2017年4月22日土曜日

仏都・伊勢を往く(弘正寺編)上

 伊勢市など三重県伊勢志摩地方の米作りは台風来襲が本格化する前の9月ごろに刈り取りを済ませるスケジュールが多く、このため今の時期には田植え作業があちこちで見られます。
 わしがよく行くイオン伊勢店 ~三重県内にイオンが異常に多いのは創業地が三重県内で牙城であるため~ の裏から見ると、水を張った水田に霊峰・朝熊岳が映っていました。本当に美しい、わしが日本人で良かったと心から確信させてくれる景色でした。
 こんな感慨にしみじみ浸ったのは、数え切れないほど訪れているこのイオンのすぐ近くに、鎌倉時代の13世紀に名僧・叡尊(えいぞん)が創建し、隆盛を誇った 弘正寺(こうしょうじ) の跡地があることを最近初めて知ったからです。

 神と仏は同体と考える神仏習合はこの時代、伊勢神宮もふくめ社会に広く浸透していました。弘正寺は内宮の御祭神・天照大神の本地仏であると考えられていた大日如来をお祀りしているお寺だったのです。

 叡尊(1201~1290)は、法然や親鸞、日蓮といったいわゆる鎌倉新仏教の提唱者に比べて残念ながら有名ではありませんが、当時の仏教者に釈迦が唱えたはずの戒律を軽んじる風潮が見られたことに強い危機感を持ち、戒律厳守を提唱して、密教と戒律を兼修する「真言律」を創設した人物。また、社会的に疎外されていた階層を中心とした恵まれない人々に救貧施療活動を実践した、日本仏教界屈指の偉人、名僧です。
 荒廃していた奈良・西大寺を真言律宗の根本道場に再興すると、叡尊を慕う多くの若き仏教者が集まり、真言律は全国各地に広まっていきます。14世紀末には伊勢国にも17寺もの西大寺直末寺があり、中でも弘正寺はその筆頭という重要な位置づけでした。

 前置きが長くなりましたが、わしがイオン伊勢店のすぐ近く、JA伊勢支店四郷の隣接地に弘正寺跡を示す石柱があることを知ったのは前述のようについ最近です。松尾剛次山形大学教授の講演「新たなる伊勢中世史像の再構築」の講演録(皇學館史学第24号)を読んでいたら「楠部(町)のJAのあるあたりに・・・ぽつんと碑がたっていますので」という記述があり、ようやく知ったような次第だったのです。
 で実際に行ってみると。
 ありました。
 最初まったくわからず、JAの建物の裏の駐車場をうろうろうろうろ歩き回っていて、やっと目の前の植え込みの中に、本当にポツンと立っているのを見つけたのです。



 石碑の側面には
 真言宗に属し西大寺叡尊を中興の祖と伝え、もと興正寺と称した。再三の火災により寺域にも異動がある。明治初年廃寺となった。
 とあります。
 わしはてっきり弘正寺は大五輪の五輪塔があるあの辺りにあって、江戸時代には廃絶したと思っていたのですがそうではなく、江戸時代も続いてはいたようです。

 松尾さんによれば、弘正寺ができたのは1280年(弘安3年)。叡尊はいわゆる元寇の脅威が迫っていたころ、蒙古退散の祈願のために三回伊勢神宮に来て参籠しています。弘安3年は三度目に伊勢神宮に来た時期で、その際に一切経(大蔵経)を天照大神に捧げていますので、このタイミングに弘正寺が創建されたらしいとのことです。
 伊勢神宮・内宮を、密教でいう胎蔵界と、外宮を金剛界とみなす、いわゆる両部神道の思想に立ち、天照大神と一体と考えられた大日如来を祀っていました。
 時代が下って江戸時代、1742年(寛保2年)の境内図が残っており、それを見ると南面して門があり、中に入ると正面にお堂があって、東西には鎮守と地蔵堂、塔が、北側の別区画には庫裏や客殿などがあったとのことです。
 しかし、明治初年に廃仏毀釈により廃寺となってしまったことから、住職の子孫の家にいくつかが伝わっているほかは、仏像も文書も失われてしまいました。

■創建1250年記念 奈良西大寺展 叡尊と一門の名宝 公式サイト     
 http://saidaiji.exhn.jp/

2 件のコメント:

半鷲(はんわし) さんのコメント...

tadさま、メールアドレスがわかりませんので、コメント欄で回答いたします。
大五輪の五輪塔に関する松尾さんの文献を、わしは2つ知っております。
1)「中世律宗の死と文化」吉川弘文館
 叡尊や忍性を取り上げた本格的な著作だそうですが、専門書であるうえに県内の公立図書館になく、価格も2万円近くするのでわしは読んでいません。
2)「新たなる伊勢中世史像の再構築」(皇學館史学)
 皇學館大学の学術団体が発行している機関誌で、平成21年3月に発刊された第24号に収録されています。十数ページの読みやすい講演録で、わしのブログのタネ本です。皇學館史学はバックナンバーが三重県立図書館、伊勢市立図書館にあり、閲覧可能です。ちなみにこちらには五輪塔を管理しているという旧弘正寺住職の御子孫の名前が出てきます。tadさまはこちらのご近親者でしょうか?

半鷲(はんわし) さんのコメント...

tadさま、2つ目のコメントいただきました。これはここで公開してもよろしいのでしょうか。個人名も出ているので、もし望まれないのでしたら公開はしません。