2017年2月27日月曜日

平成を生きる昭和世代

 三重県総合博物館(津市)で開催されている企画展「植木等と昭和の時代」に行ってきました。
 わしは年齢的には完全なドリフ世代で、クレージー・キャッツの全盛時代はまったく知らないのですが、テレビで渋い脇役として活躍していた植木さんはよく見ていましたし、「逆噴射家族」といったある意味で危ない作品にも出演する大物俳優、といった認識は持っていました。
 植木さんが三重県出身でありお父さんは僧侶だったというのも地元では有名な話で、大きな口でカッカッカッ!と笑う「無責任男」のイメージとはかけ離れた、生真面目で礼儀正しい紳士だったというエピソードも、まあそこそこ知られた話ではないかと思います。
 さて今回、わしが企画展に行ったのは、もう一つのテーマ「昭和の時代」に惹かれたからでした。これは先日、人材育成コンサルタントで(有)支縁塾社長の 大谷由里子さんの講演を聞く機会があったことが影響しています。

 大谷さんは大学卒業後、吉本興業に入社し、かの横山やすしのマネージャーとなります。横山やすしほど型破りで、他人に厳しく、自分に優しい人をそれ以前もそれ以後も見たことはないそうで、マネージャーだった2年間で他人への気配りや先読みして行動することがいかに大事かを叩き込まれ、エピソードにもこと欠かないそうです。しかし大谷さんが現在かかわっている平成生まれの若者世代は、そもそも横山やすしなど全然知らないそうで、その日のセミナーはわしも含めて聴衆のほどんどが中高年の男性だったので、講演のメインは自然と、いかに当世の若者とコミュニケーションをとったらいいのか、という内容になりました。

 例えば今春社会に出る22歳の若者は、ベルリンの壁崩壊を知りません。もちろん「ソ連」も「冷戦」も言葉すら知りません。オウム真理教の地下鉄サリン事件の頃に生まれ、中学生の時にリーマンショック、高校生の時に東日本大震災を経験しています。バブルの好景気を知らず、日本社会が常に退潮と悲観論に覆われていた世代です。物心ついた時から携帯やスマホがあるので、リアルなコミュニケーションしかなかった昭和世代とは対人距離の感覚が決定的に異なっています。

 こうした違いがあることを知り、そして認め、中年には常識であっても今の若者は本当に知らないということがいっぱいある ~会社にかかってくるお客からの電話は、非通知設定であっても出なくてはいけない、とか~ ことを前提にコミュニケーションしなければ、これからの組織は若者を活用できず、したがって社会のパフォーマンスは低下していく、という大谷さんのお話は実に説得力がありました。
 
 で、冒頭の「植木等と昭和の時代」に戻るのですが、わし個人の感想としては率直に言って「昭和」部分の掘り下げは物足りなく思いました。思いましたが、しかしそれはわしが昭和生まれでその時代をよく知っているが故の不足感かもしれず、若い世代にとっては、テレビはあんなに大きい木の箱だったとか、音楽はレコードをぐるぐる回して聞いていた、という程度でも十分な驚きなのかもしれません。
 何より、一番忙しい時は年間で十二本の映画を撮影したことがあって身体がフラフラだった、という植木さん自身の語りにもあったように、一般庶民の最大の娯楽は映画であり、テレビはまだ草創期で、ようやく一般家庭に白黒テレビが普及してきた時代だったことに驚くことでしょう。

 そんな意味では、植木さんという昭和の ~高度成長期の~ スーパースターの生い立ちや活躍を通して、その時代にあれこれ思いを巡らしてみるというのもいいかもしれません。

■三重県博物館 第14回企画展 植木等と昭和の時代
 http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/88903000001_00004.htm

 以下は蛇足。
 展示を見たわしが感じたのは、敗戦直後の占領軍(進駐軍)向けのジャズバンドからスタートし、映画、テレビへと活躍の場を移して大スターとなり、晩年は俳優として存在感を放った植木さんのキャリアに、彼が所属した芸能プロダクションである渡辺プロの役割が大きかった点にほとんど触れられていないことでした。
 それまで歌手やバンドマン、俳優の公演は、興行師や手配師が仕切る前近代的な仕組みでした。テレビ時代の到来をいち早く見越し、興行をエンタテーメントビジネスに改革したのが、植木さんと同じくジャズミュージシャン出身だった渡辺晋氏です。マネージャー制度とか、レコードやテレビ番組の自主企画、楽曲の権利化などはすべて渡辺プロが嚆矢となったもので、クレージー・キャッツはナベプロに所属していたがゆえに大スターとなった面があったのです。この「芸能界の近代化」に、もっと言及してほしかったと思います。(あと、展示の乙羽信子が音羽と間違っていたのも一カ所ありました。学芸員は若い人だったのかも?)

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