢志摩産のあおさのり(ヒトエグサ)を配合した醤油ベースたれが付いており、実際に食べてみるとほのかにのりの香りがして、これはこれで目先が変わっていいと思いました。
 そういえば、このパッケージのような写真を今年は実によく目にしました。伊勢志摩国立公園、英虞湾のリアス式海岸の航空写真です。今年5月に開催された主要国首脳会議(G7)の舞台であり、サミット関連の報道や、サミットに商機を見出そうとする観光キャンペーン、土産物商品などで必ずこの風景写真が使われていたものです。
 しかし開催から半年以上たって、こうした一過性のイベントの宿命ではあるのでしょうが、急速に世間からは忘れ去られ、もはや完全に過去のことです。人々の話題に出ることもなくなりました。土産物店に並んでいたサミットあやかり商品(土産)も今やまったく見かけません。
 地元の三重県(庁)は、いわゆるサミットの「開催効果」が4168億円にのぼったとし、今後、平成28年度から32年度にかけて観光客の増加など1489億円の効果があると公表していますが、これに期待する声などほとんど聞かれないのが地元の実態だと感じます。

 江戸時代の「お伊勢参り」の頃から続く、成熟した観光地である伊勢志摩にとって、サミットという「イベント型」、「起爆剤型」の活性化モデルがそれほど効くとも思えませんでしたし、むしろ地域活性化方策としての「サミット」という流儀、モデルは通用しなくなっていることの証左となったように感じられてなりません。

 サミットからちょうど半年が経過した11月ごろ、県内の各紙が一斉に「地元への効果はまだら模様」と伝えました。

 毎日新聞によると、各国の首脳が訪れた伊勢神宮・内宮は、式年遷宮があった平成25年以降、参詣客が減少していましたが、今年は増加に転じ、特に外国人客が大幅に増えています。
 サミットの会場となった志摩市賢島の志摩観光ホテルは、サミット直後から宿泊予約が倍増し、7~10月の客室稼働率は前年同期比3割増となっています。
 食事の乾杯酒に採用された清水清三郎商店(鈴鹿市)の清酒 作(ざく)、智(さとり)、純米大吟醸 滴取り は生産量を2割増やしたものの、注文に出荷が追いつかず、社長は「うれしい悲鳴」とコメントしています。
 ホテルなどに備えられたデアルケ(紀北町)の200%トマトジュースも、売り上げは昨年の3倍に急増し、トマトの収穫が間に合わず1~3カ月の予約待ち。
 首脳の配偶者に振る舞われた、はあぶ工房Together(桑名市)の、障がい者が店の庭で育てた無農薬ハーブを使ったシフォンケーキも好評とのこと。
 また、日本経済新聞によると、賢島で営業する真珠販売店も「売り上げが1.5倍に増えた」など好調とのことです。

 しかしこうしたミクロな話の一方、志摩市観光協会は「志摩観光ホテルをはじめ賢島は好調。海女も話題に上がり、海女小屋の売り上げは今年上期で昨年1年間を上回ったが、賢島から離れた地域や小規模な民宿には効果が少ない」とコメントしています。

 10月23日に実施された志摩市長選において、サミットを強力に推進してきた現職市長が落選したのも、喧伝されたほど地元に恩恵がなく、むしろ後回しになっていた感がある市民サービスに不満が高まったことが一因と報じられました。

 百五総合研究所が7月に三重と愛知両県の企業にアンケートしたところ、サミット開催の影響について、「プラス」「ややプラス」と答えたのは合わせて26%しかなく、地域別に見ると地元の南勢地区のみは49%と突出した状況。「影響がない」との回答が42%を占め、「マイナス」も8%近くありました。企業の関心と期待に地域差が大きいことが浮き彫りとなりました。
 また、三重銀総研が10月に発表した、県内の中小企業を対象とした平成28年度上期の景況調査では、サミット効果について「自社の業況に影響なし」という回答が約8割を占め、開催地元以外はほとんど効果が実感されていないことも明らかとなりました。

