2017年1月18日水曜日

ソーシャルビジネス資金調達の現状

 日本政策金融公庫論集 第33号(平成28年11月)の「ソーシャルビジネスの資金調達の現状について」という論文が興味深かったのでレビューしておきます。
 社会的な課題をビジネスの手法を用いて解決する「ソーシャルビジネス」は、高齢化が進展する日本において今後ますます発展が期待されるビジネスです。
 ソーシャルビジネスの事業発展のため資金調達は重要な問題ですが、以前からこの点については一般ビジネスにはないソーシャルビジネスに特有の難しさがあるとされてきました。
 国(経済産業省)の過去の調査によると、借り手(ソーシャルビジネス事業者)が金融機関からの融資を受けられない主な理由として、
・「ビジネスモデルが確立されていない」
・「事業計画がしっかり立てられていない」
・「経営能力に問題があり継続性が担保できない」
等が考えられること。また、金融機関側はソーシャルビジネスという社会性と事業性を両立したビジネスモデルに関する目利きが難しいことなどが挙げられています。
 この論文ではさらにこの点を掘り下げて、現場で実際にどのような問題があるのかと、その対応について昨年夏にソーシャルビジネス事業者に対して行ったアンケート(社会的問題と事業との関わりに関するアンケート)結果により考察しています。


 このアンケートは、
①年収が1,000万円以上の非上場中小企業で会社形態(株式、有限、合名、合資、合同)のもの
②年収が1,000万円以上の企業組合、一般社団法人、特定非営利活動(NPO)法人
 を対象にしています。
 また、対象事業としては
①社会的排除(貧困、障がいなど)
②地域社会(過疎、高齢化、子育てなど)
③地球環境(地球温暖化、オゾン層の保護など)
④開発途上国支援
 の4分野の分野のみに限定しています。
 言うまでもなく、ソーシャルビジネスはこれ以外にも、医療、教育、国際共生、防災・防犯、などといった様々な分野のビジネスがあるので、調査対象の狭さは考慮しておく必要があるでしょう。

 さて、回答結果のうち、ソーシャルビジネスを進めていくうえでの課題は、「人手の確保」の割合が49.0%と最も高く、「従業員の能力向上」が41.9%、「売り上げの増加」が35.4%、「行政との連携」が29.3%、「運転資金の確保」が27.1%と続き、資金調達が人材や売上の確保に次ぐ大きな課題となっています。

 ソーシャルビジネスの直近1年の売上高は「1,000万円未満」の割合が28.8%で最も高く、5,000万円未満の法人が全体の74.9%を占めています。
 また直近1年間の採算についてみると、「補助金を含めれば黒字」と答えた割合が37.6%と最も高く、以下「赤字」が37.4%、「補助金なしに黒字」が25.0%となっています。

 資金調達の中でも、運転資金の調達に困難を感じているソーシャルビジネス事業者の民間金融機関との関係ですが、資金が必要になった時の相談相手をみると、「補助金なしに黒字」、「補助金を含めれば黒字」ともに「税理士・会計士」が最も多く、「メインバンク」、「地方自治体」、「NPO支援センター」も2割前後を占めていま す。
 一方、「相談する先がない」、「外部には相談しない」の合計をみると、「補助金なしに黒字」が18.9%、「補助金を含めれば黒字」が18.1%となっており、黒字でも約2割の法人は資金調達を相談する相手がいないか、そもそも外部には相談していないことがわかります。
 この背景としては、ソーシャルビジネスに取り組む法人では、黒字であったとしても、どこに相談するべきかを把握していないことに加え、借り入れや補助金、助成金に関する理解や知識が不足していることが考えられます。

 ソーシャルビジネスは欧米諸国を見るまでもなく、社会課題解決のためのビジネスであり、経済活性化や雇用確保の側面も重要視されるべきです。ソーシャルビジネスをはじめとした、様々な社会問題に対応しようとする動きが一過性となってしまわないようにするためにも、事業者が自ら事業性を高める努力を継続していくことはもちろん不可欠ですが、それと同時に事業者の健全な成長に向けて、社会全体が効果的にサポートしていく仕組みを構築していくことも必要です。

 その点を踏まえると、税理士や会計士、金融機関、地方自治体、NPO支援センターにおいては、セミナー、研修等をはじめとした啓発活動の拡大、借り入れや補助金、助成金の知識習得に関するプログラムの拡充が期待されます。
 また、ソーシャルビジネスに取り組む法人では借り入れや補助金、助成金に関する知識習得はもちろん、必要時にいつでも資金の相談をできるよう、対外的説明が可能な事業計画書の立案・作成が求められます。

 わしとしては、ソーシャルビジネスを中心に融資している、いわゆるNPOバンクとか市民バンクと言われるような、それ自体がソーシャルビジネスといえる金融機関の存在・役割や、クラウドファンディングのような新しい金融テクノロジーがあまり言及されていないことがやや残念ではありますが、何にせよ、実態を調査したうえで分析している考察は貴重です。
 いずれにしても、市民自身が社会的課題解決の主人公なのであって、融資を含む経営の問題も視野に入れてソーシャルビジネス事業者を支えていくことが求められているのでしょう。

■日本政策金融公庫  日本政策金融公庫論集
 https://www.jfc.go.jp/n/findings/kouko_ronsyu.html

0 件のコメント: