2017年3月4日土曜日

なぜインターネットは匿名文化なのか

読感】バグは本当に虫だった -なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話 水谷哲也著(ペンコム)

 パソコンの作業中に突然動かなくなる、あるいは特定のタイミングで特定のキーを押すとフリーズしてしまう。ユーザーにとっては泣きたくなるようなこうしたトラブルは、往々にしてソフトのプログラムに原因があって、それらは「バグ」と呼ばれます。
 バグという言葉は本来「虫」という意味なので、何万行、何百万行という膨大なソフトウエアのソースコードの中にうっかり入り込んだ誤植とかちっぽけなミスの比喩としてバグと呼ばれているのかと思ったら、本書によるとそうではありません。
 1950年代のコンピュータは電磁リレー式回路であり、稼働中は実際に内部でメカが動き大量の放熱がありました。このためしばしば虫が入り込んで機械が故障したのです。これがバグの語源だということです。


 20世紀最大の発明品といわれるコンピュータですが、その100年間の歴史の中で、活躍した様々な人物や、登場したマシン、ソフトウエアなどにまつわるエピソードが、素人でも気楽に読めるようまとめられた本が、この「バグは本当に虫だった」です。

 コンピュータは電子計算機と言われ、そもそもはミサイルの複雑な軌道計算のために開発された軍事技術だったのは有名な話ですが、わしにとってはパソコン、そしてインターネット技術についてのエピソードに関心がひかれました。
 本書によるとインターネットもそもそも軍事技術で、東西冷戦が緊迫化していた1961年に、アメリカ国内でテロ事件により電話回線が長期間、広域で不通になる事件が発生したことから、ミサイル迎撃システムといったアメリカ国防省の回線を、非常事態の際も維持するために、インターネットの原型となる「分散ネットワーク」の研究が始まったのが発端だったとのことです。

 その後、限られた回線容量の中で大量のデータを送るためのパケット技術が開発されますが、パケットでデータを送る際のルーティング技術は焼き芋(ホットポテト)型検索ルーティングと呼ばれているとか、世界で初めてホームページが作られたのは1990年で、スイスにある欧州原子核研究機構(セルン)だったとか、トリビア的な雑学がてんこ盛りに載っています。

 著者の水谷さんは自身が大学理学部でコンピュータを学び、銀行のオンラインシステムのような大規模なシステム開発やプロジェクトマネージャーを数多く歴任。現在は All About「企業のIT活用」ガイドやコンサルタント、大学講師として活躍しています。パソコンやインターネットの草創期もよく知っているので、わしにはほとんど知識がない昔のパソコン ~部品を買って自分で組み立てるのが当たり前だったとか、バックアップはカセットテープを使っていたとか、パソコン雑誌のマドンナだった理系女子大生とか~ の、マニアの方にはきっと懐かしいであろうエピソードも満載されています。
 このあたり、知っておいて特になるわけではないけど、あれやこれやがあって今に至っているという、方々に散らばっていた一滴が大河になったような、そんな世界観がわかって、それなりにためになります。

 中でもわしが興味深かったのは、日本でインターネットが始まった1992年(平成4年)は、ユーザーは実名で使っていたということです。
 これは東京大、東工大、慶応大を結ぶJUNETというネットで、参加しているのは大学教員や企業の研究者、技術者ばかりだったため、「ネットの中に悪さをする人はいない」という性善説が保てたからです。
 ところが、次第にインターネットが世間に広まって、従来あった「パソコン通信」との相互接続が行われるようになると、パソ通では常識だったハンドルネームでのログインが席巻するようになり、実名文化はなし崩し的に消滅していったとのことです。

 ただ、これはあくまで日本の話であり、ネットの本場のアメリカはどうだったのか、あるいは今やネット大国の中国や、インドではどうなのかはわかりません。海外でも匿名なのではないかと思います。(なので、ツイッターやフェイスブックのようにあえて実名を強調するネットワークが後発で生まれたのではないでしょうか?)

 一般的に、日本は安心社会、欧米は信頼社会といわれます。これはコミュニティが長期的な信頼性に基づいているかどうかの違いと考えられますが、ネットは世界共通で匿名文化なのか、国で違いはあるのか、そうだとすればそれはなぜなのか、という点はわしの疑問として残ります。
 本書の守備範囲ではないのですが、本書をきっかけにいろいろとそんなことにまで思いを馳せられたのでした。

はんわし的評価(★★☆) 気楽に読めてお勉強になる一冊

■水谷IT支援事務所  http://www.mizutani-its.com/index.html

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