 地域活性化の「起爆剤」としてのサミットが通用していないのは明らかで、わずか数日間の会議で首脳たちが食事や宿泊や観光をする、その効果のみで、多くの企業に好影響をもたらすことなど21世紀の日本ではありえないのです。
 上記のアンケートでも経営者は、観光客増加とかインフラ整備に影響が出たとみており、今後、サミットはこれはこれとして一つの地域エピソードとして活用し、地域の魅力アップや利便性向上に地道に努力を重ねていくしかないでしょう。
 もちろん、これは容易なことではありません。
 外国人観光客の増加も、ある水準以上になれば地元民との軋轢も生まれるでしょうし、観光地は国際化すればするほど世界の景況に直結することになり、浮き沈みが非常に激しくなるため、経営体力のない中小企業はむしろ淘汰されるでしょう。(厳しい言い方をすれば、その優勝劣敗で観光地の魅力はブラッシュアップされるわけです。)
 富裕層を招いて、とも言われますが、そう旗を振っている役人やコンサルタントたちは富裕層でも何でもない庶民なので、本当は富裕層のニーズなど知らないし、この世界もまた厳しいサービス競争となるので、地元に広く経済的な効果が波及することにはなりません。難しい問題です。

 また、地域活性化といった枝葉の話ではなく、サミット本来の目的である、世界経済問題の議論と協調、国際ルール作り、といった面でも、今回のサミットは不十分なものだったように思います。
 安倍首相による「世界経済はリーマンショック級のリスクに直面している」という問題提起は、世界の多くのマスコミから懐疑的な批判を受け、消費増税延期の演出に過ぎないと見透かされていました。
 世界の耳目を集めたのは、むしろサミット後にオバマ大統領が広島を訪問したことであって、まさに後世に残るこの偉業の前に、サミットはすっかり影が薄くなってしまいました。
 さらに9月には英・キャメロン首相が辞任。11月にはオバマ路線を全否定するトランプ氏が大統領選に当選しました。仏・オランド大統領も来春の大統領選には出馬しないと表明したので、英・米・仏の主要国首脳とは縁が切れてしまうわけです。
 これらの発端は、いい悪いは別として、西側諸国が何の疑いもなく進めてきた国際協調路線、経済のグローバル化路線への大衆の「疑い」や「不安」であって、これが顕在化した以前のサミットは、今や古き「旧体制」にしか見えません。早い話、時代のほうが先に進んでしまったのです。

 このようにボロボロになってサミットは忘れられていきます。成仏せんことをお祈りします。
 後に残るのは、94億円という県のサミット関連支出(このうち約35億円は県債)の影響です。
 三重県財政は公債費の償還ピークを平成34年度に迎えることから厳しさを増しています。サミット効果(?)による税収増と、財政の破たんと。まさに時間との戦いになっているのです。

(補足)
 あづま食品の「伊勢志摩あおさのりたれ」納豆は、サミットとは何の関係もありません。自社開発された素晴らしい商品で、わしも実際食べて大変おいしかったのでお勧めしておきます。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

そこは「いかにもサミット便乗商品」をとりあげるべきところだったでしょう。
補足は最後に書いても、ねえ・・・
ずっと三重県内で工場を操業していただいているのに・・・

匿名 さんのコメント...

その上、ポストサミットなどと予算を追加投入しているのだから目も当てられない。
首脳たちが使った机と椅子を飾ってお客が来ると良いのだが。
サミットが三重県没落のきっかけだったよねと語り継がれる未来とか悪夢だなあ。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

「首脳たちが使った机と椅子を飾ってお客が来る」とはわしにも思えませんねえ。イギリスのEU離脱以前と以後では世界政治のパラダイムが変わってしまっているので、サミットがらみの情報発信力などもはや賞味期限切れでしょう。