2016年12月6日火曜日

アジアに見捨てられつつあるニッポン

【読感】 ルポ ニッポン絶望工場 出井康弘著 講談社+α新書

 農業は成長産業であるとか、漁業の再生なくして地方の再生はない、などといった意見を最近よく耳にしますが、これら第一次産業の現場には日本人の若者は従事しておらず、その少なくない部分が外国人労働者によって支えられています。
 地方創生の有識者だのカリスマだのという人の話を聞く機会がわしにも時々ありますが、こうした地方の産業の現場に、外国人労働者、つまりは実習生や研修生、あるいは留学生が大挙して従事していることについて、現状の位置づけや課題、そして将来の在り方をきちんと説明してくれた人に、今までただの一人もお目にかかったことがありません。悲しいことに、こういった外国人は一般国民どころか、偉い人の目からも「見えない」存在なのです。
 この本のタイトル「ニッポン絶望工場」とは、かつてルポライターの鎌田慧氏がトヨタの季節工として自動車工場での労働を体験し、その過酷さと、それでもこの仕事を選ばねば生きられない人々の生きざまを生々しく描いたルポルタージュの名著から由来していることは間違いないでしょう。
 それから40年近くを経て、その頃の東北や九州、沖縄の若者たちに代わって、今度はアジアからやってきた若者が日本社会からひどく搾取されている実態を明らかにしたのがこの本です。


 最近はインバウンドブームとかで地方でもよく外国人を目にします。実際に、現在日本で暮らす外国人は過去最高の223万人にもなっています。そして実にその半分以上が、実習生や留学生としてやってきている人々です。
 著者の出井さんによれば、彼らの実態は出稼ぎ労働者であって、事実上の移民です。ヨーロッパやアメリカでは、EU離脱やトランプ問題のように移民の是非が大激論になっていますが、日本では事実上、移民がどんどんと ~国民がほとんど無関心のうちに~ 増加しているのです。
 コンビニやファミレスの店員といった目に見える存在だけでなく、宅配便の仕分け、コンビニの弁当やサンドイッチの製造、新聞配達、工事現場など、わしらの生活を豊かにし、利便性を高めている仕事は多くがこれら外国人に支えられており、彼らなしではもはや日本の社会は成り立たないとさえいえるのです。

 本書ではまず、最近急増しているベトナム人実習生・留学生のインタビューを通じて、彼らがなぜやってきたか、どんな生活をしているのか ~信じがたいほどにひどい~ が明らかにされます。
 そして、知られているようで知られていない技能実習制度とはそもそもどんなものなのか、誰が発案して始まり、なぜ全国の工場や農場に瞬く間に広がったのかが解説されます。
 さらに、ベトナム人やネパール人などが急増している理由、かつて実習生の主流だった中国人が減っている理由、さらにリーマンショック以前まで製造業の盛んな地方都市でよく見かけた日系ブラジル人といった人々はなぜいなくなってしまったのか、などについても詳しく書かれており、その内容はまさに目からウロコの連続です。

 驚くべきことは、あまりに試験が難しくほとんど合格者が出ないことで社会問題となった、フィリピンとインドネシアからの介護士の受け入れが始まったそもそもの理由が、日本社会の高齢化が進み、一方で担い手が極度に不足している、その人材確保の手段としてではなかったということです。
 日本とフィリピンとのEPA(経済連携協定)の交渉の中で、日本が産業廃棄物を「輸出」する見返りに、フィリピンが女性などをそれまで「興業ビザ」で日本に送り込んでいたことに代わって「介護士」として送り出すという、そのバーターで決まったというのが出井さんの ~にわかに信じがたい~ 解説です。
 EPAを推進したのは時の変人宰相・小泉純一郎氏であり、日本の厚生労働省にとって介護士をフィリピンから受け入れるなどとは寝耳に水の事態でした。権益を侵されることを危惧した厚労省はただちに反撃に出ます。その方法が、日本に来て3年間介護現場で働かねば介護士の受験資格が得られず、しかもその試験は日本語でのみ実施され、結果的に大部分の外国人は試験に落ち、3年で帰国せねばならないように仕向けることでした。
 しかし、あまりに不合格者が多く、「頑張ってきたフィリピン人、インドネシア人たちがかわいそう」という世論が起こると、厚労省は試験問題にふり仮名を振ったり、試験の難易度さえ操作して、一定数の合格者を出すことで世論の批判をかわすことに成功します。

 これは、同じように介護士をアジアから受けれているドイツ、カナダ、中東の国々に比べて、研修や受験の機会、給与や労働条件といった待遇面で、あまりに外国人に不利な扱いであり、今後日本が外国人介護士をさらに多く受け入れようとしても、もはや優秀な人材は日本にやってこないだろう、それどころか、優秀でない人材すら日本には魅力を感じないだろう、というのが出井さんの見立てです。

 ではなぜ、外国人研修生・留学生問題は日本でここまでこじれてしまっているのでしょうか。
 出井さんによると、厚生労働者や政権与党、さらにJITCO(公益財団法人 国際研修協力機構)といった広義の官僚組織の権限獲得争い、天下り先確保、自己保身によることが大きく、現場での矛盾をここまで放置してきたことが一つ。
 もう一つは、やはり国民の無関心と、いまだに多くの日本人が思っている「日本はアジアの先進国であり、多くのアジア人は豊かな日本で働きたがっているはずだ。」という勘違い、うぬぼれです。
 もはや日本はアジアの先進国ではありません。中国をはじめ、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどの新興国もどんどん経済成長しているのに比べ、日本は老化した、機能不全の、経済成長力にも陰りが見える小国に過ぎなくなってしまっているのです。
 アジアの若者は日本で働いても差別され、給料は安いことを知っています。チャンスが少ない日本で働きたいなどと思っていないのです。
 ますます少子化と高齢化が進み、労働力人口が減少する日本で、これは恐ろしいことです。地方自治体が進めるべき国際化政策も、観光客の誘致などもけっこうですが、これと同じかそれ以上のエネルギーでもって、留学や技能実習がしたくなるように魅力を発信し、体制も充実させていくことが必要でしょう。

はんわし的評価(★★☆) 文章が平易で読みやすい。内容はかなりショッキング。

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