2017年1月19日木曜日

流山市、人口急増の誤算

 先日の日経新聞に 「子育ての街」千葉・流山、人口急増の誤算 という記事が載っていました。(1月16日付け)
 子育て世代の誘致に力を入れてきた千葉県流山市が、予想以上の人口流入のため保育園や小学校などの施設がほぼ満杯の状況に陥り、一部では「急激な人口増に歯止め策を」という声も出てきたと報じられています。
 流山市は千葉県北西部にあり、かつては江戸川の水運で栄えた町だったそうです。井崎義治市長が平成16年に市町村では全国で初めて市役所内に「シティ・マーケティング」の担当課を置き、「都心から一番近い森のまち」とのコンセプトのもと、共働きの子育て世帯をターゲットとして住民の誘致(移住促進)策を展開していきます。
 平成17年に都心までを30分で結ぶ鉄道路線、つくばエクスプレス(TX)が開通したことを契機に一艘人口増加が進み、それまで15万人台だった人口が平成21年には16万人を突破。平成28年11月には18万人にまで達しました。
 しかし、都心に近いゆえに保育士がより給料の高い東京都内などに転職してしまったり、マンションの新築ラッシュによる児童増加で小学校の新築が必要になるなど、急激な人口増加による副作用も顕著になっているとのことです。

 わしは不勉強でこの日経の記事を見るまで流山市が自治体経営のいわばお手本となっている都市であることを知りませんでした。下総・流山は幕末の京都で鳴らした新選組の近藤勇が官軍に捉えられた土地であるという、いささかマニアックな知識しかありません。もちろん残念ながら行ったこともありません。

 ネットで知らべると流山市の成功、すわなち人口の増加、なかんずく幼い子供がいる若い夫婦世代の増加の秘訣は、上述のように井崎市長のリーダーシップによるシティ・プロモーション戦略にあったと分析されるのが定説のようです。
 たとえば、千葉県庁がホームページで公表している「市町村の行政改革の取組事例」では、流山市を 人口増加の秘密~シティセールスプランに基づくプロモーション活動~ とはっきり紹介しています。(リンクはこちら
 つまり、自らの強みと弱みを把握したうえで、ターゲットを明確に定義して、自分の強みをアピールする方法を手順化し、着実に実行する。これはごく普通のマーケティングの定石ですが、法律で決められた住民サービスを提供することが役割だと思われていた地方公共団体において、こうした積極的に我が町の魅力をターゲットに集中的に発信していくという手法は未知のものであったし、斬新なものだったのでしょう。
 市役所内には反発も強かったと言いますが、結果的にこの戦略が「成功」につながったのです。

 しかし、です。
 ここを誤解してはいけませんが、シティ・プロモーションの表面上をいくら真似ても決してうまくいかないでしょう。
 流山市の場合は民間企業からスカウトした人材をシティ・プロモーション担当の「マーケティング課長」に据え、経験豊富な人材が実務に当たっていました。人事異動で宛がい扶持されたにわか課長ではないのです。
 また、市長もシティ・プロモーションだけでは限界があることは承知しており、
・財政健全化に取り組み、市役所を効率的、効果的な経営体にする
・景観条例や開発許可基準条例、街づくり条例などの制定による良質な住環境の整備
・許認可保育園の新設・増設などによる子育て・教育環境の充実
 の3つの施策も同時に強力に進めています。

 「トップセールス」などと称して、財界人や有名人が来るパーティーやイベントには好んでやって来るものの、住民とのシリアスなネゴシエーションの場からは逃げ回って決して出てこない首長をよく見かけますが、流山市の場合は土地開発のように住民の利害関係が衝突するような場面で市長自身がリーダーシップを発揮しているのです。この違い ~首長の政治力の有無~ は非常に大きいと思います。

 また、わしが単純に思うのは、なんだかんだ言っても、流山市は土地が安いのではないか? 利便性や自然が豊かでありながら地価や家賃が近隣市に比べて相対的に低いことが転入者を呼び込んでいるのではないか? ということです。
 そう思って、やはり千葉県庁のホームページにある、平成28年度の地価公示市区町村別平均価格図(住宅地)を見ると、市川市、船橋市、松戸市といった都心により近い市に比べ、流山市の住宅地価はやや低いことがわかります。もちろん、鉄道の便が劣る白井市や野田市に比べると非常に高いですが、流山市が住環境に比べて地価が安い印象は、住民の実感としてあるのではないでしょうか。


 ただし、土地の値段は場所や条件でまったく異なりますから、平均値などそもそも意味はないとも言えます。
 また、住環境、自然環境のわりに地価が安いというのは、やはり自治体経営がうまくいっている結果ではないかという議論も成り立つでしょう。

 しかし、巷間よくあるように、市役所がシティ・プロモーション戦略に成功したから、ただそれだけの理由で人口が伸びたように報道され、分析されることには疑問を感じざるを得ません。
 街は生き物であり、森羅万象のあらゆる要素が絡み合って成り立っています。自治体の施策だけですべてがうまく解決するように信じてしまうのは短絡的過ぎると思うのです。

■流山市ホームページ   https://www.city.nagareyama.chiba.jp/


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