2017年4月2日日曜日

原因ははっきりしていると思うが

 和歌山県田辺市に赴任された地域おこし協力隊員がこの3月いっぱいで辞任した、その経緯を説明しているブログが興味深く、ある意味で切ない内容なので共有しておきます。
 私はこの方(女性)と面識はないので、ざざっとブログ 熊野暮らし / Kumano Kodo World Heritage Life を読んだ以上のことはわかりませんが、「日本仕事百貨」によって田辺市が地域おこし協力隊員を募集していることを知り、大手広告代理店を辞め、夫を東京に残して移住することを決めたようです。理由は、それまでも漠然と、色々な原石が眠っている日本の田舎に移住し、ずっと続けられる「生産者としての仕事」をやってみたいと思っていたためだそうで、移住は40歳手前というタイミングだったそうなので、まさに「天の時」ということだったのでしょう。
 非常に思い切った転身ですが、ブログでその理由を、①地域おこし協力隊員としての移住なので給料や住み家があること、②地域の相談役がおり、仕事をしながら関係構築できること、③副業ができ、その副業を応援してくれること、と挙げています。


 しかし結果的には、残念ながら約半年でのリタイヤとなりました。ブログによると、移住した田辺市本宮町では、農家など地域の方々との関係は非常に良好。地域で朝市の運営やアマゴ養殖、わさび栽培を行っている団体で朝市の運営などに従事されていました。
 実際に朝市の運営に関わってみると、本来なら地域住民による委員会がもっと積極的に運営にかかわるべきところ、ほとんどの作業が協力隊員の仕事、すなわち行政の役割とされており、このままでは営利事業としての発展的な継続が見込めない状況でした。
 業務の改善について、地域支援員(市役所の担当職員)に提言を行ったりしましたが、地域支援員の本質は作業員であってビジネス視点を持つことはできず、その上司も含め「今までのやり方や業務は変える必要はないし、その気もない」ことが明らかとなります。

 それならと、休みの日を利用して、朝市では売れ残りがちな野菜などを都市部に通販する「熊野野菜セレクトボックス」のネット販売を始めたり、地域内にあるのにほぼ稼働していない加工所を使って「熊野野菜 孫思いすーぷ」を商品化したりといったことにも取り組みます。
 これらはそこそこ売れるようになり、市場での認知度も高まってきましたが、その矢先、当の田辺市役所から「これ(ネット販売など)は地域おこしの仕事ではない」と言われ、スープの製造販売も止めるように文書で指示されたのです。

 この隊員の方は、
 地域にはたくさんのいいものが眠っており、都会に知られていないものがたくさんある。これを今までとは違うアプローチで実施することが自分の業務ではないのであれば、地域おこし協力隊でいる必要はない。
 との考えに至り、今年3月いっぱいでの辞任を決断されたのです。(ただし、地域おこし協力隊は辞めるものの、もうしばらくは和歌山で生活していく予定とのことです。)

 大変意欲的に取り組まれていたのに、それが理解されることなく ~生産者や消費者には高く評価されたのに~ 現場を去らざるを得ない事態になったことは、わしのような部外者が見ても残念に思います。市役所側も言い分はあるのでしょうが、今回のような話は、実は全国的に問題になっており、一部のひどい自治体では地域おこし協力隊員は使い捨てのアルバイト要員扱い、逆に地域内で面倒を起こされると困るので何もしてくれるなのお客さん扱いで、「ブラック職場」であるという告発もネット上で話題になっています。

 このブログでは何度も書いているし、こうした結論にこの方も至ったようなのですが、
・地域(田舎)は、過疎化し、高齢化し、地場産業も衰退しているが、住民自身が困窮しているとは限らない。
・これは市役所や町村役場も同様で、社会やマスコミが騒ぐし、国や県がいろいろな支援策(地域おこし協力隊もその一つ)を作るので、必ずしも困っていないけど、やらないわけにいかないというケースが実在する。
・田舎で一番必要なのは地域住民の「和」であり、地域おこしにしろ活性化にしろ、従来の秩序や価値観に変革を迫るようなものは絶対に受け入れないか骨抜きになる場合が多い。
・しかし、地域の住民一人一人は善良で、温かく、本当に良い人たち、良いまちやむらである。こうした伝統的なコミュニティーに経済的合理性を当てはめるのは極めて困難で、地域おこし協力隊員個人の努力では限界が見えてしまう。
・地域おこしに関しては過去から類似の施策に山ほど取り組まれてきたが、行政は単年度主義で事業が終わればそれを検証することはない(PDCAがない)し、職員は数年で人事異動してしまうので、成功にせよ失敗にせよノウハウが市役所・役場に蓄積されない。
 というようなことになろうかと思います。

 わしのような地方自治体の職員からすると、県庁にしろ役場にしろ、税収だけで行政サービスを賄うことはできず、財源の多くは国からの地方交付税や、交付金、補助金に依存しています。しかも行政事務の内容は法令で定められ、各省庁から細かく指導を受けます。つまり、地方自治体は「受け身」でよく、長らくこの構造が続いてきたので、本質的な変革は何もしない(ゆえに、責任も取らない)ことが生き残る知恵であるという事実を認めないわけにはいきません。重たい話なのでブログでは書き切れませんが、国と地方の関係、官と民の役割分担の本質から議論しないと、地域振興という名の同じ話が無限にループして収拾がつかないのです。

 この方のブログが興味深いのは、地域おこし協力隊事業には国から市へ400万円の補助金が交付されるはずなのに、田辺市では実際には給料や住居費、活動費などに350万円しか使われなかったということが書かれていることです。
 これは(おそらく)、この経費が補助金ではなく地方交付税交付金に算入されているので、市役所の中で財政課と事業課(地域おこし協力隊事業の担当課)の綱引きがあり、事業課が満額を予算化できなかった結果ではないかと思います。国の施策の費用が一般財源化されているケースは多いので、財政課に中間搾取されるのは田辺市だけではないし、この事業だけではありません。しかし、実際に予算が足りないために、例えば東京で地域おこし協力隊の会合があっても、市からは交通費の予算がないと言われ、「ならば自費で行く」と言うと、それは問題になるので行かないでくれと言われてしまったのです。
 これは率直な問題提起で、今までの地域おこし協力隊の議論でもあまり明らかになっていなかった部分です。地方財政の研究者や実務家ももっと学理的に究明し世に問うべき課題だと感じます。

■はんわしの評論家気取り
 なんちゃって地域おこし(2016年6月21日)

 地域おこし協力隊、56%が多いか少ないか(2014年2月23日)

 (-。- )ふゥーなお話(2016年12月29日)

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