2017年1月24日火曜日

「この世界の片隅に」のキネ旬1位に納得した件

 新年早々、2016年キネマ旬報ベスト・テンの日本映画第1位に選出されたこともあって、異例のロングラン上映となっているそうな長編アニメ映画「この世界の片隅に」を見てきました。



 わしは12月に「君の名は。」を見てかなり感動したのですが、こちらのほうは残念ながらキネ旬ベスト・テンではランク外となってしまいました。


 よく言われるように、キネ旬の審査委員は映画評論家や映画記者が中心なので、キャストや興行成績とはほとんど関係なく、マニアックな作品やマイナーな映画がランクインすることが多いのですが、それにしてもアニメ作品が第1位に輝くのは昭和63年の「となりのトトロ」以来のことだそうなので、「この世界の片隅に」は歴史的な作品に違いありません。
 幸いにも伊勢進富座で上映していたので、お昼の回に行ってみたのです。

 わしが伊勢進富座に着いたのは上映15分前でしたが、驚いたことに、すでに満席。滑り込みセーフでなんとか補助席に座ることができました。ざっと見たところ半分くらいは40代以上の年配者で、テーマが太平洋戦争、広島の原爆、ということも関係しているのかもしれません。

 映画のあらすじはネタバレになるのでもちろん書けませんが、広島市の漁村出身の少女浦野すずの少女時代の生活と、18歳の時に呉市の北條周作との縁談がまとまり、戦争のさなか昭和19年に呉市の北条家に嫁入りしてからの夫の家族との日常生活を淡々と綴っている内容です。
 もっとも、ドラマチックな出来事がもちろんいくつも起こります。軍港があり軍事都市であった呉は連日のようにアメリカ軍の空襲に遭っており、いわば死と隣り合わせに暮らすことが強いられた市民たちの生活は、今の平和な日本からは想像を絶するものが多々あります。
 この時代の厳しさを生き抜いてきた人々は、もはや今の日本では圧倒的な少数派になってしまっています。

 同時に、この時代の人々の意識や生活様式は今とあまりに違うことも再認識します。
 すずをはじめ、出てくる人々は一日中働きずめです。夜は暗いうちから仕事を始め、子供たちは学校から帰ればすぐに親の手伝いです。勉強をしている暇などこの時代の子供にはありません。
 すずの縁談も、まったく知らない男性からの求婚です。それも両親に対しての申し出であり、親が承諾すれば娘が嫁に行くのは当然のことと思われていました。
 縁付いた先の夫の家でも、嫁は炊事や洗濯や畑仕事で一日中働いています。水道などないので、水は共同井戸で汲んで、桶で天秤棒を担いで家まで運ぶしかありません。これも嫁の仕事です。

 しかし、同時に、この時代の生活はゆったりしています。すずも小姑にいびられますが、夫には愛され、夫の両親にも可愛がられています。生活が厳しいのは当たり前で、そのうえで家族はまとまっており、日々を楽しく暮らしています。
 この映画の中で、登場人物が時計を見るようなシーンはほとんどありません。すずは腕時計さえ持っていません。戦時中で戦局は緊迫していますが、銃後の人々の生活はまだのんびりしていたのです。

 すずは子供のころからぼんやりと空想するのが好きな夢見がちな少女でした。絵をかくのが上手で、いつも手帳を持ってスケッチしたり、友達や妹に漫画を描いて見せたりするのが大好きでした。
 この、すずの「絵」、あるいは絵を描く人が持つ目線、視点がこの映画の切り口に重要なポイントとなります。
 絵を描くために真実を観察するすずの心情が、彼女を襲うさまざまな出来事に絡んで、切ない物語が展開しますが、まあ、皆さまもぜひご覧ください。
 
 わしも世代的に、親が子供の頃の戦争の話 ~すずはまさしく昭和一ケタ生まれで、わしの両親よりやや年上のほぼ同世代です~ とか、祖父からは中国での戦争の話、祖母からは祖父が二度目に召集されたときは子供(わしの叔母)を身ごもっておりたいへん心細かったことなどを聞いている世代なので、この映画の内容は意外にもビビッドでした。
 「君の名は。」が現代的なファンタジーの傑作だとすれば、「この世界の片隅に」はわしのような戦後世代にとっても間接的にリアリティーのある話であり、キネ旬で1位になるのも納得できる気がしました。
 両方の作品とも、国内はもちろん、海外でもロケ地を探すことは不可能だし、CGにすれば莫大な予算がかかるし、何より日本の俳優はタレントとしてCMやバラエティー番組にもよく出演するので、役柄にはまり込むということもできません。少なくともわしはアホなCMに出ている役者がいくらシリアスな演技をしたり、カツラをかぶって侍をまねても、嘘くさい作りごとにしか見えないのです。
 こうした世界観を表現するには、もはやアニメしか手段がないことも強く実感しました。

 さて、この映画は、制作に大手の配給会社が関わっておらず、約2億5千万円かかったという製作費のうち約3900万円はクラウドファンディングで金策したエピソードも持っています。
 物語が終わった後のエンドロールで、出資した人々の名前(1000人以上ありました)が映されることについては賛否両論あるようですが、ファンが支えることで映画が作られ、この作品に関しては興行的にも成功したことで、今後こうした取り組みはますます増えてくるのでしょう。

■朝日新聞  「この世界の片隅に」舞台を巡る
   http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/gallery/konosekai/

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